公認会計士として監査法人で働いている方の中には、企業の経理職へ転職を考える方も少なくありません。しかし、監査業務と経理業務では仕事内容や求められるスキル、キャリアパスに大きな違いがあります。
本記事では、公認会計士が経理に転職するメリットやデメリット、必要なスキル、そして具体的な転職先について詳しく解説します。経理職への転職を検討されている方は、ぜひ参考にしてください。
公認会計士が行う監査業務と経理の仕事内容の違い
公認会計士として監査法人で働いている方の中には、経理職への転職を考える人も少なくありません。しかし、監査業務と経理業務では、求められるスキルや仕事内容が大きく異なります。転職を検討する際には、それぞれの業務内容の違いを理解し、自分のキャリアプランに合っているかを見極めることが重要です。
監査法人の公認会計士の業務
監査法人での公認会計士の主な業務は、財務諸表監査や内部統制監査を通じて、企業の財務情報の正確性をチェックすることです。具体的には、クライアント企業の財務諸表が会計基準に準拠しているかを判断します。業務の特性上、第三者としての独立性を保ちながら、指摘や助言を行うことが求められるため、経営判断には直接関与できないという側面もあります。
また、監査業務では、決算期ごとの繁忙期があり、短期間で大量の監査業務をこなす必要があります。クライアントごとに対応が異なるため、柔軟な思考力やリスクアプローチが求められます。
経理の業務
一方、経理は企業の内部で、財務データの管理や会計処理を行い、経営判断に必要な情報を提供する役割を担います。具体的には、売上や仕入れ管理、税金の計算、決算書作成など、企業活動に必要な会計実務や処理を行います。
監査が企業の財務諸表チェックする立場であるのに対し、経理はそのデータを作り、経営層に提供する側に立つ点が大きな違いです。
また、経理の仕事はルーチンワークが多い一方で、企業によっては、経理部と財務部を兼ねていることもあり、財務戦略や資金調達に関与するチャンスもあります。監査業務と比べて、より経営に近い視点で働くことができる点が魅力です。
監査法人の公認会計士と経理の年収の違い
監査法人で働く公認会計士と企業の経理職では、年収にも違いがあります。公認会計士として監査法人に勤務する場合、監査業務に関する専門性が評価され、比較的高い年収が得られる傾向にあります。一方で、経理職は企業の規模やポジションによって年収が大きく異なります。
監査法人に勤務する公認会計士の平均年収は約922万円とされています。職位ごとの年収レンジは以下の通りです。
- スタッフ職:600~750万程度(残業代込み)
- シニアスタッフ:800~950万程度(残業代込み)
- マネージャー:1,000万円前後
- パートナー:1,500万円以上
監査法人では年次が上がるにつれて年収も大きく増加し、特にマネージャー以上の職位になると1,000万円を超えるケースが一般的です。また、パートナーまで昇進すれば、年収は1,500万円~2,000万円を超えることもあります。
一方、事業会社の経理部門で働く公認会計士の年収は、企業規模や業界、役職によって異なります。
- 一般的な経理職の平均年収:500万円
- 公認会計士資格を持つ経理職の平均年収:750万円以上
経理職としての年収は、監査法人のシニアスタッフと比較するとやや低めですが、CFO(最高財務責任者)や経理部長などの管理職に昇進すれば、1,000万円以上の年収を得ることも可能です。特に上場企業のCFOや外資系企業の経理責任者になると、監査法人のマネージャークラスと同等以上の収入を得ることができます。
公認会計士が経理職に転身する際の転職先
公認会計士が経理職に転身する際、主に転職先として考えられるのは、上場企業、ベンチャー企業、外資系企業の3つの選択肢です。それぞれの環境によって求められるスキルや業務の内容、キャリアの広がり方が異なるため、自身のキャリアプランに応じて適した企業を選ぶことが重要です。以下では、それぞれの企業の特徴やメリットについて解説します。
上場企業
上場企業の経理職は、公認会計士の経験を活かしやすい転職先の一つです。特に、決算業務や開示業務、監査法人対応など、監査経験を持つ公認会計士が即戦力として活躍できる場面が多くあります。
