教科書にない公式(生保数理編)



ご案内のとおり、アクチュアリー試験の出題範囲は、アクチュアリー会が公表している『資格試験要領』に記載されています。

同要領には、“第1次試験については「第2次試験を受けるに相当な基礎的知識を有するかどうかを判定することを目的とする」という趣旨から、出題範囲は教科書に限定します。”という記載があります。

出題範囲が教科書に限定されるのであれば、教科書と同じ問題が出題されるのだろうと考える受験生がいるかもしれません。実際、生保数理で出題された問題のうち、例えば、以下の問題は教科書と同じ問題です。

平成27年問題3(2) ← 第12章 練習問題(4)問題(17)
平成25年問題1(5) ← 第4章 練習問題(5)問題(3)
平成19年問題1(3) ← 第5章 練習問題(2)問題(13)
平成17年問題1(4) ← 第3章 練習問題 問題(4)
平成17年問題1(5) ← 第5章 練習問題(1)問題(13)
平成14年問題2(3) ← 『第4章 練習問題(2)問題(45)』※

※  現在の教科書(著者:二見氏)の1つ前の教科書(著者:守田氏)。

また、教科書の問題と数字などの条件が異なるものの、解法が同じものとしては、例えば以下の問題があります。

平成26年問題2(3) ← 第7章 9ページ3行目以下
平成26年問題2(5) ← 第12章 練習問題(1)問題(10)
平成16年問題1(5) ← 第3章 練習問題 問題(3)
平成16年問題4    ← 第5章 練習問題(2)問題(17)
平成14年問題3    ← 第12章 練習問題(2)問題(6)※

※  問題文は第12章 練習問題(2)問題(5)に近いものの、死亡時に返還する既払込保険料に払込免除保険料が含まれないため解き方は問題(6)に近い。

それでは、解答で用いる公式は、すべて教科書に掲載されているのでしょうか?

 

答えは、Noです。

 

例えば、平成16年問題1(7)の解答では、就業不能の瞬間発生率を\(\mu(x)\)として、
\(_tP^{ai}_x =\)\( \int^t_o{_sp^{aa}}\cdot{\mu_2}(x+s)\cdot_{t-s}P^i_{x+s}\,ds\)という公式が登場します。

就業不能は、教科書の第13章で説明されていますが、この公式は登場しません。

資格試験要領に記載の「出題範囲は教科書に限定します。」と矛盾しているではないか!と主張したくなる受験生がいるかもしれません。

しかし、試験委員の見方(味方(笑))をすれば、下表のような連生保険(被保険者2人の場合)と就業不能保障保険の類似性に着目することで、公式を導く考え方・背景等が教科書に登場しているとも考えられます。

連生保険(被保険者2名) 就業不能保証保険
主集団の構成員 共存者
(被保険者2人とも生存)
就業者\(\{l^{aa}_x\}\)
副集団の構成員 最終生存者 就業不能者\(\{l^{ii}_x\}\)
主集団から副集団への
瞬間脱退率
共存者の死力\(\{\mu_{x,u}\}\) \(\mu_2(x)\)

実際、教科書(下巻)95ページの下から4行目にある公式\(_tq^2_{xy}=\int^t_o{_sp_{x+y}}\,\mu_{y+s}\,_{t-s}q_{x+s}\,ds\)は、2人の被保険者\((x)\)、\((y)\)の共存が崩れ(=片方が死亡)、\(t\)年以内に\((y)(x)\)の順序で死亡する確率を表します。

これを就業不能保障保険に当てはめてみると、就業者\((x)\)が就業不能となり、\(t\)年以内に就業不能者として死亡する確率が、\(_tq^{ai}_x=\int^t_o{_sp^{aa}_x}\cdot\mu_2(x+s) \cdot _{t-s} q^i_{x+s}\,ds\)と表されます。

ここで、右上の添え字\(i\)が1つしかない記号\(\{l^i_x\}\)は、教科書(下巻)155ページの最下行にある就業不能者生命表に基づく記号であり、同行に記載のとおり、単生命表と同じように取り扱うことができます。したがって\(_{t-s}q^i_{x+s}=1-_{t-s}p^i_{x+s}\)が成り立ちますので、\(_tq^{ai}_x=\)\(\int^t_o{_sp^{aa}_x}\cdot\mu_2(x+s)\cdot(1-_{t-s}p^i_{x+s})ds=\)\(\int^t_o{_sp^{aa}_x}\cdot\mu_2(x+s)ds-\)\(\int^t_o{_sp^{aa}_x}\cdot\mu_2(x+s)\cdot_{t-s}p^i_{x+s}ds=\)\(\int^t_o{_sp^{aa}_x}\cdot\mu_w(x+s)ds-_tp^{ai}_x\)となり、変形して、\(\int^t_o{_sp^{aa}_x}\cdot\mu_2(x+s)ds=_tq^{ai}_x+_tp^{ai}_x\)となります。

つまり、就業者\((x)\)が\(t\)年以内に就業不能者となる確率は、\(t\)年以内に就業不能者となり\(t\)年後に死亡する確率と、\(t\)年以内に就業不能者となり(就業不能者のまま)\(t\)年後に生存している確率の和に等しいことを表しています。

式変形の過程で、\(_tp^{ai}_x=\int^t_o{_sp^{aa}_x}\cdot\mu_2(x+s)\cdot_{t-s}\,p^i_{x+s}\,ds\)という関係が登場しますが、これが連生保険との類似性に着目した就業不能保障保険の公式となります。

なお、連生保険の公式\(_tq^2_{xy}=\int^t_o{_sp_{xy}}\,\mu_{y+s}\,_{t-s}q_{x+s}\,ds\)について、上記の変形と同様に、\(_{t-s}q_{x+s}\)の代わりに\(_{t-s}p_{x+s}\)を使用すると、\(\int^t_o{_sp_{xy}}\,\mu_{y+s}\,_{t-s}p_{x+s}\,ds=\)\(\int^t_o{_sp_x}{_sp_y}\,\mu_{y+s}\,_{t-s}p_{x+s}\,ds=\)\(\int^t_o{_tp_x}{_sp_y}\,\mu_{y+s}ds=\)\(_tp_x\times\int^t_o{_sp_y}\,\mu_{y+s}ds=\)\(_tp_x\times_tq_y\)となり、教科書(下巻)95ページ(12.3.20)の一部が登場します。

 

就業不能保障保険の場合と異なり、連生保険では共存中の(片方の被保険者の)死亡率と最終生存者の死亡率が等しいため、積分記号が上手く外れて簡潔な表示が可能となりましたが、就業不能保障保険では、就業者の死亡率と就業不能者の死亡率は通常異なりますので、積分記号が上手く外れません。この点は連生保険と類似していないところです。

出題範囲が教科書に限定されるとは言うものの、連生保険や就業不能保障保険の類似性を正しく理解しているかという点も、試験で問われているのかもしれませんね。

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