コミュニケーションを重視する、米国のアクチュアリー試験に鍛えられた


―アクチュアリーを目指すきっかけは何でしたか。

大学で専攻していたファイナンスや金融工学の勉強が面白く、「この知識を使ってできる仕事はないか」と考えていたときに、生命保険数学に関する著書をたくさん出している山内(恒人)先生に出会いました。先生の講座を受け、質問や相談をしていくうちに名前を覚えていただき「そんなに勉強するならアクチュアリー試験を受けてみたら」とアドバイスされたのがきっかけです。

―日本ではなく、米国のアクチュアリー試験を受けたのはなぜですか。

きっかけは、受験できる時期の違いでした。先生にアドバイスをいただき「受けてみよう」と思ったのが大学4年の5月ごろ。次の試験まで半年以上もあったのです。もう少し、直近で受けられないかと相談したところ、米国アクチュアリー試験の存在も教えてくださいました。そちらはちょうど数週間後に本番でしたので「まずは挑戦してみよう」と1科目受け、一度落ちてしまったのですが翌年に再挑戦して合格しました。
新卒でマーサー ジャパンに入社してからは、年金コンサルタントとしての業務、アクチュアリーの試験勉強、英語の勉強を並行して進め、大体6年かけて正会員になりました。

―米国の試験だからこそ苦労したことはありましたか。

英語の壁を突破するまでは、繰り返し問題を解いて、よく出てくる単語をひとつひとつ覚えていきました。海外暮らしをしたこともなく、英語力は「大学受験科目の中では得意だった」程度でしたが、マーサー ジャパンで業務上英語を使う環境に身を置いたこともプラスに働き、試験に出てくる英語も段々と理解できるようになりました。
日本のアクチュアリー試験も途中まで受けたのですが、米国アクチュアリー試験はより、「コミュニケーション」を重視した問題設定が多いと感じました。ビジネス上ありうる具体的な場面設定がされていて、その上であなたはどうしますか?という問題がよく出題されます。例えば「あなたは生命保険会社のチーフアクチュアリーとして、商品開発部が提案してきた商品の課題を、どう『分かりやすく』説明しますか」など、アクチュアリーではないビジネス上の関係者に対する説明方法を問う問題が少なくありません。論理的に正しいだけではダメで、相手にきちんと理解させることができるかどうかという点が重要視されるのは、アメリカの試験の大きな特徴だと思います。

―現在の仕事内容と、その面白さを教えてください。

年金コンサルタントとして、クライアント企業の年金制度の見直しや分析業務を担当しています。アクチュアリーは「難解な計算の専門家」という社会的な認知があり、多くのお客様が信頼を置いてくれます。「聞けば何でも教えてくれるだろう」という期待値が高いので、それに応えようと必死にインプットを増やしているうちに成長できるという、いいサイクルの中にいられますね。
保険ではなく「年金」の分野を選んだのは、外部の企業と常にかかわりがある仕事だからです。お客様ごとに異なる課題に向き合いながら、ともに努力して年金制度を作り上げていったあとは、とても感謝されますし、達成感があります。アクチュアリーとして専門性を深めながらも、視野を狭めたくないと思っている私にとって、年金コンサルタントの仕事はとてもバランスがいいと感じています。

―アクチュアリーを目指す方へ、メッセージをお願いします。

アクチュアリーは、専門性が高い職種として、周りから信用され、頼られることが多いと思います。そこにあぐらをかかず、求められる高いレベルに合わせるよう自己鍛錬し続ける姿勢が大切です。
専門性では周りに負けないよう知識を身につけながらも、広い視野を失わないことも大事。私も、“コミュニケーションにおいて、自分が言いたいことと相手が聞きたいことは違う”という視点を忘れずに、相手の反応に注意を払いながら会話を重ねています。「専門性がない人に伝えられなければ専門性はその価値を発揮できない」という点を意識するようになったのは、アメリカのアクチュアリー試験の影響も大きいと思います。自分の専門性は、社会の中の小さな点。その他にどんな仕事があって、そのなかで自分はどう役立っているのか、高い専門性と、俯瞰するバランス感覚を忘れないでほしいですね。

**プロフィール**

川口知宏さん

マーサー ジャパン株式会社 年金コンサルティング コンサルティング アクチュアリー。米国アクチュアリー正会員、CERA。慶應大学院理工学研究科を卒業後、現職へ。

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