上場企業の経理部門では、四半期・年度決算の作成、連結決算、IR(投資家向け広報)、内部統制の整備など、多岐にわたる業務を担当します。監査法人での経験がある公認会計士は、財務諸表の正確性を確保する能力や監査対応の知識があるため、企業の財務部門にとって貴重な存在となります。
また、上場企業では財務経理の専門性を高めることができるだけでなく、将来的に経理部長やCFO(最高財務責任者)へのキャリアアップの道も開かれています。安定した環境の中で専門知識を深めつつ、管理職や経営層を目指したい方に適した転職先といえます。
ベンチャー企業
ベンチャー企業の経理職は、少人数の組織であることが多いため、一人が幅広い業務を担当するケースが一般的です。日常的な経理業務から財務戦略の立案、資金調達、M&A対応など、幅広い業務に関与できる点が特徴です。
監査法人で培った財務の専門知識や内部統制のスキルを活かし、企業の成長を支える重要なポジションとなります。特に、IPO(新規株式公開)を目指す企業では、上場準備のための内部統制の構築や監査法人との調整、財務報告の精度向上が求められ、公認会計士の知識が重宝されます。
また、ベンチャー企業では業務の裁量が大きく、スピード感を持って働ける環境が整っています。経理業務だけでなく、経営層と近い距離で事業の成長を支える役割を担いたい方にとって、やりがいのある転職先となるでしょう。
外資系企業
外資系企業の経理職では、国際会計基準(IFRS)や米国会計基準(USGAAP)に準拠した財務報告が求められるため、公認会計士の知識が活かせる場面が多くあります。
外資系企業では、グローバルな視点で財務管理を行うため、本社とのコミュニケーションや海外拠点との連携が不可欠です。そのため、英語力が求められることが多く、監査法人での国際会計の知識に加え、語学力があるとキャリアの幅が広がります。
また、外資系企業では成果主義が採用されているため、実力次第で昇給や昇進のチャンスが多い点も魅力です。給与水準も比較的高く、特に外資系金融機関やコンサルティング会社では高収入が期待できます。一方で、日系企業と比べて業務の効率化が求められ、プロフェッショナルとしての高いパフォーマンスが求められるため、専門性を持って働きたい方に向いています。
公認会計士が経理として働く際に必要なスキル

公認会計士が経理職に転職する際、監査業務の経験を活かせる部分が多くありますが、経理としての業務をこなすためには新たに身につけるべきスキルもあります。監査法人で培った知識や経験を活かしながら、企業内部の経理業務に適応するためには、以下のスキルが重要です。
会計基準への理解
公認会計士は、監査業務を通じて日本会計基準(JGAAP)、国際会計基準(IFRS)などに精通していますが、経理職ではこれらの基準を実際に適用して財務諸表を作成する立場になります。そのため、監査時のチェックの視点に加え、企業の業種や事業戦略に応じた会計処理の選択や適用の判断が求められます。
特に、上場企業や外資系企業ではIFRSの導入が進んでいるため、これらの会計基準を正確に理解し、適用できるスキルは大きな強みになります。また、企業によっては税務申告業務も担当するため、法人税や消費税の基礎知識も不可欠です。監査業務では税務業務に直接関わる機会が少ないため、転職後は実務を通じて税務の知識を深める必要があります。
コミュニケーション能力
経理職は、監査法人の公認会計士とは異なり、社内外のさまざまな関係者と連携しながら業務を遂行する必要があります。特に、経営層、各事業部門、監査法人、税理士との調整が多く発生するため、適切なコミュニケーション能力が求められます。
例えば、経営層に対しては、財務データをもとにした経営判断のサポートを行う場面が増えます。その際、単に数字を提示するだけでなく、分かりやすく説明し、意思決定に役立つ情報を提供するスキルが重要になります。また、監査法人とのやり取りでは、監査対応をスムーズに進めるために、適切な資料を準備し、監査意見の確認や調整を行う力が必要です。
