気になるニュース(2023年2月)


1月に引き続き2月に気になったニュースを幾つかピックアップしたいと思います。
なお、内容はすべて単なる個人的な見解であり、特定の人物や団体等を誹謗・中傷する意図は全くないことを、念のため申し添えます。

1.生保不正

記事見出しに「生保不正」とあったので、“生活保護の不正受給”や“生命保険の不正使用”をイメージしましたが、よくみると、“営業職員の不祥事”でした。
“19億円の金銭詐取”事案も記憶に新しいところですね。
お客さまと生命保険会社との間をとりもつ「営業職員」は一般課程試験で頻出論点である「媒介」機能を有しますが、それゆえ、お客さまとの信頼関係を逆手にとった費消事故は、一連の保険金不払い問題同様、絶対に防ぐべき事案です。

筆者が社会人デビューした90年代は生命保険会社の営業職員が約40万人で、家族などを含めると100万人を超える「有権者」群団が組成され、生命保険料控除制度など、様々な恩恵がもたらされてきたと伺った記憶もあります。
代理店、通販、インターネット等、営業職員に代わる販売チャネルは台頭しているものの、昨年3月末時点では約24万人の営業職員がいらっしゃるようで、記事によれば、2016~2021年における生命保険の加入チャネルのうち約56%を営業職員が占めているようです。
依然として主要な販売チャネルだからこそ、是非、公正な営業職員制度をより一層充実させてもらいたいですね。
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO68702510S3A220C2EE9000/

2.立ち入り検査

上記1.に関連して、金融庁が生命保険会社へ立ち入り検査を行う模様です。
後述の「節税保険」の募集状況なども検査対象に含まれるようですが、昨年秋頃から続く同保険に対する調査は、まだまだ尾を引きそうですね。
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO68631020Q3A220C2EE9000/

なお、記事でも紹介されていますが、“リスク管理の高度化に向けた着眼点”を生命保険協会がとりまとめたようです。“リスク管理の高度化”と聞くと、反射的にERMを思い出してしまうのがアクチュアリーらしいところですが、2025年度決算から導入予定の「経済価値ベースのソルベンシー規制」に併せて、保険計理・数理面以外の側面を含む全社的な“リスク管理の高度化”は、ますます重要になりますね。
https://www.seiho.or.jp/info/news/2023/20230217_1.html

3.節税保険の顛末

「決算状況表」等、保険会社から金融庁へ提出する書類の根拠条文が、『保険業法第128条(報告又は資料の提出)』であり、“報告徴求権”を示すものです。
一方、一連の「不払い問題」等に対して、金融庁から保険会社に出された業務改善命令等の根拠条文が、『保険業法第132条(業務の停止等)』であり、“行政処分権”を示すものです。
なお、“行政処分権”という用語はあまり馴染みがないかもしれませんが、いわゆる、“ライブドア事件”で脚光を浴びた「証券取引等監視委員会」にどこまで権限を持たせるのか?というQ&Aで当該用語が登場したこともあり、記憶に強く残っている用語の1つです。
https://www.fsa.go.jp/access/18/200602.pdf

また、アクチュアリー試験(生保2、損保2)を受験される方におかれては、ソルベンシー・マージン比率に基づく“命令”の根拠条文として、保険業法第132条第2項を押さえておきたいところですね。
上述の「不払い問題」や今回の「節税保険の問題」を題材にして、主務官庁がどのような観点で保険業法等の根拠法令をどのように適用するのかを、これを機に、しっかりと理解することも、アクチュアリー試験対策を含めた“アクチュアリーとしての素養・教養”として身につけておきたい技能です。
https://www.fsa.go.jp/news/r4/hoken/20230217/20230217-1.html

なお、本件に関連する記事が東洋経済オンラインでも閲覧できるようですので、是非、一読されることをお勧めいたします。
https://toyokeizai.net/articles/-/651324

