毎年6月末に「社会医療診療行為別統計」が公開されておりますが、生命保険会社(特に、商品開発部門)にお勤めの方であれば、手術率の計算などで目にされたご経験も多いかもしれません。
そこで、今回のコラムは、時節柄、アクチュアリー採用された新入職員の方々にも役立つように、具体的な手術発生率の計算事例をご紹介できればと思います。
なお、今回ご紹介する事例は、あくまでも一例に過ぎず、この方法を利用されたことで損害などが生じても、こちらでは責任を負いかねますことを何卒ご容赦ください。
1.社会医療診療行為とは
社会医療診療行為別統計の目的として、“医療保険制度における医療の給付の受給者に係る診療行為の内容、傷病の状況、調剤行為の内容、薬剤の使用状況等を明らかにし、医療保険行政に必要な基礎資料を得る”ことが、厚生労働省のホームページ(https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/26-19a.html#link01)に記載されています。
つまり、医療保険制度における診療行為(例.手術、調剤など)を、「社会医療診療行為」と呼称している模様です。
2.データの入手元
厚生労働省ホームページ(https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/26-19.html)またはe-Stat(政府統計の窓口)(https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&toukei=00450048&tstat=000001029602)をご覧ください。
3.分子データ
入院を伴う手術について、手術率の分子を作成してみましょう。
まず、上記のサイトから、『第2表医科診療(入院)件数・診療実日数・回数・点数,傷病分類、一般医療-後期医療・年齢階級、診療行為(大分類)別』をCSV形式でダウンロードします。
次に、「手術」と表示されたデータのうち、回数とかかれた列のデータを特定します。
最後に、当該データを年齢階級(5歳刻み)と共にコピーすれば完成です。
4.分母データ
同様に、手術率の分母を作成してみましょう。
まず、上記のCSVデータが6月審査分である点に注意して、対応する人口データを探します。具体的には、上記のCSVデータが令和2年6月審査分であれば、令和2年6月1日の人口を探します。
次に、総務省ホームページ(https://www.stat.go.jp/data/jinsui/2.html#monthly)のうち、「II. 各年10月1日現在人口」とかかれた付近にある「令和2年e-Stat(第1表及び2表)」のリンクをクリックします。
最後に、『第3表年齢(5歳階級),男女,月別人口-総人口,日本人人口(各月1日現在)調査年月2020年』のうち、2020年6月のデータを年齢階級(5歳刻み)と共にコピーすれば完成です。
5.手術率の試算
いよいよ、手術率を計算しましょう。例えば、40~44歳の手術率は、以下のように計算されます。
『40~44歳の手術率=分子(19,731件)÷分母(8,495,000人)×12≒0.02787』
なお、12倍している理由ですが、分子データが6月単月分となっているため、年換算して1年分のデータに調整する必要があるためです。
6.注意点
上記の計算をされた方はお気づきだと思いますが、分子データが男女別になっていない点が注意点です。
なお、筆者は未経験なのですが、『患者調査』という統計データを利用すれば、年齢階級別データをさらに男女別に推計分離できる可能性があるようです。当該分離手法について知る機会があれば、改めてコラムに仕上げたいと考えております。
7.入院率とのバランス
最後に、計算された手術率の妥当性をチェックするための方法を1つご紹介します。
入院率との関係をチェックする方法で、生命保険協会から公開されている資料を用いるものです。
具体的には、『生命保険の動向』という資料で、直近では2021年版が同協会ホームページ(https://www.seiho.or.jp/data/statistics/trend/pdf/all_2021.pdf)で公開されています。
当該資料の20ページにある『図表 39 入院・手術給付金の支払件数・支払額の推移』をご覧いただければ、件数・金額とも、入院に対して手術が6割程度を占めていることがお分かりいただけます。
ただし、上記で計算した手術率は入院を伴うものでしたので、より厳密に妥当性を検証するためには、入院を伴わない手術率を計算する必要があります。幸い、社会医療診療行為別統計では、入院を伴わない手術データもありますので、厳密な妥当性検証も可能となります。余力があれば、是非、チャレンジしてみてください。
いかがでしたか。最近は、有料でレセプトデータなどが購入できる時代になりましたので、社会医療診療行為別統計などの公的データの価値は、以前に比べると薄まってきたかもしれません。しかし、当該レセプトデータも、例えば、健康保険組合などのデータであれば、高齢者や自営業者などのデータが含まれにくいため、やはり、公的データを用いた補整を行う必要があるかもしれませんね。
(ペンネーム:活用算方)