「令和5年度の年金額改定について」を読み解く(後編)


さて、令和5年の年金額改定についての、後編です。

3.マクロ経済スライドの調整

年金額の改定は、名目手取り賃金変動率が物価変動率を上回る場合、

新規裁定者(67歳以下の方)の年金額→名目手取り賃金変動率

既裁定者(68歳以上の方)の年金額 →物価変動率

を用いて改定することが法律で定められています。

このため、令和5年度の年金額は、新規裁定者は名目手取り賃金変動率(2.8%)を、既裁定者は物価変動率(2.5%)を用いて改定することになりますが、ここまでが前回の説明でした。

ここに、令和5年度のマクロ経済スライドによる調整(▲0.3%)と、令和3年度・令和4年度のマクロ経済スライドの未調整分による調整(▲0.3%)の2つの調整が行われ、

よって、令和5年度の年金額の改定率は、

新規裁定→+2.8%-0.6%=+2.2%

既裁定 →+2.5%-0.6%=+1.9%

となります。結果自体も途中の計算式もまるごと覚えておきましょう!

さて、ここで出てきた、マクロ経済スライドについては、簡単に説明しますと、

「公的年金被保険者の変動」と「平均余命の伸び」に基づいて、スライド調整率を設定し、その分を賃金と物価の変動がプラスとなる場合に改定率から控除するものです。

この仕組みは、平成16年の年金制度改正により導入されました。 マクロ経済スライドによる調整を計画的に実施することによって、現役世代の給付の伸びを抑制し、伸びたときにはその一部を、将来世代の年金の給付水準を確保に利用する、というイメージで、非常に良く出来た仕組みです。

◆マクロ経済スライドによるスライド調整率(▲0.3%)

=公的年金被保険者総数の変動率(0.0%)

+ 平均余命の伸び率(▲0.3%)令和元~3年度の平均 (定率)

と計算されています。

ところが、もともと、このマクロ経済スライドは、名目下限措置というのがあり、年金額がマイナス改定になるときは発動しない、というルールになっていました。

このところ、デフレ経済が長らく続いていたので、実はマクロ経済スライドが導入されてから、10年くらい発動されない期間が続きました。

この状態が続くと、将来の年金額がかなり低くなっていくことが予想されたので、発動しないときはこの未調整分をキャリーオーバーして翌年度以降プラスが生じたときにまとめて発動できるようにしました。

この 未調整分を翌年度以降に繰り越して調整する仕組みは、平成28年の年金制度改正により導入されました。

現在の高齢世代に配慮しつつ、マクロ経済スライドによる調整を将来世代に先送りせず、できる限り早期に調整することにより、将来世代の年金の給付水準を確保することにつながるわけです。

内訳は、

◆前年度までのマクロ経済スライドの未調整分(▲0.3%)

= ▲0.1%(令和3年度の未調整分)

+ ▲0.2%(令和4年度の未調整分)

というわけです。ですので、マクロ経済スライドの調整分としては、▲0.3%+▲0.3%=▲0.6%となります。

これで、令和5年度の年金額の改定率は、

新規裁定→+2.8%-0.6%=+2.2%

既裁定 →+2.5%-0.6%=+1.9%

と仕組みも含めて理解できたと思います。

4.その他の改定額

年金額の改定のお知らせでは、老齢年金だけでなく賃金や物価に連動するいくつかの仕組みについても改定の案内をしています。

(1)国民年金保険料

国民年金の保険料は、平成16年の年金制度改正により、毎年段階的に引き上げられてきましたが、平成29年度に上限(平成16年度水準で16,900円)に達し、引き上げが完了しました。その上で、平成31年4月から、次世代育成支援のため、国民年金第1号被保険者(自営業の方など)に対して、産前産後期間の保険料免除制度が施行されたことに伴い、令和元年度分より、平成16年度水準で、保険料が月額100円引き上がり17,000円となりました。 実際の保険料額は、平成16年度水準を維持するため、国民年金法第87条第3項の規定により、名目賃金の変動に応じて毎年度改定され、令和6年度の保険料額は以下の通りとなります。

(2)在職老齢年金

在職老齢年金は、賃金(賞与込み月収)と年金の合計額が、支給停止調整額を上回る場合には、賃金の増加2に対し年金額を1支給停止する仕組みです。 支給停止調整額は、厚生年金保険法第46条第3項の規定により、名目賃金の変動に応じて改定され、令和5年度の支給停止調整額は以下の通りとなります。

(3)その他諸々

以下は物価変動率に基づき、+2.5%の改定となります。

・母子家庭・父子家庭などに対する給付

・障がい者などに対する給付

・原子爆弾被爆者に対する給付

・年金生活者支援給付金法に基づく給付

 

「令和5年度の年金額改定について」を読み解く(後編)は以上です。

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