4.コロナ保険の顛末

いつも楽しく拝見させていただいている、植村先生のブログ(2023年2月6日付)で、台湾のコロナ保険に関するものがありました。
詳細は、同ブログをご覧いただければと思いますが、日本よりも深刻な状況であることに、やはり、“生命保険を悪用した金儲け”は、近代国家として万国共通かもしれません。
一方、新型コロナウイルス感染症がニュースになり始めた頃、マスク争奪戦が繰り広げられましたが、この難題にいち早く対処したのも台湾であった記憶があります。
具体的には、健康保険証等の公的証明書とマスク購入者を紐づけて、“買占め”や“不当な転売”が起きない仕組みが構築されました。

このアイデアは、台湾史上最年少で入閣されたデジタル担当大臣によるものとされていますが、日本の政治家や官僚にも、是非このアイデアを見習って欲しいですね。
マイナカードの普及率(申請率)も、ようやく7割を突破した模様ですが、第二第三の新型コロナに備えて、早め早めの対策が必要ですし。
https://nuemura.com/

5.「生命保険会社の保険計理人の実務基準」改正案の公

米ドル・豪ドル建て保険契約の一部が、標準責任準備金の対象となったため、1号収支分析等を中心に「生命保険会社の保険計理人の実務基準」が改正される模様です。
特に、標準利率として、国債利回り(リスク・フリー・レート)ではなく、米国・豪国のA格社債利回りを用いることから、信用リスク等、従来の標準責任準備金とは別の視点での改正が必要となる点に注意が必要です。

なお、今月の別のコラムで、本件を詳しく(といっても公開情報のみの観点から、実務基準に限定した内容で、残念ながら同解説書には触れていませんが)解説しておりますので、併せてご覧頂ければ幸いです。
余談ですが、上記で“豪国”と表示しましたが、“豪州”という表示が一般的ですね。“国なのに州?”機会があれば、是非、その原因・由来等も調べようと思います。
https://www.actuaries.jp/info/20230201.html

6.監督指針の改正

「少額短期保険業者に対する監督指針」(注:建付け上は、『保険会社向けの総合的な監督指針』の別冊)の改正案がパブリックコメントに付されました。
詳細は、金融庁ホームページをご覧いただければと思いますが、上述の「ペット保険」や某業者の「新型コロナ保険」への対応の甘さ等を受け、財務基盤の一層の充実を含めた、業者経営に対する監督を強化した印象です。
https://www.fsa.go.jp/news/r4/hoken/20230131/20230131.html

実は、大昔、監査法人のコンサルティング部門に在籍していた頃、少額短期保険業者の保険計理人業務に従事させていただけたことがあります。その際、先輩アクチュアリーから、“免許ではなく登録であり、主務官庁(財務局等)による監督に加えて、保険計理人自らが保険料検証に注力する等、保険会社の保険計理人に比べると“守備範囲”が広く、保険料に対する保険数理専門官のような位置づけだと考えられる”とアドバイスをいただけたのがとても印象的でした。
ニッチ(隙間)なニーズを巧みに捉えながら順調に拡大し続ける少額短期保険市場ですが、少額短期保険業者から少額短期保険“会社”となる日は、そう遠くないかもしれませんね。

なお、上述の植村先生のブログ(2023年2月14日付)でも、本件に関するものがありましたので、併せてご覧ください。
https://nuemura.com/

7.賃上げ

ユニクロ等、様々な企業の給与引上げがニュースになっていますが、“毎月2万円のベースアップ”を行う生命保険会社が登場した模様です。
幸い、知人が同社に勤務されているのですが、子育て真っ只中ということもあり、“本当に有難い”というコメントをいただけました。
様々な少子化対策が検討されていますが、やはり、賃上げが最も有効な手段だと追われます。他の保険会社にも是非、追随して欲しいですね。(もちろん、筆者の勤務先にも!)
https://data.swcms.net/file/lifenet-seimei/ja/news/index/auto_20230217514046/pdfFile.pdf

いかがでしたか。いよいよ年度末が近づいてきましたが、実務基準改正や市中金利の(急激な)上昇、それに伴う保有債券等の含み損拡大等、引き続き、生命保険会社の決算内容に目が離せない日々が続きそうですね。

 

(ペンネーム:活用算方)

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