PEファンド側から見たFAS業界出身者の魅力


M&Aにかかわるプレーヤーの一つに、投資ファンドがある。なかでもBIG4系FAS会社や中堅のM&AファームといったFAS業界の企業と関係が深いのは、PEファンド(プライベートエクィティーファンド)。未公開会社を取り扱う投資ファンドだ。

近年のPEファンドは、どんな投資案件にかかわり、どんな業務フローで動いているのか。PEファンドに転職する際のFAS業界出身者の魅力とは? ニューホライズンキャピタル株式会社の佐藤隆司(さとうりゅうじ)さんに伺った。

■PEファンドの業務フロー
――近年のPEファンドが関わる投資案件の傾向を教えてください。

ここ数年は、事業承継のM&A案件が圧倒的な勢いで増えています。また大企業のカーブアウトによるM&A案件も、変わらず一定のボリュームがあります。リーマンショック後に多かった、法的整理・私的整理がともなうような事業再生の案件は、以前ほどの数はないですね。

投資時に関して言えば、事業再生案件の場合はどうやってバランスシートを立て直すか、つまりいかに金融調整をするかがポイントでした。一方で、事業承継案件は、売り手のニーズにどう応えるかに重きが置かれます。「単純に株式を売却したい」というだけでなく、「しばらくは経営に関与していきたい」「自分で育てたスタッフや役員、部長さんたちの待遇は変えたくない」など、売り手によってさまざまなニーズがあるからです。

――PEファンドの仕事は投資を実施するときのイメージが強いですが、実際はどのような業務フローなのでしょうか。

PEファンドの業務は、大きく2つに分けられます。1つ目は投資プロセス、2つ目は投資プロセスを支える業務。ファンド運営会社の多くのメンバーはどちらの業務にもかかわります。例として、弊社でのそれぞれの業務のおおまかな流れを追ってみましょう。

【1】投資業務
(1)ソーシング=案件サーチ(投資先企業の発掘)
(2)案件の初期的検討
(3)候補企業のデューデリジェンス、売り手側との交渉、必要な場合は金融機関との調整
金融機関との調整では、事業承継やカーブアウトならばLBOを活用するか、活用しない場合は既存のレンダー(調達先金融機関)とどう付き合っていくかが論点になる。オーナー企業の場合、個人への信用が借り入れの前提となるケースが多いため、オーナーチェンジ後は借り換えやメインバンクの変更も起こりうる。
(4)クロージング、投資実行
(5)バリューアップ(企業価値の向上)
3~5年間、投資先の株式を保有し、売上や利益の拡大はもちろん、ガバナンスやコンプライアンスなど数字に表れない部分まで改善を行う。他に、従業員のモチベーションアップ、地域社会とのつながり、ブランドイメージの向上なども。
(6)エグジット
投資先企業の売却。グループ化したいという事業会社と一対一で話すこともあれば、M&A仲介業者を通して買い手を広く求めることもある。

【2】投資業務を支える業務
・ファンドレイズ(投資家を集める業務)
・IR(投資家とのリレーションを継続的に行う業務)
・アカウンティング、ディスクローズ
投資家から投資資金を募ることは、投資業務と同様にPEファンド運営の根幹をなすといえる。そのためにはファンドレイズ活動、IR活動、またファンドの投資活動の成果を投資家に報告をするためのアカウンティングとディスクローズの各業務が必要。
・総務、人事といったバックオフィス業務

 

■PEファンドから見たFAS業界出身者の魅力
――PEファンドとFAS業界は、どういった関係なのですか?

FAS業界の会社には、各業務フェーズでお世話になっています。各フェーズでの役割は、下記のとおりです。

(1)ソーシングの際の売り手企業の紹介
ソーシングのフェーズでの紹介。FAS業界の会社が売り手企業から委託を受けていて、買い手候補として案内を受け、投資検討が始まる。
(2)候補企業のデューデリジェンス
次に、PEファンドが投資先候補としている企業について、デューデリジェンスを委託する場合。株価のバリュエーションを委託するPEファンドもある。
(3)バリューアップの支援
バリューアップのフェーズで、投資後の事業計画の作成支援を依頼することがある。専門性の高い分野だと、FAS会社の専門家に経営方針や予算策定といったバリューアップ自体の支援も。
(4)エグジットの際のアドバイザー
FAS会社のグループ会社には、エグジットの際にアドバイザーとして入ってもらうケースも。買い手候補の企業を探してもらったり、入札になったときのコントロールの窓口になってもらったりする。また、売却対象会社を買い手候補に説明するための資料作成も委託するケースがある。

―PEファンドにキャリアチェンジしたい場合、FAS業界出身者の強みとは何だと思われますか?