さらに、部門横断的な業務も多く、営業や人事、購買部門と連携しながら財務データを管理する機会もあるため、社内調整力を高めることが求められます。監査業務ではクライアントとのやり取りが中心でしたが、経理職では社内の円滑な業務遂行のために、より密なコミュニケーションが求められるのです。
細部までの正確性
経理の業務では、日々の仕訳処理や決算業務、税務申告、資金管理など、正確なデータ入力とチェック作業が不可欠です。少しのミスが会社の財務に大きな影響を与える可能性があるため、細部まで注意を払う力が求められます。
公認会計士は監査の過程で、クライアントの財務諸表の整合性をチェックするスキルを身につけていますが、経理職ではそれに加えてミスを未然に防ぐための仕組みを整える必要があります。たとえば、経理フローの標準化、チェック体制の構築、会計システムの活用などを通じて、業務の正確性を向上させることが重要です。
また、税務申告や財務報告の際には、細かい数値の計算や帳簿の整合性を確認する作業が発生します。税務監査や外部監査の際に指摘を受けないよう、日頃から細かいデータのチェックを徹底することが求められます。
公認会計士が経理に転職するメリット
公認会計士として監査法人で働いていると、激務や繁忙期の長時間労働が続き、ワークライフバランスを維持するのが難しいと感じる方も多いでしょう。そうした背景から、企業の経理職への転職を検討する公認会計士が増えています。
経理に転職することで、ワークライフバランスの向上や福利厚生の充実を享受できるだけでなく、企業の財務戦略に深く関与できるメリットもあります。ここでは、公認会計士が経理に転職する主なメリットについて解説します。
ワークライフバランスを向上できる
監査法人で働く公認会計士は、特に繁忙期(決算期)に長時間労働を強いられることが一般的です。上場企業や大企業の監査を担当すると、クライアントの対応に追われるだけでなく、品質管理や内部調整の業務も増え、結果的にプライベートの時間が削られることも少なくありません。
一方、企業の経理職では、決算期を除けば比較的安定した勤務時間で働くことが可能です。特に日系企業の経理部門では、年間のスケジュールが明確に決まっているため、業務の見通しが立てやすいというメリットがあります。また、リモートワークを導入している企業も増えており、フレックスタイム制度を活用すれば、家庭やプライベートとの両立も実現しやすくなります。
そのため、監査法人でのハードワークに疲れ、より安定した働き方を求める方にとって、経理への転職は魅力的な選択肢となるでしょう。
福利厚生が充実する
監査法人も福利厚生が整っている職場ですが、企業の経理職に転職することで、さらに充実した福利厚生を享受できるケースがあります。特に上場企業や大手企業の経理職では、住宅手当、企業年金、育児支援、確定拠出年金制度(DC)、健康診断の補助など、長期的なキャリアを支える福利厚生が手厚く用意されています。
監査法人の場合、繁忙期には休日出勤が発生することもありますが、企業の経理職では土日祝休みが確保されているケースが多く、有給休暇の取得率も比較的高いため、ワークライフバランスの向上とともに、働きやすい環境が整っています。特に、家族を持っている方や、将来的に安定した生活を重視したい方にとって、企業の福利厚生は大きなメリットとなるでしょう。
また、経理職は企業にとって欠かせないポジションであり、長期的に働き続けられる環境が整っているのも魅力の一つです。特に、40代・50代になってもキャリアを継続しやすい職種であるため、安定したキャリアを築きたい方に適しています。
企業の会計を内側から関われる
監査法人では、クライアントの財務諸表を監査し、外部の立場から経営状況を確認することが主な業務です。しかし、企業の経理職に転職することで、財務報告だけでなく企業の会計を内側からコントロールし、経営に直接関与できるようになります。
例えば、以下のような業務を通じて、監査法人時代とは異なる視点で企業に貢献できます。
- 財務戦略の立案:企業の資金繰りや投資判断に関与し、経営戦略を支える役割を担う。
- コスト管理・収益分析:事業の利益率を向上させるための財務分析や改善策の提案を行う。
- M&A・事業再編のサポート:買収や統合のプロセスにおいて、財務デューデリジェンスの経験を活かして企業の意思決定を支援する。
