フリーランスアクチュアリーという働き方


近年、働き方改革や副業解禁などをきっかけに、エンジニアやデザイナーなどの専門職人材はフリーランスとして働く人が増えてきています。まだ日本では浸透はしていませんが、アクチュアリーの中にも、専門知識やスキルを活かしてフリーランスとして活躍する人が徐々に増えている印象です。かく言う著者自身も、最近、サラリーマンからフリーランスへと働き方が変わりました。今回は、実際にフリーランスアクチュアリーとしてのキャリアを始めた私が、フリーランスアクチュアリーという働き方について、考えてみたいと思います。

  1. フリーランスの概要

釈迦に説法かもしれませんが、基本的なところから確認しましょう。フリーランスとサラリーマンの大きな違いは、一言でいうと、会社との契約形態です。

フリーランスとは、会社と「業務委託契約」を結んで、委託された仕事に従事する人のことを指します。会社には直接属さず、自分の裁量で仕事内容や勤務時間などを決めることができるのが大きな特徴です。

サラリーマンとは、会社と「雇用契約」を結んで、会社から指示された仕事に従事する人を指します。毎月会社から給与を受け取ることができるので、フリーランスと比較して安定的な働き方と言えます。

  1. フリーランスのメリット

フリーランスにはサラリーマンと異なるいくつかのメリットがあります。

  • 自由な働き方ができる

業務委託契約によりますが、フリーランスの場合は、会社に出勤する必要が少ないため、時間や場所に縛られずに仕事をすることができます。リモート(在宅勤務)を増やしたい人や、育児や介護などで時間が限られている人、副業をしながら働きたい人などにとって、自由な働き方ができる点は、大きなメリットと言えるでしょう。著者自身も、今までは週4日で出社していたのですが、フリーランスになってからは、ほとんど在宅で働くことになりました。

極論を言えば、質の高いアウトプットが出せる前提であれば、日本中を旅しながら仕事をすることも可能です。また、契約先との調整も必要かと思いますが、海外で働くことも不可能ではありませんので、トラベラーの方にもフリーランスは良い環境だと思います。

  • 年収アップが見込める

会社員の場合、給与は職種や年齢によって決まっていきますが、フリーランスの場合は自分のスキルや経験に応じて、報酬を設定・交渉することができます。そのため、能力次第で年収をアップさせることも可能です。また、会社から見たら、フリーランスには安定的な雇用の必要がありません。したがって、フリーランス市場は比較的サラリーマンのときの給与水準よりも高めに設定されていることがほとんどです。

一方、業務委託契約を請け負うときは、相手会社との単価交渉などが必要になるため、フリーランスとして働くには一定程度の営業力が必要となります。

  • 節税ができる

アクチュアリーは高年収で知られていますが、サラリーマンとして働くうえでは、経費をほとんど使うことができないため、比較的、税金や社会保険料負担が大きいです。

フリーランスの場合は、経費の利用や青色申告特別控除などの税制優遇措置を受けることができるため、会社から支給される金額が同じでも、フリーランスのほうが税金対策に有利となることがあります。また、売上の大きい個人事業主は、法人を設立することで、社宅制度の活用など、より節税できる可能性が広がります。

給与所得者として年収1,000万・2,000万としてのキャリアアップも魅力的ですが、手取り額を増やすという観点では、フリーランスとして働いたほうが、メリットがあるアクチュアリーも多いと思います。

  1. フリーランスのデメリット

前述のようにメリットが多いフリーランスですが、いくつかのデメリットもあります。このデメリットを許容できるかどうかが、フリーランス転身への大きなカギだと思います。

  • 雇用・収入が不安定

業務委託契約をする際には、「プロジェクト終了まで」「半年間」など、契約期限を設けることがほとんどです。業務委託契約をすることで、短期的な収入は上がるかもしれませんが、一つの契約が終わると、次の仕事を探さなければいけません。契約期間中は良いですが、同じ会社から仕事を受注し続けられる保証はないので、フリーランスの収入は安定しません。普段の業務をしながらも、次の案件をとるための営業活動を行うことが、フリーランスアクチュアリーに求められる仕事です。

また、当たり前ですが、休暇を取ると、その分収入は途絶えます。普段の働き方が自由であるとはいえ、収入を得続けようと思うと、長期の休暇が取りにくいのがフリーランスの特徴です。サラリーマンのときのように、有給を使って、お金をもらいながら休み続けるということがフリーランスにはできません。

