「転職の目的は、独立に向けたキャリアアップでした。僕が目指すのは専門性を極めた会計士ではなく、幅広い知識と経験を持つ“オール80点の会計士”。だから、中小の事務所で経験を積みたいと考えたんです」と話すのは、西田邦紘さん。
公認会計士試験に合格後、有限責任あずさ監査法人で4年半、主に監査業務を担当。その後、29歳のときに現職である株式会社ストリームに転職しました。
現在、上場準備会社に常駐してIPO支援を行っている西田さんは、「大手監査法人での経験は今に生きている」と言います。その転職活動の思いとは? 現在の業務内容とやりがい、目指す会計士像とともにお聞きしました。
――現在までの簡単なご経歴を教えてください。
公認会計士、税理士という職業を知ったのは、高校時代。学校でさまざまな職業の人の仕事について聞く機会があり、地元で事務所を経営する税理士の方の話に魅了されたんです。もともと独立願望があったし、数学と人と話すのが好きな自分に向いているんじゃないかなと思って。
その後、大学を卒業した翌年に会計士試験に合格。あずさ監査法人に入社し、初めの3年半は金融機関の監査業務を担当していました。その後はIPO事業部との兼務で、上場準備企業の監査、短期財務調査を担当。15年9月にストリームに転職し、もうすぐ3年が経とうとしています。
――大手監査法人からの転職を考えたのはいつですか?
そもそも、ずっと監査法人にいるつもりはなかったんですよ。転職を考えたのは、監査法人に入ってから2年半が経過したタイミングでした。独立を見据えて、もっとクライアントと近い距離で、もっと幅広い業務に携わりたいと考えました。
ただ、転職面接を何件かしてみたものの、「一緒に働きたい」と思える人になかなか出会えなくて……。そのころ上司から別部署との兼務を提案され、お引き受けすることに。1年間兼務したのち、やはり監査法人の中での業務には限界があると感じ、再び転職活動を始めました。
――転職活動中は、どんなことを考えていましたか? 不安や悩みはありましたか?
転職するかどうかは、かなり迷いました。監査の仕事が嫌いなわけではありませんでしたし、尊敬できる上司、刺激的な同期に恵まれていたこともあって、監査法人にいたほうがいいのではと考えたこともあります。
一方で、別の道にチャレンジしたい自分もいた。お客さんと話し合いながら何かを一緒に作っていったり、お客さんを直接的にサポートしたりする仕事には大きなやりがいがあるのでは、と。
それに、僕の場合はもともと目指す会計士像があったんですよ。僕が目指すのは、幅広い知識と経験を持つ“オール80点の会計士”。最終目標は、経営者が会計税務に関する日々の悩みを何でも相談できて、一緒に解決できる会計士なんです。
偉くなりたいわけでも社会的地位が欲しいわけでもめちゃくちゃに稼ぎたいわけでもなく、身近な相談役としてお客さんに必要とされ、楽しく働きたい。商店街にある家族経営の会社で顧問になって、『お茶でも飲んで行き』と1時間ぐらいしゃべって帰る。高校時代に思い抱いたのは、そんな将来像でした(笑)。
そんな目標に向け、部署の垣根なくいろいろな業務をできる中小の事務所で、クライアントの近くで仕事をしたいと考えるようになりました。
――その中で現在のストリームに入った決め手は?
一番の決め手は、代表の2人との面接で変な緊張感なく会話が弾んだことでした。もちろん業務内容も申し分ないと考えていました。
――現在は、どんなお仕事をされているのですか?
