OQMHMHRQKVNH#%%21113011752736


“何だこのタイトル?”と思うかもしれませんが、とある芸人さんの「暗号」です。
先日、久々に「面白い」数学的な番組(≒数学的素養を持っていれば、より楽しめる娯楽番組)に出会えました。
具体的には、日本テレビ系列で2023年7月24日(月)23:59分から放送された「午前0時の森」という番組で、麻布大学で基礎数学を担当されている関根章道先生が暗号の歴史などを解説されていました。

そこで今回のコラムは、この暗号の解読法と、暗号設定にどのような数学的背景が隠されているかについて、簡単にご紹介いたしましょう。
なお、同番組ホームページ公式サイトで、huluやTVerなども紹介されていますので、見逃した方は、当コラムを読み終える前に番組を先に見ることをお勧めします。(といっても、番組内で「解答」が示されてしまいますが。。。)

1.解読結果

先に「正解」を書いてしまうと、GEININDAYOBAKAYARO 0331 です。
ここで6文字ずつ分割されている点が重要で、それぞれの節をどのように導き出すかを以下の2.で示します。

なお、当該番組は生放送でして、放送終了までに暗号が解読できた人に、賞金10万円が贈呈されるものでしたが、あまりにも難易度が高すぎて、残念ながら10万円を獲得した方はいらっしゃいませんでした。(←正解発表後に電話したツワモノがいて驚きました。劇団ひとり氏が丁寧に対応されていましたが。。。)

2.解読結果

番組に登場された麻布大学の関根章道先生から、番組終了数分前に徐々に正解が発表されましたが、“これは(1時間足らずで)解けない”というのが正直な感想です。
以下、暗号を先頭から正しく区切って解読していきましょう。

(1)1~6文字:OQMHMH ⇒ G,E,I,N,I,N

アルファベット26文字(A→Z)を反転(Z→A)させたものを、左に5文字ずらせば、下図のようになります。(「U」が左に5文字移動して先頭に来ます)

 

一番上の行でOQMHMHの文字(黄色部分)を探して、一番下の行で対応する文字(黄色部分)に置き換えれば解読完了です。

左にずらす「5」をどう見つけるかですが、番組出演者の劇団ひとり(本名:川島省吾)氏、村上信五氏に由来しているようで、共に「吾」が含まれています。また、画面上でも「川島省吾」の文字が表示されますが、「吾」の色だけが他の文字と異なっていました。
さらに、スタジオのフロアーが時計模様ですが、文字盤の「Ⅴ」と「Ⅵ」が入れ替わっているのもヒントのようです。

(2)7~12文字:RQKVNH ⇒ D,A,Y,O,B,A

アルファベット26文字(A→Z)を縦横に配置し、上から順に左に1文字ずらして、下方に重ねる操作を繰り返せば下図のようになります。
(1)で解読したOQMHMHのそれぞれの文字を縦の位置で探して、その行の中にRQKVNHのそれぞれの文字を探して、当該文字から上に移動して到達する横の位置に置き換えれば解読完了です。(下図の黄色部分が、O→R→Dに対応します)

(3)13~15文字:#%% ⇒ 3,55

アスキーコード(ASCII)表に基づく解読というと難解な雰囲気がしますが、要するに、パソコンのキーボード配列で、「#」および「%」と同じキーである「3」および「5」に置き換えれば解読完了です。

なお、単に「#%%」という表示だと、例えば、「355」、「35,5」など、色々な解読結果が考えられますので、ある程度の試行錯誤(特に、(4)に記載のRSA暗号における公開キー)は必要になるようです。

(4)16~25文字:2111301175 ⇒ K,A,Y,A,R,O

ここからが、本格的な数学(特に整数論)の登場です。
番組中で関根先生から「暗号理論を知っている人は誰でもRSA暗号を知っている。」とコメントがなされましたが、これまでの結果から、公開カギ「3,55」および秘密カギ「7」を導き出すことが最大のポイントです。