- IPO準備:未上場企業の上場準備に関与し、内部統制や財務報告の強化を担当する。
このように、企業の財務・会計を内部から支えることで、経営層に近いポジションで活躍することができます。特にCFO(最高財務責任者)や経営企画部門へのキャリアアップの道も開かれているため、長期的な視点で経理職への転職を考える価値があります。
公認会計士が経理に転職するデメリット

公認会計士が経理職に転職することで得られるメリットは多いものの、一方でいくつかのデメリットも考慮する必要があります。転職を成功させるためには、事前にデメリットを理解し、自身のキャリアプランに照らし合わせて適切な選択をすることが重要です。ここでは、公認会計士が経理に転職する際の代表的なデメリットについて解説します。
転勤の可能性がある
企業の経理職に就くと、会社の組織体制や人事異動の方針によって転勤が発生する可能性があります。特に大手企業や上場企業では、本社だけでなく地方拠点や海外拠点の財務管理を担当するケースもあり、転勤が避けられない場合もあります。
監査法人に所属している間は、クライアントごとに異なる場所で業務を行うことはあっても、基本的に勤務地は固定されていることが多いです。しかし、企業の経理職では、人事異動の一環として転勤が発生することがあるため、家族がいる方や勤務地を固定したい方にとってはデメリットとなる可能性があります。
ただし、企業によっては転勤を避ける選択肢も用意されている場合があるため、転職活動の際に事前に確認しておくことが重要です。
年収が下がる可能性がある
公認会計士として監査法人に勤務している場合、比較的高い年収が保証されているケースが多いですが、経理職に転職すると年収が下がる可能性があります。
監査法人の公認会計士は、アソシエイトクラスでも残業代込みで600~750万円、シニアで800万円以上、マネージャークラスになると1,000万円を超えることが一般的です。一方、経理職の年収は企業の規模や役職によって異なりますが、一般的な経理担当者の年収は500万円〜700万円程度であり、監査法人の水準と比べると低くなることが多いです。
ただし、経理職として経験を積み、経理部長やCFO(最高財務責任者)に昇進すれば、1,000万円以上の年収を得ることも可能です。そのため、短期的な年収の変動ではなく、長期的なキャリアパスを考えて転職することが重要となります。
より細かい作業が増える可能性がある
監査法人での業務は、クライアントの財務諸表をチェックし、リスクアプローチに基づいて重要なポイントを分析することが中心です。そのため、全体の財務データを俯瞰的に見るスキルが求められますが、経理職に転職すると、日々の仕訳入力や伝票処理、税務申告など、より細かい作業が増える可能性があります。
経理職では、日々の記帳業務や決算資料の作成、社内の経費精算の確認など、ルーチンワークが多くなりがちです。監査法人では大局的な視点で業務を進めていた公認会計士にとっては、細かい作業が負担に感じることもあるかもしれません。
ただし、企業の規模によっては、経理部門が細かく分業化されていることもあり、決算業務や財務分析などの専門的な業務を担当できる場合もあります。そのため、転職前にどのような業務を担当するのかを確認し、自分の適性に合ったポジションを選ぶことが大切です。
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まとめ
公認会計士が経理職に転職することで、ワークライフバランスの向上、福利厚生の充実、経営への深い関与といったメリットを得ることができます。一方で、転勤の可能性や年収の変動、より細かい業務への適応など、いくつかのデメリットもあるため、慎重な判断が求められます。
転職を成功させるには、自身のキャリアの方向性を明確にし、適切な転職先を選ぶことが重要です。監査法人で培ったスキルを活かしつつ、経理職として新たなステップを踏み出すために、転職の専門家と相談しながら進めることをおすすめします。
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