主に、上場準備をしている企業での常駐支援を2社担当しています。上場するにあたり、改善が必要な事項が監査法人や証券会社から提示されます。それに対する改善案を提案し、実際に手を動かしてサポートしています。また、自らも課題の洗い出しを行っており、それに向けた改善作業を行っています。
株式上場にあたって、クリアすべき多数の課題があります。それらすべてについてボトルネックになっている箇所を可視化し、改善策を探っていきます。対経理担当者だけでなく、営業やシステムなど取引にかかわる別部署も含めてオペレーションの改善をする場合も少なくありません。
準備をしたら、次は運用です。運用フェーズでは人に動いてもらわないといけないため、難しさもあります。統制を置くと業務が増えがちですし、特に10年、20年と慣れたやり方がある場合、受け入れづらい気持ちにもなりやすい。
ですから、オペレーションの改善の際は、なるべく会社負担にはならない形で考えるようにしています。なるべく手間を増やさずに最低限で済ませる方法を模索するのは、大変ですが楽しいですよ。
そのほかは、税務顧問、常駐企業以外の内部統制の支援と内部監査の支援。スポット業務で株価算定や決算支援をすることもあります。
――どんなときに自分が能力を発揮できていると感じますか?
やはりお客様と、ああでもないこうでもないと話をしているときですね。IPO準備にかかわっていると多くの人と話せるので、結果として今の業務が自分に向いているとも感じるようになりました。
現在の業務には、監査法人での経験も生かされています。会計監査の過程で監査法人が何を見るかがわかるため、オペレーションを改善する際もチェックされるポイントの検討がつくんです。監査法人が監査のときに決算書のどのあたりの数字を見るかがわかるのも、強みだと思います。監査法人にとっては嫌な担当者だと思いますが(苦笑)。
――反対にクリアするのが難しかったのは?
まだまだクリアできていませんが、会社ごとに人も違えば業務内容も違うので、別の会社で通用した“正解”が通用しないことですね。答えがあるようでないから、「これって本当に会社のためになっているのかな?」と悩ましい。
請求書のとりまとめ一つとっても、経理の業務にしておくのが効率的なのか、簡単なシステムを入れて各部署が請求内容を入力するのが効率的なのか、やってみないとわからない。結局、やってみたら前者のほうが効率的だったりして、何かを変える際は判断に迷うこともあります。
――印象的な仕事のエピソードを教えてください。
以前、週5日で常駐していた会社で、外注でありながら1人の社員のように働かせてもらったことです。ある程度の裁量を持たせていただき、経理マネージャーのような立場で経理の実務のほとんどを担当していました。自分の席もありましたし、仕事終わりには飲みに行ったりもしていて。監査法人とはまったく違う手ごたえを感じられる体験でした。
実務面では、証券会社対応や株主対応がいい経験になりました。知見が他の企業にも展開できるため、「他社だったらこうしています」と自信を持って話せるようになりました。
――仕事のやりがいについて、前職と比較して教えていただけますか?
監査法人では、優れた上司の方々と一緒に仕事ができることにやりがいを感じていました。現在は、クライアントを近くに感じながら働けることが一番のやりがいです。
ありがたいことに、担当した企業さんに「うちに来てほしい」と言われることがあります。「来てほしい」という言葉は「一緒に働きたい」という意味ですよね。業務だけでなく人間性も認めてもらえるような仕事ができたのかもしれないと思うと、よかったなと思えるんです。
――転職を検討している会計士へアドバイスをお願いします。
転職の際は、どういう自分になりたいか、どういう会計士になりたいかのイメージを持っておいたほうがいいと思います。それがぶれなければ、業務内容が変わっても楽しく仕事ができるのではないでしょうか。
「この仕事が嫌だから」といったネガティブな理由だけで転職すると、次の職場に行っても「本当によかったのか?」と毎日、自問自答することになる気がします。
会計士として幅広い業務に携わりたいのであれば中小のコンサルティングファームがいいし、事業内容に魅力を感じるなら事業会社に行ってもいい。専門性を極めたいと思っているなら、監査法人も含めた大手のコンサルティングファームへ行くという選択もある。それを決めるのは、自分がどういうキャリアを積みたいかという軸なんだと思います。
<プロフィール>
西田邦紘さん
株式会社ストリーム/税理士法人ストリーム 公認会計士。関西学院大学卒業後、2010年11月に会計士試験に合格。2011年2月、有限責任あずさ監査法人に入社。2015年9月より現職。