アクチュアリー試験講評(2024年度 損保2 編)


1.全体感

問題構成は例年同様で、教科書を中心とした問題であったため比較的取り組みやすい出題でした。三年連続で計算問題が出題されたため、今後も計算問題への対策が必要です。以下各問題に対するコメントです。

2.各問題に対するコメント

問題1
VaRは定期的に出題されます。VaRの限界やストレステストと併せて覚えておくべきもので、損保数理でも学習したはずの内容であるため、完答したい問題です。
【教科書】A-47~51
【関連過去問】2019年問題4(1)、2018年問題3(4)、平成27年問題7(2)、損保1 2020年問題1(8)、生保2問題3(2)①

問題2(1)
デュレーションは最近出題がなかったですが、過去問にも類題の出題があり、こちらも完答したい問題です。BPVなどの市場リスク関連のリスク指標と一緒に、まとめて覚えておきましょう。
【教科書】8-41~42
【関連過去問】平成28年問題6(1)、平成27年問題6、平成16年問題3(2)

問題2(2)
金融危機関連の本には必ず出てくる用語であり、完答したい問題です。教科書10-78に定義は出ていますが、その前の10-60~63には特に注意書きもなくシステミックリスクという単語が使われています。教科書を読んでいて意味が分からないカタカナは自分で調べながら学習していくと理解も深まるのでおススメです。
【教科書】10-78
【関連過去問】平成24年問題2(2)

問題2(3)
時事問題です。金融庁がこれまで発行してきた「経済価値ベースのソルベンシー規制等に関する基準の最終化に向けた検討状況について」などの資料には毎回のように登場している単語が出題されました。損保2では用語の定義を説明させる問題は出題されやすいので、このように時事問題系のキーとなる用語は最低限覚えておく必要があります。なお、当該単語はアクチュアリーの方が書かれているブログ(s_iwkのブログ)にも試験前の9月末に投稿がありました。時事問題のキャッチアップが難しい方は、このようにアクチュアリーの方のブログや、研究所やコンサルティング会社などが発行してる記事などをフォローするとよいと思います。

問題2(4)
これまで開示に関する問題は度々出題されてきましたが、決算そのものの出題ははじめてだったので難しかった方もいるかもしれません。ソルベンシーマージン比率の算出や保険計理人の意見書などをはじめ、定例となっている業務についてそれを行う意義は何か、改めて整理しておくことをおススメします。
【教科書】5-1~13
【関連過去問】生保2 2018年問題3(1)

問題3(1)
過去問と同じ出題なので完答したい問題です。なお、撹乱要因と似ていますが微妙に異なるので注意が必要です。
【教科書】6-9~11
【関連過去問】2018年問題3(1)、平成25年問題1(2)、平成15年問題3、平成8年問題2

問題3(2)
過去問と同じ出題なので完答したい問題です。暗記をする際は税法上の取り扱いもセットで覚えておく必要があります。過去複数回出題されていた問題は、重要な問題であると言えるので、是非優先的に覚えるようにしてください。
【教科書】7-82~87
【関連過去問】2018年問題3(3)、平成27年問題2(1)、平成21年問題2(1)、平成18年問題1(2)、平成13年問題4(1)、平成12年問題1(1)、平成11年問題2(2)、平成6年問題2、平成元年問題2(2)

問題3(3)
教科書のままの出題なので完答したい問題です。過去、公式を知らないと解けない計算問題も出題されています。
【教科書】B-8~9
【関連過去問】2020年問題7、平成22年問題3(1)、平成10年問題3(2)

問題3(4)
教科書と過去問を組み合わせた出題であったため、やや難しかったかもしれません。損保2ではこのように教科書や過去問をそのまま出題するのではなく、整理して答えさせる問題も出題されますので、暗記ノートや予想問題を作られる際はそれを意識して作成してください。
【教科書】7-4~7, 16~17, 22~23
【関連過去問】2022年問題2(1)、2018年問題6(1)

問題3(5)
教科書ではア~エで4点書かれていますが過去問解答では5点に分けて書かれていたのでそれを覚えていた人には書きやすかったかもしれませんが、教科書だけで暗記されていた方にはトリッキーだったかもしれません。
【教科書】7-39~40
【関連過去問】平成27年問題4(1)

問題4(1)
チェーン・ラダー法とボーンヒュッター・ファーガソン法は頻出なので時間が許せば計算し点数を確保したいところです。人によっては計算問題よりも記述式の方が部分点を狙えると考え、計算問題は捨てようと考える方もいると思いますが、ご自身の向き不向きに合わせて取り組まれるとよいと思います。
【関連過去問】2019年問題2(2)、平成29年問題2

問題4(2)
教科書に直接的な記載がなく実務未経験者には難しい出題です。決算期末の近くに大規模自然災害が発生した場合、チェーン・ラダー法による算出ではロスの実態を上手く表せない場合があります(2014年の大雪など)。この場合、個別にIBNRの算出が必要になります。画一的な手法はないと思われますが、決算期に損害査定部門などから得られる情報に基づき、可能な限り合理的に見積もることになるかと思います。例えば、大口契約の情報や、期末時点での事故受付件数や期末以降に計上された普通支払備金、自然災害を拡張担保する特約の保有件数などが参考になります。加えて、自然災害に対する再保険カバーを手配している場合、他の通常損害とは切り分けてネットのIBNR備金の計算も必要になります。

問題5
時事問題です。損保1で二年前に類題が出題されたため、損保1も勉強されている方は比較的書きやすかったと思います。インフレ率の設定に関する技術的な論点は日本アクチュアリー会が公表している「保険負債等の評価・検証に関するガイダンス(案)」、業界への影響はThe
Geneva Associationが2023年1月に公表している「インフレ再燃の保険への影響」をご一読ください。
【関連過去問】損保1 2022年問題3(1)

問題6
時事問題です。大手損害保険会社における一連の価格調整問題を受けて、政策株式の売却が加速しています。各社の決算発表や、中期経営計画に関する資料、各社の業務改善状況に関する開示資料、金融庁による行政処分の公表内容などを読み込んでいれば(1)は書きやすい内容です。これらの開示資料は一般の人にもわかりやすく書かれているので、時事問題の把握に最適です。(2)は価格調整問題に関連して、営業推進部門という第一線と、リスク管理部門という第二線の関係性である3線管理態勢をとっかかりとして考えることが可能ですが、考えるべき論点が漠然としており難しかったと思います。リスクの話をしてますのでRORも念頭に、参考書に書かれていたことなどを想い出された受験生もいたかもしれません。試験中はパニックになって難しいかもしれませんが、様々な視点で問題を考えるようにして、なるべく多くの論点を上げる必要があります。
【教科書】8-5
【参考書】「保険ERM経営の理論と実践」p.212-215

3.次回以降に向けて

今回で合格しているのが一番ですが、万が一の場合に向けてコメントです。損保2は出題範囲が広く、また、時事問題の把握も必須でかつトピックスが多いので勉強は大変かと思います。まずは過去問を通して教科書の何が重要なのかを理解・整理してみてください。時事問題は、関連サイトや記事を読んでも初見では理解できないと思いますが、複数を読み比べると必ず繰り返し出てくるフレーズなどがあるので、そこを中心に覚えていくことをおススメします。なお、経済価値ソルベンやIFRSについては生保2でもよく出題されていますので、余力があり理解をさらに深めたい方は是非生保2の過去問も併せて読んでみてください。

 

(ペンネーム:ペーパーアクチュアリー)

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