2021年度のアクチュアリー試験問題が日本アクチュアリー会ホームページで公開されています。受験された方々は、本当にお疲れさまでした。
合格発表まであと2ヶ月程度ありますので、受験された方も、これから受験される方も気を緩めず、今のうちから試験準備を始めたいところですね。
早速、生保2について講評いたしますので、受験生の一助となれば幸いです。
1.問題数など
配点および問題数とも昨年度と同じでしたので、受験生にとって、特段大きな混乱はなかったと思われます。
また、昨年度からのトピックであった、
・新型コロナウイルス感染症
については、直接的な出題はなかったものの、問題2(1)の入院責任準備金や問題3(2)の終身医療保険に関するリスク管理などが関連するようにみえました。
2.各問題のポイント
問題1(1)
講評:生保1と同様に、保険計理人の実務基準などからの出題でした。下線部分は、まさに実務で配当計算などを行う場合に間違えやすい点ですので、第2次試験(専門科目)の目的である「問題解決能力」を問う良問といえるでしょう。
問題1(2)
講評:変額年金保険の利源分析に関する出題です。金融庁提出用の決算状況表記載の利源分析に関する穴埋め問題ですが、少なくとも、教科書『第5章 変額年金保険』には明記されていないように思います。また、恐らく公表されている「決算状況表」として最新の『生命保険関連法規集(財経詳報社)平成13年6月27日初版』1457ページの備考4.で「変額保険」は登場しますが、変額年金保険は登場しません。したがって、変額年金保険の専売会社の従業員(特に、決算部門に配属されている方々)とそうでない方々との不公平感が生じる可能性があります。
もっとも、そもそも第2次試験(専門科目)の出題範囲は教科書に限定されるものではなく、かつ、変額年金保険は日本の生保市場において重要な位置づけである点を勘案すれば、たとえ勤務先での取扱いがなくても、アクチュアリーの基礎知識としては十分に具備すべき事項といえるでしょう。
なお、空欄のうち、マル3およびマル4については、例えば、生保1の(旧)教科書『第5章 変額保険』39ページ付近に、責任準備金は純保険料式で、予定事業費は5年チルメル式でそれぞれ計算することが記載されていますので、解答の参考になるかもしれません。
問題1(3)
講評:価格変動準備金の積立限度額に関する計算問題です。過去問としては、例えば、平成28年度問題1(7)が類題ですが、本問の場合、外貨建債券について、“為替リスクあり”と“為替リスクなし”の2種類が登場する点で難易度が上がっています。それにしても、価格変動準備金に関する資料などを見るたび、“金地金で資産運用している保険会社はあるのだろうか。。。”という疑問が湧いてきます。
問題1(4)
講評:保険会社の税制に関する問題です。大昔の教科書『第4章 保険会社税制』は現在、廃止されていますが、税制の一部が、『第1章 生命保険会計』131ページ以降に登場します。特に、将来収支分析などでのシナリオ設定時に不可欠な『法人事業税』や『7%最低課税方式』など、実務でも頻出する論点ですので、これを機に保険会社の税制について造詣を深めるのもよいでしょう。
過去問としては、例えば、平成23年度問題1(3)が類題です。なお、アクチュアリーが書いた書籍の中で有名な『生保商品の変遷(保険毎日新聞社)平成8年7月25日改訂版』310ページに、西ドイツの方式を業界側から提案されたものであることが明記されています。
実は、先輩アクチュアリーが定年退職される際、当時準会員であった自分にこの書籍をお譲りくださり、急いで独身寮に帰ってワクワクしながら大喜びで熟読しました。そして、この成果が10数年後の某国会答弁作成の一助となったことは、今でも誇りに思います。まさに、故・スティーブ・ジョブズ氏の名スピーチ“点と点をつなぐ”ですね!
