2021年度のアクチュアリー試験問題が日本アクチュアリー会ホームページで公開されています。受験された方々は、本当にお疲れさまでした。
合格発表まであと2ヶ月程度ありますので、受験された方も、これから受験される方も気を緩めず、今のうちから試験準備を始めたいところですね。
早速、生保1について講評いたしますので、受験生の一助となれば幸いです。
1.問題数など
問題1の内訳配点が多少異なりましたが、問題数および問題ごとの配点は昨年度と同じでしたので、受験生にとって、特段大きな混乱はなかったと思われます。
また、昨年度からのトピックであった、
・新型コロナウイルス感染症の影響
については、直接的な出題はなかったものの、同ウイルスによる入院などの罹患率上昇を見据えた、第三分野に関する出題(問題2、問題3(1))が特徴的でした。
なお、視点を広げて、例えば、問題1(1)マル5の巨大リスクや、問題1(2)のマル4で“異常危険”を穴埋めさせる問題も、同ウイルスを含めた異常事態を念頭に置いた出題といえるかもしれません。
2.各問題のポイント
問題1(1)
講評:生保1の最初の問題が「保険計理人の実務基準」からの出題で、焦った受験生も多かったかもしれません。もちろん、生保1の教科書『第3章 アセット・シェア』からの出題ですので何ら問題ありません。余談ですが、日ごろの資料作成時に「アセットシェア」なのか「アセット・シェア」なのか、とても悩ましいです。実際、「ストレステスト」と「ストレス・テスト」の意味を使い分けている“国家公務員”に遭遇したときは、“洞察力の鋭さ”にひれ伏した記憶もあります。
なお、問題文に“阪神・淡路大震災”という単語が登場しますが、気象庁はこの地震を「平成7年(1995年)兵庫県南部地震」と命名しています。もっとも、政府は「阪神・淡路大震災」と呼称することを閣議決定した模様ですが。
http://www.bousai.go.jp/kyoiku/kyokun/hanshin_awaji/earthquake/index.html
問題1(2)
講評:団体保険の配当清算法に関する問題で、教科書6-18~20ページ付近からの出題です。特に、多くの受験生から質問が出る“危険賦課金”が「マル5」の穴埋めになっていますが、教科書では、“危険賦課金(Risk Charge)”となっているため、英語表記もカッコ書きしなければ得点がもらえない?と心配の声が聞こえてきそうです。
問題1(3)
講評:保険会社向けの総合的な監督指針からの出題ですが、最近の資料『保険商品審査事例集(金融庁)』でも話題になっているMVAに関する問題という点で時事問題の1つといえるかもしれません。なお、問題2(2)でも教科書『第2章 解約および解約返戻金』からの出題となっていますが、ここ数年、同章からの出題が少なかった点を踏まえて、“出題範囲の一巡化”を意図した出題とも考えられます。
問題1(4)
講評:転換制度に関する出題ですが、生保数理の教科書(第9章 解約その他諸変更に伴う計算)を思い出された受験生もいらっしゃったかもしれません。なお、不勉強で大変恐縮ですが、転換価格の定義を生保1の教科書で見た記憶がありません。
しかし、生保2であれば、教科書「第1章 生命保険会計」1-16ページに経理処理の例として、転換価格の構成要素が4つ列挙されています。なお、個人的には、貸付金を“マイナスの構成要素”として列挙しても正解になるかがとても気になります。
問題1(5)
講評:再保険に関する出題ですが、自動再保険と任意再保険は、何が「自動」で何が「任意」かを明確に理解しておけば確実に得点できる問題です。なお、日本で活動されている再保険会社は幾つかありますが、自動再保険と任意再保険が得意な会社がほぼ半々に分かれている点は、元受保険会社の再保険担当者として、とても興味深かったです。
問題1(6)
