5次方程式の解法


2022年3月17日(木)のコラム「正七角形の作図法」は、おかげさまでランキングの常連になりました。

実は、コラムを始めた頃、「アクチュアリーに関する話題(例.試験や実務など)」に特化した内容で「ネタを探す長旅」を覚悟しておりましたが、実際に長旅に出てみると、“旅の疲れ”を癒すために途中で休息をとることも秘訣だろうと考えるようになり、こうして出来上がったのが「正七角形の作図法」というコラムでした。今回も“休息”の1つになります。

2024年がスタートしましたが、大学卒業から30年という歳月に加えて、ノルウェーの数学者であるNiels Henrik Abelが“方程式論の旋回点”とも言うべき、“5次方程式に代数的解法が存在しない”、つまり、“5次方程式に解の公式が存在しない”ことを、初めて厳密に証明した年(1824年)から数えて200年という“節目の年”でもあります!

そこで、今回のコラムでは、“5次方程式に解の公式が存在しない”ことをできるだけ分かり易くご紹介いたします。

1.1次方程式の解の公式

定数a, b(ただし、a≠0)を用いた方程式「ax+b=0」が1次方程式ですが、これは、「x=-b/a」という“1つの解”を持ちます。
特に、定数a, bが“整数”でa≠±1の場合、「x=-b/a」は整数でないため、「整数÷整数(≠0)」の形をした数(=有理数)を考える必要があります。なお、a=±1の場合、「x=±b」は“整数”になるので、“整数”は“有理数”に含まれます。

つまり、“係数が整数である1次方程式の解”を考えることで、数の拡張『整数⊂有理数』が得られるというわけです。ただし、定数a, b(ただし、a≠0)が有理数の場合には、1次方程式の解も有理数となるので、1次方程式の解を考える限り、これ以上、数の拡張はできません。
ちなみに、有理数全体は四則演算(+-×÷)について“閉じた(=有理数同士を四則演算した結果は必ず有理数になる)集合”で数学的に「体(たい)」と呼ばれることから、有理数全体の集合を「有理数体」とも呼び、記号Qで表されることもあります。

なお、ここまでお読みになった方には、“こんなに回りくどい説明をしなくてもいいのに”と厭われる方がいらっしゃるかもしれません。実際、専門書などでは、いきなり“複素数係数の代数方程式を考える”という表現を登場させるものもあるくらいです。

筆者は教育実習などで中学・高校生向けに方程式を教えた経験があるのですが、“無理数もきちんと定義していないのに、いきなり複素数係数と言われても”と不満を感じておりました。歴史的経緯に照らしても、“2次方程式の解や直角三角形の斜辺の長さを求める過程で、初めて「無理数(≒根号)」が登場する”という点を、きちんと教えるべきだと思います。(厳密には、円周率πなどの「超越数」が「無理数」に含まれてしまうため、代数方程式の解だけを集めても「無理数」全体をカバーすることはできません。流石に中学・高校レベルの数学の域を超えてしまいますが。)

2.2次方程式の解の公式

定数a, b, c(ただし、a≠0)を用いた方程式「ax^2+bx+c=0(x^2はxの2乗)」が2次方程式ですが、これは、「x=(-b±√D)/2a、D=b^2-4ac」という“2つの解”を持ちます。(2つの解同士が等しくなる場合もあります)
特に、Dが有理数の平方数にならない場合、これらの解もやはり有理数にはならないため、2次方程式と解くためには“有理数と異なる数(=無理数)”を導入する必要があります。
なお、2次方程式の解の公式を導く過程で、“平方完成(=強引に平方数を作るだす)”と呼ばれる式変形テクニックを用いるのですが、“平方完成”は後述の4次方程式の解の公式を導く過程でも登場します。(←数学が“積み重ねの学問(=以前に得た結果を用いて新しい理論を構築)”と呼ばれる典型的事例!)

