コーポレートファイナンスの深い知識が身につく、バリュエーション業務の魅力


TAS/FAS (トランザクション/ファイナンシャル・アドバイザリー・サービス。財務・会計に関する専門的な助言を実施するコンサルティングサービス)業務のうち、バリュエーションに絞ってキャリアを選択してきた小松夕月さん。企業価値の評価に携わる面白さについて話を伺いました。

 

――バリュエーション業務に携わるまでの、これまでのご経歴を教えてください。

大学卒業後、BIG4(EY、PwC、KPMG、デロイトの大手会計事務所)のタックスチームに入り、移転価格税制を1年担当しました。その後、EYで同じく移転価格業務を3年間担当してから、事業会社で実践的な経験を積もうと考えゲーム会社に転職。そこでプロジェクトマネジメントを経験し、実務において移転価格以外の専門知識も不可欠であると痛感したことで、キャリア転向を考えるようになりました。

コーポレートファイナンスをより深く学べて、幅広いビジネスの知識がつくのは企業価値の評価業務だと思い、2018年3月にEYのメンバーファームで、M&Aトランザクションに特化をしている、EYTAS(EYトランザクション・アドバイザリー・サービス株式会社)のバリュエーション・モデリング部門(VME:バリュエーション、モデリング&エコノミクス)に参加しました。

――バリュエーション部門の具体的な業務内容について教えてください。

大きく四つの業務内容があります。

一つ目は、M&Aにおいて、買収価格の取り決めをする際に行うコーポレートバリュエーション。M&Aの初期段階で買い手または売り手側と交渉する際の価値査定なので、両者の交渉に影響を及ぼす可能性があります。

二つ目は、M&Aのディールがクローズした後、企業統合を行う際に行うバリュエーションです。通常、「会計目的バリュエーション」または「PPA」※PPA(パーチェス・プライス・アロケーション ※M&Aにおける買収対価(買収価額)を、買収対象企業の資産および負債の基準日時点における時価を基礎として、買収対象企業の資産および負債に配分する手続き)と呼んでいます。会計目的バリュエーションは、仮に買収された企業の取得価格が1億円であれば、その取得価格をどの資産にいくら配分し、のれん(※企業が有するノウハウ、立地等、代替できない無形の価値のこと)が最終的にいくら計上されるのかを算定する業務です。

三つ目は、ビジネスモデリングであり、クライアントとともに投資判断に必要なシミュレーションモデル、プロジェクトファイナンス等のキャッシュフローモデル、および社内管理用の各種モデルを策定する業務です。

最後に、メンバーファームの監査法人から依頼される他社が算定した株式、または無形資産評価の前提条件、および算定手法が妥当かどうかをレビューする業務があります。

――バリュエーション業務の難しさ、面白さとは?

バリュエーションの醍醐味の一つとして、日々の業務において、案件ごとに対象企業と所在する業界が異なり、常に新しい情報と知識をインプットできる点だと思います。企業の事業内容、マーケット状況を確認し、マクロな視点とミクロの視点から対象会社を分析していくとともにビジネスの現状を把握し、細かな事業と収益構成まで知れるのは、学ぶ意欲の高い方にとっては非常に刺激的です。バリュエーションは、業界全体の今後の成長も予測して評価に含めるため、世の中の動きを予測できる面白さもあります。

また、会計目的バリュエーションを例に、その企業がどういった目的のために対象企業を買収したのか、ということをきちんと捉えることが大切かと思います。そのためにヒアリングを細かく網羅的に進めていきます。例えば、買収先の会社の“技術”を高く評価して買収している場合、その技術は無形資産としていくら計上されているのかを算定する必要があります。更に、想定した以外の無形資産も識別される可能性がありますので、企業から頂く資料を一つ一つ慎重に確認していかなくてはいけません。正解がない中、あらゆる前提をもとに考え提案できるのは、バリュエーションの面白さでもあると思います。

 

――バリュエーション業務を進める上で、必要なスキルや要素とは?

要素として大事なのは、任された業務を遂行する責任感の強さ、だと思います。特にEYは、一つの案件に携わるのが主にスタッフ、プロジェクトマネジャー、パートナーの3名体制で、スタッフレベルの社員であっても、比較的大きな裁量権を与えてもらっています。数字のミスが許されない仕事なので、セルフチェックを重ねて業務を進める慎重さ、任された領域に責任を持てる強さが大切だと日々感じています。

また、案件ごとに新しい知識を勉強できるか、しようという意欲があるかはとても重要です。業界知識、異なる会計基準について、わからないことを好奇心旺盛に学ぼうと思える方にとっては、飽きることのない、最高の仕事だと思います。

スキル面では、監査経験があるなど会計士のバックグラウンドがある方は非常に強みになると思います。会計スキルを生かしながら、正解な答えがないものを追究することに楽しさを感じられる方は最適なのではないでしょうか。

現在バリュエーション部門には、同業他社から転職された方のほか、商社や金融機関、戦略コンサル出身者などさまざまなバックグラウンドの方がいます。どんな経歴の方もまずは、コーポレートファイナンスを一通り勉強しておくと業務理解が進むのではないかと思っています。

――FAS業界には激務なイメージが強くありますが、働き方について工夫していることはありますか?

当社はフレックスタイム制で、10時から15時のコアタイムを採用しています。リモートワークも推奨されているので、子育てや介護などそれぞれのライフスタイルに合わせてフレキシブルに対応できる環境があります。

バリュエーション業務は、基本的にエクセルを使用するので、PC環境と取り扱う資料の管理さえ注意できれば、リモートワークとの相性はとても良いと思います。私自身も子どもがいるので、とても助かっています。

――これからバリュエーション業務に挑戦したい、と思っている方へメッセージをお願いします。

マーケットの動きや、ビジネスの最先端をじかに経験したい方、好奇心旺盛でさまざまな知識を吸収して成長したい方にはとても刺激的な仕事だと思います。M&A案件は今後も増加していく傾向です。当社はグローバルファームとして、日本企業の成長にとって重要な戦略の一つであるクロスボーダー案件を多数取り扱っており、国際的な業務に携わりたい方にも魅力的です。

<プロフィール>
小松 夕月(こまつ ゆき)さん
EYトランザクション・アドバイザリー・サービス株式会社
バリュエーション、モデリング&エコノミクス コンサルタント

大学卒業後、他社BIG4、EYで移転価格税制業務に携わる。事業会社での経験を経て、2018年3月より現職。

この企業バックナンバー ─企業記事─

あわせて読みたい ―関連記事―