佐藤隆太氏のCMなどで有名だったBIGMOTOR社が、まったく異質な(悪質な)話題で有名になってしまいました。
金融担当大臣によるヒアリングのコメントを耳にした際、「何故、金融庁(関東財務局)がヒアリングするのだろう?」と不思議に感じたのですが、同社は損害保険代理店としても活動していたとの情報を目にして納得できました。
そこで今回のコラムでは、これまでの保険会社、監査法人などでの業務経験および知識を踏まえて、同社のどこに問題があったのかを考えてみたいと思います。
1.ガバナンスの枠組み
後述の元・衆議院議員である杉村太蔵氏のコメントにもありますが、そもそも、非上場の会社に対するガバナンスが欠如していることが大きな要因に思えます。
例えば、株式公開企業、資本金5億円以上もしくは負債額200億円以上の非上場企業など、一定の条件を満たす企業に対して法定監査(外部監査)は義務付けられていますので、同社においてどのような外部監査が行われてきたのか非常に興味深いところです。
https://cpa.mynavi.jp/column_mt/2021/11/830.html
なお、本年6月26日に同社宛に提出された、特別調査委員会からの「調査報告書」の5ページによれば、監査役会の設置および社外取締役の選任は義務付けられていない模様です。また、長年、生命保険会社の多様な組織図を見慣れているせいか、大会社の割には、社内の組織がとてもコンパクトな印象を受けます。もちろん、コンパクトがダメというわけではありませんが、なんとなく“けん制効果”が働きにくいように感じてしまいます。
特に、同社に広報部が存在しないという点には大変驚きました。お客さまを含めた市場から、会社がどのように評価されているのかをチェックする必要はないとの判断なのかもしれませんね。
https://www.yomiuri.co.jp/economy/20230724-OYT1T50250/
2.保険代理店の立場
損害保険会社の保険代理店を運営することは、当然、保険業法などの法令を遵守する必要がありますが、修理工場が併設されるため、損害保険会社にとっても、良好な修理業務を安心して任せられるという利点も考えられます。あくまでも性善説に基づく一般論ではありますが。
報道によれば、自賠責保険などの契約も、損害保険会社からの修理紹介実績などに基づき同社が“割り振っていた”ようですので、損害保険会社も強く意見などが出せなかったのかもしれません。
なお、後述の植村先生(福岡大学)のコメントも大いに注目されます。将来、給付金請求者と保険代理店の分離分割(兼営禁止)がルール化されるかもしれません。
3.架空契約
同社店舗で、保険契約件数を多く見せるために、架空の自動車保険契約を結んでいた疑いが出てきた模様です。生命保険では“名義貸し”という違法行為を目にしますが、この場合、損害保険の対象となる自動車などが稼働していない(=陸運局に登録されていない?)ということなのかもしれません。今後の捜査および主務官庁などの動きが注目されますね。
https://news.ntv.co.jp/category/economy/f8e546a845f84691b7363015b632e79c
4.保険会社からの出向
損害保険会社から37名の出向者を同社が受け入れていた模様ですが、見方を変えれば、保険会社から保険代理店に出向する形にも見えるため、本来であれば不適正募集などの違法行為を見つけやすくするための効果的な措置であるとも考えられます。
残念ながら、出向者が見抜けなかった、あるいは、出向者から出向元の保険会社に報告されていたが見逃されていたという可能性もあります。
同社はもちろんのこと、保険会社側のガバナンスなども、しっかりと精査して欲しいところです。
5.保険会社への就職
(当時の)副社長が(元)社長の実子であり、かつ、損害保険会社に就職していた時期がある模様です。
同族経営の場合、異業種や大企業などに(敢えて)出向・入社させることで、広い視野や能力を身につけることができるとの評価もありますが、単なるコネ入社(失礼!)の可能性も否定できないように思います。
もっとも、会社を引き継ぐことへのプレッシャーや経営を学ぶために遊ぶ時間があまりないなど、メンタル的に大変という意見には納得感がありますね。
それにしても、個人情報について“まとめサイト”の威力は相変わらず凄まじいものがありますね。個人的には「身長」などを推定し、ましてや「有名アニメに因んだadana」まで公開することは不要だと思うのですが。。。
https://yakuzatokazoku.com/trend/kaneshigehirouyuki/
6.植村信保先生 コメント
同社社長の記者会見が行われた本年7月25日(火)に放送されたNHK「クローズアップ現代」で、金融庁でも勤務されていた、福岡大学の植村信保先生が出演されていました。
特に、先生からのコメント中、
“同社は自動車修理で「保険金を受け取る」一方、保険代理店として「保険を売る」
立場。保険金をたくさん受け取りたいけど「保険も売って」と言われる存在。保険金
を適正に払わなくてはいけないが、保険を売ってくれる有力な人となると、例えば、
監視の目が緩くなってしまうことが起こりやすい構図になる。”
とのご指摘は秀逸でした。流石ですね!!