つまり、“平方”以外の累乗を含めて『変数を含む数の累乗=有理数など』(例.ax^2+bx+c=0 ⇔ (x+b/2a)^2=D/4a^2など)が成立するように式変形できれば、『変数を含む数=有理数などの累乗根』と表されるので、この操作を“有限回”繰り返すことで、最終的に「x=方程式の係数のみから構成される数(有理数などの累乗根を含む)」の形になれば、解の公式が得られたことになります。

また、“数の拡張”という観点からは、上記のDがマイナスになる場合を考えれば、“虚数”が登場するため、結局、2次方程式の解の公式を考えることで、実数はもちろんのこと複素数までが登場します。
流石に、中学レベルで「虚数」は登場しないので、中学数学では常に「Dが0以上の場合だけ」を考えるものと記憶しています。

(ここから急に難しくなりますので、雰囲気だけでも味わっていただければ幸いです。難しいと思われる方は、「3.」にお進みいただいて構いません。)

実は、(2次に限らず)代数方程式の解の公式は、すべてこのような変形(例.変数を含む数の累乗=有理数など)を繰り返すことで得られます。専門的立場からみると、有理数体に“「有理数」と「有理数の累乗根」を四則演算で計算した数”を次々に加えて得られる「体」(例.Q⊂Q(√2)⊂Q(√2, ∛3)⊂Q(√2, ∛3, ∜4)⊂・・・)を次々に考えて、与えられた方程式の“最小分解体(=有理数体に当該方程式の係数および解をすべて加えてできる「体」)”に到達できれば、方程式が代数的に解けることになります。
ただし、残念ながら、この流れが上手くいっても具体的な解の公式が得られるとは限りません。
また、“代数学の基本定理”によって、(複素数係数をもつ)代数方程式は、少なくとも1つの複素数解を持つことも知られていますので、上述の“最小分解体”は複素数体(←複素数全体も四則演算について閉じているので「体」です)の中に必ず存在します。

3.3次方程式の解の公式

大幅に“文字数”が増えましたので、ここから簡潔に進むことをご容赦ください。
定数a, b, c, d(ただし、a≠0)を用いた方程式「ax^3+bx^2+cx+d=0」が3次方程式ですが、これも解の公式があり、“3つの解”を持ちます。

残念ながら、当該公式を記述することは紙面の都合で困難なため、興味のある方は、例えば、「https://oshima-gakushujuku.com/blog/math/formula-qubic-equation/(特に、“a,b,c,dで表す”以降)」などをご覧ください。

なお、3次方程式の解の公式について、以下の2点はとても興味深いところです。

1)解が“実数のみ”でも、解の公式としては“虚数”を用いる必要がある「還元不
能の問題」が存在すること(←整数しか登場しない“フィボナッチ数列”の一般項表示に“無理数”が必須であることと類似)

2)高校数学の必覚公式「x^3+y^3+z^3-3xyz=(x+y+z)(x^2+y^2+z^2-yz-zx-xy)」から3次方程式の解の公式が導かれること(←1の原始3乗根(=3乗して初めて1になる数)の1つをωとした場合、x^2+y^2+z^2-yz-zx-xy=(x+ωy+ω^2z) (x+ω^2y+ωz)となることに注意して、公式の“左辺”をxの3次方程式“x^3-(3yz)x+(y^3+z^3)”とみなせば、3次方程式の3つの解“x=-y-z、x=-ωy-ω^2z 、x=-ω^2y-ωz”が導かれる)

特に、2)については、YouTubeに素晴らしい動画(https://www.youtube.com/watch?v=GftLRHX6TIM)がアップされておりますので、併せてご覧いただくとよいでしょう。

4.4次方程式の解の公式

4次方程式にも解の公式があり“4つの解”を持ちますが、3次方程式と同様、残念ながら、当該公式も記述することは困難です。
興味のある方は、例えば、「https://oshima-gakushujuku.com/blog/math/formula-quartic-equation/(特に、“a,b,c,d,eで表す”以降)」などをご覧ください。

なお、4次方程式の解の公式を導く際、
1)2次方程式の解の公式を導く過程で登場する“平方完成”を用いること
2)1)の結果、3次方程式の解を求めることに帰着されること
は、まさに“数学の本質(=積み重ねの学問)”を表す貴重な結果だと思います。

5.5次方程式の解の公式

いよいよ本題の“5次方程式の解の公式”ですが、結論から申し上げますと、残念ながら“5次方程式の解の公式”は存在しません。
先述の通り、“5次方程式に解の公式が存在しないこと”を証明したのがノルウェーの数学者であるNiels Henrik Abelです。興味のある方は是非、高木貞治著『代数学講義』の“五次以上の方程式の代数的解法の不可能”をお読みください。