一方、フリーランスは自分で契約を調整することで、休みを長くとることができるのも魅力の1つです。1~10月で、自分の納得できる額を稼いで、11月~12月は長期休暇を取るなど、「海外旅行に行きまくりたい!」という方にとっては、フリーランスの働き方は魅力的かもしれません。

  • より責任感が生まれる

「フリーランスとして働くと気楽でいいよね」といった声をいただくこともあります。しかし、事実はまったく逆で、フリーランスで働くほうがサラリーマンのときより責任感が強くなります。

サラリーマンのときは、仕事でミスをした場合でも、「責任」という話はあまり出てきません(管理職や役員レベルとかは別)。一方、業務委託・フリーランスになると、業務でミスや不適切な対応をした場合、契約終了や報酬金額の引き下げというリスクがあります。

サラリーマンの場合は、ミスしても次がありますが(簡単にクビにはならない)、フリーランスは失敗が許されない働き方と言っても過言でないと思います。「契約書で約束した業務をきちんとこなす」「相手の期待値より高いパフォーマンスを発揮する」といった、フリーランスならではの難しさがあります。著者自身は、サラリーマンのときから責任感を持って仕事はしていましたが、フリーランスになってからより強い責任感が生まれたと感じています。

 

  1. フリーランスアクチュアリーの展望

著者は、今後もフリーランスとして働くアクチュアリーは、増えると予想しています。そう考える理由は次の3つです。

  • アクチュアリー需要の増加

近年、アクチュアリーの需要は急速に高まっています。保険商品開発やリスク管理、決算、データサイエンス、資産運用、経営戦略策定など、多様な領域で、各保険会社はアクチュアリーを求めています。今後も保険業界の発展のために、企業側からのアクチュアリーに対するニーズはより高まっていくと思います。

  • アクチュアリーの人材不足

アクチュアリーの需要が高まっている一方、アクチュアリーの人材不足が深刻化しているように感じます。アクチュアリー正会員になるには、難関な資格試験に合格する必要があり、保険業界全体を見渡してもアクチュアリーが不足している状況です。転職市場をみても、圧倒的売り手市場です。

以上2点から、アクチュアリーは売り手市場なので、週3でもいいから業務の手伝いをしてもらいたいなど、業務委託契約をしてでもアクチュアリーを採用したいと考えている会社は増えていくと思われますので、フリーランスアクチュアリーは今後増えていくのではないかと考えております。

  • 多様な働き方への認知・理解度の向上

また、上記「①アクチュアリー需要の増加」「②アクチュアリーの人材不足」だけでは、アクチュアリーのフリーランスとしての働き方は浸透しにくいと考えています。この状況は昔から少なからずあったものの、フリーランスアクチュアリーが増えなかった理由の大きな原因の1つは、「フリーランスという働き方への認知と理解度」の問題です。

今までは保険会社の業務を外部に委託することにためらいがありましたが、この認識も変わり始めています。フリーランスに仕事をお願いすると、社内の内部情報を社外の人に漏らすことになり、情報漏洩のリスクがあると不安に感じる気持ちもとてもわかります。しかしながら、業務委託を請け負う以上はNDA(秘密保持契約)を結びますし、請け負う側もプロフェッショナルとしての倫理観を持っているので、機密情報を社外に流すことはありません。こうしたことが、世間的に広まりつつあることで、企業側もフリーランスという働き方に対する理解度が徐々に高まってきており、柔軟な働き方を受け入れる姿勢が見られます。

こういった、フリーランスに対する偏見の目がなくなりつつあることが、フリーランスアクチュアリー増加に拍車をかけることは間違いないと私は感じています。

 

いかがでしたでしょうか。フリーランスに憧れはありつつも、踏み出せないと感じているアクチュアリーの方は、多いのではないでしょうか。私自身、リスクをとって、フリーランスになったので、その気持ちは重々分かります。今後、フリーランスアクチュアリーの方が責任感をもって仕事をして、実績を作っていくことで、これから独立を志す人が増える嬉しいですね。アクチュアリーのキャリアの選択肢として、「フリーランス」も頭の片隅に置いておいていただけますと幸いです。

 

(ペンネーム:Donald)

 

※本寄稿は、10月25日にUP致しましたインタビューコラムの青山氏とは、別の方の寄稿となります。

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