https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4808/
7.石破茂先生 コメント
7月30日(日)フジテレビ系「日曜報道 THE PRIME」で、自民党の石破茂元幹事長から「お客様本位じゃないってこと」、「人命にかかわる自動車の整備点検や販売をする場合、最も高い倫理観が必要。だけど、社長が来るから除草剤で木を枯らそうとか、めちゃくちゃな話。」とのコメントがありました。
長年、国会議員活動を続けられてきた気概から、有権者のために汗水流すことを厭わない先生の姿勢が強く感じられます。
https://hochi.news/articles/20230730-OHT1T51034.html?page=1
8.杉村太蔵氏 コメント
7月30日(日)TBS系「サンデージャポン」で、元衆議院議員の杉村太蔵氏から「同族企業、非上場企業に対しても、売り上げなどが一定規模の会社に社外取締役の設置を義務付ける必要があるのでは」、「社長会見では、経営者としてのコメントを聞きたいのに、完全に株主としての意見。“二度と不正が起きないように、すべての工場に監視カメラを置いてチェックさせる”というコメントがあってしかるべきだと思うが、ないのは株主の立場のままなんじゃないか」との鋭い意見が出されました。
久しぶりに“濃口”のコメントが聞けて嬉しかったです。(注:杉村氏には“薄口政治評論家”という肩書でも同番組に出演されています。)
https://www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2023/07/30/kiji/20230730s00041000267000c.html
9.デーブ・スペクター氏 コメント
同じく、7月30日(日)TBS系「サンデージャポン」で、タレントでテレビプロデューサーのデーブ・スペクター氏から、日本の車検制度そのものについての疑問が投げかけられました。
具体的には、「今、車検って必要ですか?」というもので、「世界中でここまでやってる国はない」、「排気ガスチェックくらいで費用も60ドル(≒8,500円)くらい」だと。
なお、自動車生活ジャーナリストの加藤久美子氏も出演されていて、同氏曰く「車検は必要」「日本車の価値を高めている」などと反論されていました。
ちなみに、加藤氏は、同社の副社長から送信されたとする「教育」・「死刑」という文字がひたすら繰り返されたLINEのスクショを披露されましたが、同社社員から送られたもののようです。
経営層として「教育」は兎も角、流石に「死刑」はアウトのように思いますが。
デーブ氏の、”ビッグモーターだけに、従業員たちはビクビクしてます”というギャグがせめてもの救いです。
いかがでしたか。“ノルマ(例.@≧14万円など)達成”が一連の不払い問題を誘発したことはあまりにも有名ですが、逆に、“保険金(修理代金)の水増し請求”という点が何とも皮肉な結果となった感があります。経済価値規制導入の前に、今一度、“プロとしての自負”を思い起こす時期に来ているのかもしれませんね。
(ペンネーム:活用算方)