なお、証明の「肝」として、解の公式を求める過程で得られる“解の表示”において、「うまく変形すれば特定の係数を1にできる」点であったように記憶しています。
ただし、最近(といっても100年以上前)の教科書や講義では、“ガロア理論(例.一般5次方程式の最小分解体の有理数体上ガロア群が5次対称群になる)”および“5次対称群は可解群ではない”ということから“5次方程式の解の公式が存在しないこと”を説明(証明)することが多いためです。

実際、上述の高木氏の著書においても“(1900年代初頭の)高度に発達した現代数学では、より広汎な概念(ガロア理論)を用いて「5次方程式の解の公式が存在しないこと」を説明する事例が多いものの、敢えて「Abelによる証明(+高木氏による些細な修正)」を説明することに意義はあろう”という趣旨の記述があったように記憶しています。
また、“5次方程式の係数および係数同士の四則演算から得られる数の累乗根を用いて有限回の操作(これを「代数的解法」といいます)で得られる公式は存在しない”というだけであって、後述のように「代数的解法」以外の手法を許容すれば、5次方程式であっても“解の公式”が存在します。

6.6次以上の代数方程式の解の公式

5次方程式の解の公式が存在しないため、6次(以上)の代数方程式についても、解の公式は存在しません。
実際、定数a, b, c, d, e, f, g(ただし、a≠0)を用いた方程式「ax^6+bx^5+cx^4+dx^3+ex^2+fx+g=0」は6次方程式です。

もし、当該方程式に解の公式が存在すれば、定数項gをゼロにした方程式「ax^6+bx^5+cx^4+dx^3+ex^2+fx=0」、つまり、「x×(ax^5+bx^4+cx^3+dx^2+ex+f)=0」にも“解の公式”が存在することになりますので、「x=0」を除いた5次方程式「ax^5+bx^4+cx^3+dx^2+ex+f=0」にも解の公式が存在することになってしまうためです。

7.5次方程式の解法(その1)

ニュートン法などを利用した「近似解」を求めるのであれば、5次(以上の)方程式でも計算できます。パソコン1つで簡単に計算できる時代が到来したことは、本当にありがたいですね。
https://www.geisya.or.jp/~mwm48961/linear_algebra/algebra_eq5.htm

8.5次方程式の解法(その2)

定数a, b, c, d, e, f(ただし、a≠0)を用いた5次方程式「ax^5+bx^4+cx^3+dx^2+ex+f=0」を“上手く”変形すると、定数p, qを用いて「x^5+px+q=0」という、“Bring-Jerrardの標準形”という形に変形できます。この形であれば、楕円関数と呼ばれる特殊な関数を用いて、解の公式が得られます。

詳しくは、YouTube『五次方程式はやっぱり解ける@第21回日曜数学会』をご覧ください。それにしても、日曜数学者“tsujimotter氏”の精力的な活動には、本当に頭が下がります。

ちなみに、筆者の恩師である故・山本芳彦先生は、整数論ゼミの懇親会で、“5次方程式も楕円の上だったら解けますよ。”と仰せられたことが未だに深く心に刻まれています。
知人から、山本先生の「お墓」について興味深い情報がいただけました。具体的には、墓碑に“the addition formula on hyperelliptic curves”(超楕円曲線の加法公式)のグラフが刻まれているそうです。如何にも先生らしい感じがします。合掌。
https://www.reihyo.com/generations/12ki/180/

9.高清水氏の著書

これも知人からいただいた情報ですが、高清水浩氏の著書「5次方程式の代数的一般解法(計算編)」という著書があるようです。残念ながら、Amazonなどでは品切れでしたが、閲覧できた際は、是非コラムに仕上げたいと思います。
https://www.bungeisha.co.jp/bookinfo/detail/4-88737-894-7.jsp

10.n次方程式の解法

次数が任意の代数方程式に対する“解の公式”が知られている模様です(https://www.youtube.com/watch?v=zk7zDIGGt2s)。
実際に計算するには“膨大な計算量”が必要になるようですが、IT技術が発達して、“解の公式”が公開される日が待ち遠しいですね。

いかがでしたか。以前のコラム「正七角形の作図法」に比べると、かなり膨大な内容になってしまいましたが、解の公式を追い求めた先人たちの苦労や努力に対して、改めて敬意を表します。コラム執筆のために書棚で誇りまみれになっている“数学書達”と顔を合わせることで“長旅の疲れ”も十分解消できました。

 

(ペンネーム:活用算方)

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