講評:確率論的手法に関する出題ですが、実務で導入済みの会社は、まだ多くないかもしれません。2025年の経済価値ベースのソルベンシー規制に向けた布石かもしれません。特に、(生保2ではなく)生保1で出題する意図としては、“経済価値ベースによるプライシング”も念頭に置いてアクチュアリー実務を実施せよ、という試験委員からの貴重なメッセージかもしれませんね。
問題2(1)
講評:『第三分野標準生命表2018』の作成過程を簡潔に説明する問題ですが、2019年度問題1(1)で穴埋め問題として出題されていますので、逆に、十分な対策ができていなかった受験生が多かったかもしれません。
特に、第Ⅱ部(論述問題)の「認知症保険」や新型コロナウイルス感染症など、昨今の生命保険市場を鑑みれば、今後も第三分野保険を中心としたマーケットが形成される可能性は十分高く、アクチュアリーとして今一度、原点に立ち戻り、今後の保険業界を見据える必要があることを、試験委員として強調されたいのかもしれませんね。
問題2(2)
講評:低・無解約返戻金型商品に関する出題です。教科書『第2章 解約および解約返戻金』21~23ページからの出題ですが、過去問としても、例えば、平成23年度問題3(1)で“無解約返戻金型商品の開発が進んだ背景”が出題されていますので、比較的準備できていた受験生も多かったように感じます。
ひょっとすると、問題1(4)で「転換」を作問した際、生保数理の内容を思い出して、「払済定期保険・払済保険」の作問につながったかもしれません。
問題3(1)
講評:まさに時事問題といえる「認知症保険」の出題です。保険会社向けの総合的な監督指針に明記されている、“アクチュアリー資格試験の公平かつ適切な運営が確保されているか。”という点では、「認知症保険」を発売している会社とそうでない会社の従業員では、予備知識などの「格差」が“ナキニシモアラズ”ですが、就業不能保障保険と並んで、昨今の流行商品であることを考慮すれば、公平かつ適切な運営の範疇といえるでしょう。
なお、平成7年度問題3(2)の公式解答に明記されている通り、採点時には、“商品設計において政策判断が及ぶ内容・事項”に重きが置かれている点に注意しましょう。特に、商品開発部門にいらっしゃる方からみれば、保険料計算基礎率の設定など、実際の商品認可場面を強く意識した答案になりがちですが、あくまでも専門職としての「問題解決能力」が問われる、
つまり、こういう課題があって、解決策が複数ある場合に、どのような観点からどんな理由で優先順位付けをし、その結果、保険会社にどのような影響があるのかを理路整然と簡潔に述べる能力が問われていることを心がけるとよいでしょう。
問題3(2)
講評:一時払個人年金保険の販売再開という設定ですが、これまでなかった出題パターンに思います。特に、“昨今の超低金利環境”を踏まえた販売停止という背景があるため、いわゆる、長寿リスク(生存損)回避のために販売停止したのではない、とも考えられます。この観点から、マル1で、“代表的な年金支払種類”を列挙させた上で、逆ざや、金利上昇に加えて、“死亡率の(急激な)低下”も見据えた商品設計という観点での解答も期待されているかもしれません。
なお、マル1にある“代表的な年金支払種類”とは、恐らく、確定年金や終身年金などを指すものと思われますが、問題3(1)を踏まえ、介護年金や認知症年金、就業不能年金、あるいは、少子高齢化という観点から夫婦年金や寡婦年金(復帰年金)なども解答範囲に含まれるのかもしれません。いずれにせよ、何をもって、“代表的(な年金支払種類)”というかは、意外に多くの意見が出そうです。年金種類ごとの統計データの公開を期待したいところです。
3.次回以降に向けて
いかがでしたか。昨年のコラムにも記しましたが、第Ⅰ部対策としては、やはり、教科書を中心として監督指針や実務基準など、さらに余裕があれば法令や告示などの理解が極めて重要です。また、第Ⅱ部対策としては、常日頃から課題意識を持ちながら、自分自身の意見や考え方を“自分の言葉で分かりやすく相手に伝える練習”をしておくことも大切です。
当たり前のことを当たり前に実行できることは、決して当たり前ではありませんね。
(ペンネーム:活用算方)