まず、2111301175を2桁ずつに分離すれば、「21,11,30,11,75」となりますが、(3)で解読した「3,55」のうち「55」に着目すると、解読には「55以下」の数値が必要となります。(←この辺りもかなりの試行錯誤が必要ですが)
したがって、「21,11,30,11,7,5」と分離します。

次に、「3,55」のうち「55」が「55=5×11」と素因数分解できる点に着目すれば、4(=5-1)および10(=11-1)の最小公倍数「20」を導き出し、「3,55」のうち「3」と「20」を組み合わせれば、3×7=21≡1 (mod 20) という関係から「7」が得られます。(注:数式の最後に登場する記号「≡」は合同を表し、21≡1 (mod 20)とは、21と1との差が20で割り切れることを意味します。)

次に、「21,11,30,11,7,5」のそれぞれについて、「7乗して55(注:20ではありません)で割った余り」を求めると、「21,11,30,11,7,5」⇒「21,11,35,11,28,25」となります。(←個人的感想ですが、解読前の暗号と同じ数字が混在することで解読の難易度が上がるように思います)

最後に、アルファベット26文字(A→Z)を「11」から始まる自然数と対応させれば下表が得られ、それぞれの数字「21,11,35,11,28,25」に対応する文字に置き換えれば解読完了です。(下図の黄色部分が、K,A,Y,A,R,Oに対応します)

(5)26~29文字:2736 ⇒ 27,36 ⇒ 03,31

(4)と同じ方法で「03,31」が得られます。以上で解読完了です。
なお、解読結果を並べると、GE I NI N DA YO BA KA YA RO 03 31(=芸人だよバカヤロー0331)となりますが、最後の「0331」は、ビートたけし氏などの師匠である「深見千三郎氏の誕生日(1923年3月31日)だそうです。
また、ビートたけし氏の誕生秘話を記した映画のタイトル「芸人だよ、バカヤロー」を暗号化した模様です。(映画の詳細は、https://eiga.com/news/20211102/1/ などをご覧ください。)

3.数学的な背景

(4)の部分で登場した数学的性質(=合同式、素因数分解など)を用いた暗号は「RSA暗号」と呼ばれ、「RSA」とは考案者3名の名前に由来している模様です。

また、今回登場する素数は「5,11」ですが、もっと大きな素数を用いた場合、最新のコンピュータを用いても、“RSA暗号は、秘密鍵なしでの解読に億年単位でかかる”といわれています。
https://d-auth.com/column/709/#:~:text=RSA%E6%9A%97%E5%8F%B7%E3%81%AF%E3%80%81%E7%A7%98%E5%AF%86%E9%8D%B5,%E3%81%AE%E9%9B%A3%E3%81%97%E3%81%95%E3%81%AB%E3%81%82%E3%82%8A%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82

なお、RSA暗号については、ネット上でも様々な解説がなされていて、例えば、以下のサイトも分かりやすいため、併せてご一読いただければ幸いです。

http://www.comm.tcu.ac.jp/~math/hnakai/infomath/rsa.html

4.RSA暗号の弱点

「素因数分解に時間がかかる」ことが、RSA暗号を強力化している背景ですが、逆にいえば、「大きな数の素因数分解」が容易に計算できるくらいにコンピュータの処理能力が向上すれば、RSA暗号が使い物にならなくなる可能性が十分にあります。

現在、開発が進行中の「量子コンピュータ」の実用化で、暗号の世界にも大きな変革期が訪れる日もそう遠くないかもしれませんね。

いかがでしたか。「暗号」は他人に分からないように特定の相手にだけ必要な情報を伝える手段です。日本国憲法第21条第2項でも、“通信の秘密は、これを侵してはならない。”とありますので、近代的国家の設立のためにも「暗号」は不可欠な概念とも言えるでしょう。

実際、今回ご紹介したRSA暗号の技術は金融機関取引などにも活用されているそうです。

残念ながら、インターネットの発祥は軍事目的(遠隔地の部隊に情報提供)であった模様ですが、同様に、暗号技術も使い方を誤れば軍事目的に転用されかねないため、「核の平和利用」に加えて「数学の平和利用」も、アクチュアリーとして注視したいところです。

 

(ペンネーム:活用算方)

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