2014.03.11
一般向け新書などで、10年ほど前から決算書の読み方等、会計に関する解説本がトレンドとなっています。著者は公認会計士が圧倒的に多く、中小企業の経営に関する内容の場合、税理士として登録した会計事務所の代表というパターンも多いようです。
会計の専門家から見ると、はっきり言って同じ内容をいろいろな切り口で見ているだけで、特に読むべき内容ではないものがほとんどでしょう。
会計の概念を多少なりとも本格的に知るには、とっつきにくい簿記の知識が必要となり、一般の方にはどうしても理解しにくいものがあります。一冊本を読んで、その時はわかったつもりになれても、実務に応用できるほどは理解が進みません。それが、同じような内容の本が売れ続けている理由なのかもしれません。
そして、もう一つ人気の秘訣はキャッチーなタイトルです。例えば少し前では『食い逃げされてもバイトは雇うな』や『なぜ、社長のベンツは4ドアなのか?』など。タイトルを読んだ時に感じる「なぜ?」といった疑問が、本に手を伸ばす動機になっているのです。
本のタイトルは、ほとんど編集者が付けています。会計士で本を書いたことのある方に聞くと、著者としては「それは本題ではないのですが…」と言いたくなるものもあるそうです。作家性と本を売る側の論理は、必ずしも一致するわけではないということでしょう。
会計からは外れますが、藻谷浩介さんの『デフレの正体』は人口減少による経済への影響を書き、非常にヒットした本ですが、藻谷さんは、最初はこのタイトルに反対で『人口の波』といったタイトルにしたかったと語っています。
同書には、経済学者らから、本の内容も然ることながら、タイトルへの反駁が盛んになされました。人口減少が需要縮小により経済へインパクトを与えることは間違いないことですが、人口が減ると供給も減るため、必ずしもデフレ要因にはならない、といった反論です。
しかし、タイトルが『人口の波』だったとすると、あれほどの話題作にはならなかったでしょう。あのタイトルだからこそ、「正体は誰だ?」と興味を引くことができたのです。
最近、税理士の先生方が、顧問先のある程度会計への興味のある社長から、ベストセラーの会計本について「あれって、どういう本なのでしょうか?」と質問されるという話をよく聞きます。
ある先生は、話題作りのため本屋でそのような会計本を立ち読みするのが日課になっているそうです。税理士が根を詰めて読む内容ではないので、「なぜ○○なのか?」のような疑問形のタイトルの答えが書いてあるとおぼしき部分だけ、チェックしているそうです。
とはいえ『食い逃げされてもバイトは雇うな』のすぐあとに、同じ著者から『「食い逃げされてもバイトは雇うな」なんて大間違い』という本が出るような状況には、出版社の必死の営業努力に感心しつつも、いささか閉口するところでしょう。
(文:VRPスタッフ)
大学卒業後、金融機関にて法人営業職を経験し、98年に管理部門に特化した株式会社日本MSセンター(現:MS-ジャパン)へ入社。東京本部の立ち上げを行うなど、現在の同社の基盤を作る。2004年に国内最大規模のヘッドハンティング会社、サーチファーム・ジャパン株式会社よりスカウトを受け、エグゼクティブサーチ業界へ。 同社入社後も数多くの結果を残し、入社2年でパートナーへ昇進。2007年11月に株式会社VRPパートナーズを設立、代表取締役に就任。18年間のキャリアにおいて、2万人以上の転職者との面談実績を持ち、入社後の定着率は95%以上とサーチ業界内においてもトップクラスの実績を誇る。2014年に日本アクチュアリー会の会員に。