問題1(5)
講評:支払保証制度に関する問題です。資格試験要領によれば、教科書『第6章 ソルベンシー』の6.4.3以降は出題範囲外となっていますので、恐らく、多くの受験生は“6.4支払保証制度”全体を学習対象から外しているようにも感じます。そのスキを狙ったわけではないでしょうが、出題範囲外の直前にある“6.4.2支払保証制度”から出題という、まさに“あっぱれ”と思わせる出題です。
もっとも、過去問としては、平成24年度問題1(3)と全く同じ問題ですし、上述の教科書の139~140ページに、ゴシック体で目立つように記載されている内容を書くだけの問題です。“せめて、ゴシック体で書いている部分は(丸)暗記してね”という試験委員から熱いメッセージかもしれません。なお、当問題の配点が5点ですので、メリット2つ、デメリット3つに限定したのが微笑ましいです。(教科書にはメリ・デメとも3つずつ列挙)
問題1(6)
講評:生命保険会社における原価管理の目的、商品別原価計算の概略についての問題で、出典は、教科書『第5章 事業費の管理・分析』54ページ以降です。過去問では、例えば、平成28年度問題2(4)(配点10点)が類題ですが、問題1(配点5点)という点を考慮して、商品別原価計算の「留意点」までは求められていません。
問題2(1)
講評:医療保険の入院給付金について、翌期以降の支払いに備えて事業年度末に負債の部に積み立てるべき保険契約準備金についての問題です。出典は、教科書『第7章 医療保険』21ページ以降です。なお、『第7章 医療保険』はもともと生保1の教科書ですが、資格試験要領で決算に関係する部分は生保2の出題範囲にもなっています。
また、上述の『生保商品の変遷』66ページには、(年齢に依らない定額の安全割増に対する修正と併せて)入院責任準備金を行うための責任準備金積増財源が250億円に達したことが記載されています。
問題2(2)
講評:市場整合的EVと伝統的EVとの主な相違点についての問題で、教科書『第7章 内部管理会計』からの出題と思われます。ご案内の通り、2025年に経済価値ベースのソルベンシー規制が正式導入予定ですので、国際会計基準の導入と併せれば、内部管理会計(の一部)が財務会計として扱われる日もそう遠くないかもしれませんね。
問題3(1)
講評:ロック・フリー方式による責任準備金制度に関する問題ですが、上述の2025年を見据えた時事問題とも考えられます。過去問としては、例えば、平成29年度問題3(1)が類題で、問題文の※印部分についての表現も似ています。
問題3(2)
講評:生命保険会社のリスク管理に関する問題です。教科書『第4章 リスク管理』の新設初年度ですので、いきなり、第Ⅱ部(論述問題)で出題されることは、多くの受験生が予想していなかったかもしれません。
しかし、昨年度の問題3(2)では、新型コロナウイルス感染症の流行を鑑み、すでに、医療保険および死亡保険を販売している会社における統合的リスク管理(ストレステスト導入)について出題されました。このため、上述の教科書新設も加味して、新たに第三分野保険(しかも終身保障)に進出する場合のリスク管理について出題するという流れは、ある意味で自然なものという見方もできるかもしれません。
3.次回以降に向けて
いかがでしたか。第Ⅰ部対策としては、やはり、教科書を中心として監督指針や実務基準など、さらに余裕があれば法令や告示などの理解が極めて重要です。また、新型コロナウイルス感染症のような“明らかな時事ネタ”については、ついつい所見対策が中心になりがちですが、第三分野保険のストレステストなど、第Ⅰ部(知識問題)としての出題も十分考えられますので、第Ⅱ部(論述問題)とセットで対策を講じておきたいところですね。
一方、第Ⅱ部対策としては、様々な情報源に注意しつつ、常日頃から課題意識を持ち、自分自身の意見や考え方を“自分の言葉で分かりやすく相手に伝える練習”をしておくことも大切です。
特に、新設の教科書『第4章 リスク管理』からリスク管理が出題されましたので、来年はALMかな?と予想して、今のうちから十分な試験対策をスタートさせることも重要です。当たり前のことを当たり前に実行できることは、決して当たり前ではありません。
(ペンネーム:活用算方)