1.全体感
問題1は例年同様、過去問を中心とした出題で比較的取り組みやすい出題でした。しかし、再保険に関する計算問題の出題は2015年以来だったので驚かれた方もいたことでしょう。問題2は昨年に引き続き簡単な計算または数値の読み取りを行う出題でしたが、昨年よりも問題数が少なく、また、実際のプライシングの経験がなくとも書きやすい内容でした。以下各問題に対するコメントです。
2.各問題に対するコメント
問題1(1)
長期契約に関する出題は、過去第Ⅱ部で出題されたことはありましたが第Ⅰ部では出題がありませんでした。一部の保険会社では保険期間1年を超える自動車保険、火災保険、保証保険などを販売しています。今後の試験対策に向けては、各商品の販売経緯や、お客さまへの訴求ポイントは何かなど、社内の公表資料や関連部門の人へのヒアリングを行うことで収支管理に限らず知見を深めることをおススメします。
【過去問】平成26年度問題3(2)、平成24年問題3(1)、平成15年問題3、平成6年問題3(2)
問題1(2)
過去問+α(モデルリスク)の出題で、ほぼ過去問のままなので手早く完答したい問題です。
【過去問】平成27年問題1(3)
問題1(3)
基準料率・参考料率改定の問題は時事問題として頻出なので、受験生は随時、損害保険料率算出機構のホームページをチェックし、改定の背景や料率算出の考え方を暗記しておく必要があります。暗記の粒度は過去問の解答を参照してください。
【過去問】平成24年、平成25年、平成28年、平成29年、2018年、2021年、2023年
問題1(4)
過去問(教科書)からの出題で、ほぼ過去問のままなので手早く完答したい問題です。非競争市場における時事問題としては、2023年12月に金融庁から大手損害保険会社に対しカルテルに関する行政処分が出されていますので、そちら金融庁HPもご参考にご一読ください。
【過去問】平成22年問題2(4)、平成26年問題2(5)、2020年問題2(2)②
問題1(5)
損保2で直近出題された問題です。こちらも2023年12月のカルテルの行政処分に記載があったので、時事問題とも言えます。
【過去問】損保2 2020年問題3
問題1(6)
過去問+α(コピュラ)の出題で、ほぼ過去問と教科書のままなので手早く完答したい問題です。
【過去問】2021年問題1(7)【教科書】A-41~42
問題1(7)
過去問(監督指針)の出題で、過去問のままなので手早く完答したい問題です。
【過去問】平成19年問題1(6)、平成25年問題1(2)
問題1(8)
概要書は平成23年の問題文、保険商品審査事例集は2023年の解答に記載があります。以前損保2で、監督指針の意義・役割を答えさせる問題が出題されたので(平成21年問題3(5))、こうした刊行物の内容だけでなく、その意義も簡単に答えられるようにしておきましょう。
【過去問】平成23問題1(4)、平成29年問題1(7)、2023年問題1(7)
問題1(9)
計算問題は損保数理の復習です。過去問にも類題があります。②はcatastrophe
coverとセットで教科書に記載があり、過去出題がなかったので暗記していた方も多かったのではないでしょうか。
【過去問】(類題)平成27年問題1(10) 【教科書】4-14
問題1(10)
過去問および教科書からの出題で、手早く完答したい問題です。TVaR以外の問題も今後出題可能性があるので、解けなかった方は復習をよくしておいてください。
【過去問】平成28年問題2(1) 【教科書】A-65
問題2(1)
付録Bで、リトンペイド損害率とアーンドインカード損害率の定義とその特徴を覚えていると、とっかかりになるかと思います。なお、問題文の冒頭に「保険期間1年・一時払のみ」とあるのは見落とさないようにしましょう。分割払い契約について述べても点数に結びつきません。②・③についてはプライシングの実務経験がないと難しいかもしれませんが、参考純率改定の資料や、自社の商品改定資料を普段からよく読んでいればヒントがあるはずです。商品全体で収支が良かったとしても、年齢別にセグメントを切り分けると収支の良いセグメントと悪いセグメントのコントラストがはっきり出てくることもありますし、事故形態を調べると特定の事故ばかり起こっていることが分かるかもしれません。なお、データがそもそも正しくインプットされているかという観点も重要です。商品販売開始後のフォローアップは、監督指針にも記載があり重要項目ですので丸暗記し、所見でも活用できるようにしておきましょう。
問題2(2)
オーダーメイド型の保険に関する出題は、平成25年問題3(2)および2021年問題3(2)にありました。実務を行っていないと思いつきにくい観点としては、再保険手配があげられると思います。個別契約に対する特約再保険がカバーできるのかどうかによって、元受の引受判断が変わることもあります。カルテルで話題となった共同保険の手配も引受手段の一つとなります。今後ブローカーマーケットが主流になっていった場合、欧米のようにブローカーが細かいアンダーライティング情報を保有するようになり、保険会社サイドでそのデータを用いてより高度な分析ができるようになるかもしれません。あまり直接的には試験対策につながりませんが、より広範な視点を獲得するために是非金融庁HPの「損害保険業の構造的課題と競争のあり方に関する有識者会議」は目を通してください。このようなトレンドがある中、アクチュアリーとしてどのように貢献していけばよいかを考えることは、決して無駄にはならないと思います。
3.次回以降に向けて
今回で合格しているのが一番ですが、万が一の場合に向けてコメントです。近年は計算問題を捨てると合格が難しくなってきていますが、それでも過去問と教科書を暗記していれば、問題1で40点は確保できる内容でした。教科書や参考書を読み、過去問を通して重要箇所を把握したり教科書にない知識を補ったりすることが地道ですが合格への近道となります。試験勉強を通じて実務の質も向上しますので、是非前向きに勉強を続けてください!
(ペンネーム:ペーパーアクチュアリー)