アクチュアリー試験(生保数理)の講義(含、社内勉強会)に長年従事してきましたが、たまに見かける「特殊な問題」については、依然として毎年多くの質問をいただきます。
中には、数学の問題というよりも、問題文に対する読解力という国語の問題もありますが、出題側としては、問題文を正しく読めるか(=上司の指示が正しく理解できるか)という点も含めた受験生の力量を試しているのかもしれません。
そこで、今回のコラムでは、生保数理の過去問のうち受講生からの質問が多く、かつ、問題文に対する読解力も要求されるような「特殊な問題」を幾つかご紹介いたしましょう。
1.保険料平準払のThiele(ティーレ)の微分方程式
2020年度問題2(3)として出題された、保険料連続払全期払込の純保険料をThiele の微分方程式を用いて求める問題です。
平成14年の生保数理で“Thieleの微分方程式を用いた純保険料の計算”が初めて出題されましたが、“保険料一時払”、“死亡保険金即時払”、“死亡保険金が責任準備金比例”という3点セットは、暗記すべきテクニックとして長らく君臨していました。
流石に、初出の問題でしたので、当該微分方程式を解くための式変形テクニックも与えられましたが、今後はこのテクニックも暗記する必要がありますね。
2.Δ問題
2020年度問題2(4)として出題された、標準体及び特別条件体の年払純保険料の差を表す問題です。
責任準備金の再帰式を2つ導出して辺々引いた上で、さらに“足して引く”というテクニックを利用して、問題文に与えられた形に変形するのが常套手段です。
ただし、変形自体に2つの方法(AB-A’B’=A(B-B’)+B’(A-A’)=B(A-A’)+A’(B-B’))がありますが、どちらの方法を用いるのかは、両方試してみないと分かりませんので、素早く変形することが重要ですね。
3.独立かつ一様でない多重脱退表
2018年度問題3(1)として出題された、各脱退は独立だが、脱退発生は一様に起こらない多重脱退表を考える問題です。
教科書に登場する死亡・就業不能脱退残存表などでは、“独立かつ一様な脱退”が定番ですが、本問の場合、“一様でない”条件が出題されました。
計算自体は決して難しくはありませんが、初出でしたので、戸惑った受験生も少なくなかったように思えます。
4.副集団から主集団への移動
平成29年度問題2(1)として出題された、主集団は就業者、副集団は就業者以外で、仕事に就くことにより副集団から主集団に移るという前提の問題です。
教科書に登場する死亡・就業不能脱退残存表などでは、“副集団から主集団への移動は考えない”が定番ですが、当該移動がある問題が出題されました。
もっとも、教科書(上巻)97ページのNを“副集団から主集団に移る人数”と考えれば、“出題範囲は教科書に限定”というルールは順守されているとも考えられます。
5.瞬殺問題(連生年金)
平成27年度問題2(5)として出題された、連生年金現価に等しい式を求める問題です。
問題文に生命表に関する条件が与えられていないので、加入直後に全員が死亡するという極端な生命表を考えれば、選択肢の係数の和が4になるものが正解ですね。
6.瞬殺問題(多重脱退表)
平成25年度問題1(3)として出題された、死亡解約脱退残存表における絶対死亡率を求める問題です。
教科書(上巻)99ページ問題(4)の結果から、“足して1,000になるものが正解候補”ですね。
7.養老保険の年払純保険料分解
平成15年度問題4として出題された、養老保険の年払純保険料を分解する伝統的な問題です。
昭和38年度(保険数学Ⅱ)午前の部の問題1が初出と思われますが、教科書(上巻)134ページ問題(13)、教科書(上巻)161ページ問題(3)(4)、教科書(上巻)162ページ(5)なども関連する問題ですね。
過去問でも何回か出題されていますので、定番の変形テクニックとして習得しておくとよいでしょう。
8.一様加入
平成8年度(保険数学1)問題1(4)として出題された、毎年一定人数が年間を通して一様に入ってくる団体について、定常状態到達後の人数を求める問題です。
問題文では、通常の単生命表が与えられているのですが、年度始の生存者ではなく、各年度の総加入者数である点に気づかなければ正解にたどり着けないように思えます。
9.「以上」とは?
平成7年度(保険数学1)問題1(2)として出題された、定常社会で生存者数が直線的に減少し、30歳以上の人の死亡時年齢の平均が75歳の場合に最終年齢を求める問題です。
ここで、“30歳以上の人の死亡時年齢”という部分をどのように解釈するかがポイントなのですが、定常社会かつ生存曲線が(右下がりの)直線を勘案すれば、“75歳+(75歳-30歳)=120歳”が最終年齢に、一瞬見えるのですが。。。
「以上」の解釈、本当に悩ましいですね。
10.微分
平成6年度(保険数学1)問題3として出題された、純保険料の金利感応度を定義し、養老保険の一時払及び年払純保険料に対する金利感応度の関係を求める問題です。
教科書(上巻)12ページ問題(8)などでも微分する問題がありますので、試験委員からすれば、“第1次試験(基礎科目)の出題範囲は教科書に限定”という、資格試験要領に何ら反していないということでしょう。
いかがでしたか。いよいよアクチュアリー試験の資格試験要領が公開される時期になりました。今回ご紹介した問題を含めて過去問対策をしっかり行うことが、合格への近道ですね。今回のコラムが受験生の皆様にとっての一助となれば幸いです。
(ペンネーム:活用算方)