まず、PEファンドの業務についての理解が深いこと。BIG4系FAS会社やコンサル機能を持った中堅のM&Aファームの場合、投資からバリューアップ、エクジット(投資先の売却)までの支援業務をしていますので、PEファンドの業務であるM&Aの全体のプロセスを理解していることが期待されます。売買以外の、例えば対象会社のキーマンは誰か、買収後のバリューアップのためにどういう人材が必要かといったレベルでの会話も成立します。M&Aの売買取引そのものにしか関わる機会がない場合、残念ながらこうはいきません。

次に、さまざまなM&Aで売り手側、買い手側のアドバイザーを務めている点。例えば、売買の際の交渉は、事業再生と事業承継、カーブアウトでは相手がまったく違う。事業再生ならば金融債務の債権者である金融機関が交渉相手ですし、事業承継は100%の意思決定者である創業オーナーが相手になる。カーブアウトであれば、売り手である大企業が相手です。それぞれのケースで売り手が何を重視しているか、買収後の経営方針を含めどのようなスキームを提示すればいいかという判断には、アドバイザーの業務経験が生かされるでしょう。

FAS業界出身の会計士、税理士の場合は、投資検討時に会計税務の基礎知識があることもアドバンテージになります。会計・税務を考慮した買収スキームの提案も行ってほしいですね。数字に関しての理解の速さだけでなく、戦略コンサルティングファームや事業セクターの専門家が提供する対象会社の活動している市場の全体観から、市況がその企業にとってどう影響するのか、研究開発投資・設備投資にいくらかかり、利益はどれぐらい上向いていくといった対象会社の計画評価が精緻に行えることも期待しています。

会計士、税理士の方には、投資後の会社の内部管理の改善にも携わってもらいます。オーナー企業の事業承継をする場合、創業経営者の勘でうまく行っていた業務についてシステムを作っていかなければいけません。弊社の言葉でいう経営者の「数字の見える化」です。原価計算制度や税理会計を精緻化して、別の人でも経営ができるように整えていかなければいけませんから。

もちろんアカウンティングやディスクローズ資料の作成は、そもそも会計税務の専門家でないとできない仕事です。

BIG4系FAS会社出身者であれば、ネームバリューを背負って仕事をしてきたことに対する安心感もあります。

――具体的に、御社ではFAS業界出身者はどのように活躍されているのですか?

オールラウンダーな活躍に期待しています。投資の資料作りや情報収集、投資実行中の数字の見える化と事業改善活動、売却の際のディスクローズ、IRにおける投資先会社の説明まで、FAS業界出身の会計士はしっかりやってくれています。

――最後に、PEファンドからのキャリアパスについて教えてください。

まず、独立する会計士が一定数います。独立してM&A仲介業を行いつつ、売り手・買い手のアドバイザーになったりするパターン、会計・税務顧問をメインの仕事としてスポット的にM&Aのアドバイザーの仕事を請け負うパターンなどがあります。

事業会社のM&Aを担当する事業部に入る人もいます。投資先企業に、管理部門の責任者として入る人もいますね。担当していた投資先企業を売却する際、経営者に気に入られて一緒にくっついていくケースです。それから、もちろんPEファンドでのキャリアップをされていく人もいます。大きなキャリーの分配があるといいですね(笑)。

PEファンドでの業務は、一般的には投資フェーズの業務内容だけを連想されがちです。しかし、投資プロセスを支える業務も含めて広く関わっていただきますので、FAS業界出身者が活躍するフィールドは非常に広いと思います。

会計・税務の専門家としてFAS業界でM&Aに携わり、その経験を生かして戦略コンサルタント、投資銀行、事業会社などの出身者とチームを組むことは、PEファンドでないとなかなかできない経験ではないでしょうか。

FAS業界出身者のキャリアパスは、多岐に渡ります。キャリアパスの一つとして、PEファンドでの業務に興味を持ってくれる方がいればうれしいですね。

<プロフィール>
佐藤隆司(さとうりゅうじ)さん

ニューホライズンキャピタル株式会社 パートナー・公認会計士。大学卒業後、1996年に有限責任あずさ監査法人入社。2006年、ニューホライズンキャピタル株式会社入社。2012年より現職。

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