義務教育を含めて、20年近く『数学(算数)』を学んだものとして、例えば、“マイナス×マイナスは何故プラスなの?(←分配法則を認めた結果)”や、“ゼロのゼロ乗は何故1なの?(←そう定義すれば矛盾が起きない)”といった、“こども”の素朴な疑問について、“大人”の厳密な答えを準備することはそれほど困難ではありません。
もっとも、大人の“厳密な”答えを、こどもの素朴な“こころ”が素直に受け入れる保証はどこにもありませんが。。。
一方、大人の特殊な“問いかけ”が、専門家を含む大人の“感覚”を揺さぶることも、数学の味わい深い側面といえそうです。
そこで、今回のコラムでは、一部の読者たちを混乱に落とし込んだ(笑)、とある大学教授からの挑戦状(?)について、四則演算に関する話題も含めて思うところを述べてみましょう。
1.大学教授からの挑戦状
平日の昼休みに、Yahoo!ニュースを見ながら自席で過ごすことが多いのですが、先日見たニュースで表題の記事を拝見しました。
https://news.yahoo.co.jp/articles/c4b37b584c918e54f924dca1f55705749b189679
出典は、「幻冬舎ゴールドライフオンライン人気記事」のようですが、記事の「タイトル」が斬新すぎて、サンドイッチを食べる手が思わず止まってしまいました。
https://gentosha-go.com/articles/-/33394
アクチュアリーの方々は、数学科ご出身の方々が多いとは思いますが、“足し算を掛け算で表す”ことは出来ても、少なくとも学校の授業で、“割り算を引き算で表す”ことを学んだ記憶はないように思えます。ひょっとすると、私自身が学んだ『数学(算数)』の教わり方が間違っていたのかと、かなり不安になってしまいましたが。。。
記事の中で紹介されているとおり、“6の中から2を何回“引き算”すればいいのか、その「回数」を求めるという問題”ということを著者は主張したかったようです。つまり、
6-2-2-2=0
という数式を念頭に置いて、「6÷2を引き算で表してください」と表現されたようです。
2.商を表す記号はあるのか
割り算を行う場合、商と余りを求めることになりますが、このうち、整数同士の割り算における余りについては、Excelのmod関数で簡単に計算できます。
実際、例えば、Excelで“=MOD(100,7)”と入力して、Enterキーを押下すれば、2が表示されます。これは、100=7×14+2という関係式で右辺の余り「2」が表示されています。
同様に、割り算における商についても、Excelの int関数で簡単に計算できます。
実際、例えば、Excelで“=INT(100/7)”と入力して、Enterキーを押下すれば、14が表示されます。これは、100=7×14+2という関係式で右辺の商「14」が表示されています。
しかし、何回“引き算”すればいいのかという、その“回数”を引き算で表すことは、やはり難しそうです。なお、“ガウス記号[ ]”をご存じの方であれば、[100/7]=14という式が成り立つことをイメージされるかもしれませんね。
いずれにせよ、著者の主張する“読み聞かせ”で、「ガウス記号」まで習得させることは、相当困難であると言わざるを得ません。
3.掛け算は足し算の延長なのか
2+2+2=2×3という数式を眺めていると、掛け算は足し算の延長かなと思ってしまうかもしれませんが、数学の世界では、掛け算と足し算は全くの別物といってもいいくらいです。
専門的になり恐縮ですが、数学における集合で、掛け算は足し算が定義され、かつ、それらに関して“閉じた”集合を「環」と呼びます。例えば、(有理)整数の集合や行列の集合、多項式の集合などが「環」になります。
しかし、2+2=2×2を、多項式の集合で考えると、例えば、変数Xについて、X+X=X×Xとはならず、(ベクトル空間としての)スカラー積を導入することで、X+X=X×2となり、整数の議論を多項式に持ち込むことができるわけです。
つまり、掛け算は足し算の延長とは、言い切れないのです。
4.足し算を掛け算で表せるか
ところで、一般的な「数」a, bについて、a+bを掛け算で表せるでしょうか?上記の例では、aとbが等しい場合には、a+a=2×aという風に表せるのですが、aとbが異なる場合には、掛け算で表せるのが難しいようにも見えます。
しかし、複素数の概念を導入すれば、この問題は解決します。
つまり、任意の数a, bについて、
a+b=(√a+i√b) (√a-i√b), iは虚数単位
という具合です。
なお、2=1+1=(1+i) (1-i)となりますので、整数論で有名な「ゴールドバッハの予想(=すべての偶数は2つの素数の和で表せる)」の解決の糸口になるかもしれません。興味のある人は是非、チャレンジしてみてください。
5.割り算とは分配
共済事業では、契約者配当を「割り戻し金」と呼称するようです。まさに、事業成果で得られた剰余を契約者全体で平等に分配するイメージですね。
一方、保険事業の契約者配当は英語でdividendと表させるようですが、割り算を意味するdivideと同じ語源を持つ英単語かもしれません。
結局、割り算とは分配であり、その分配を計算するために、引き算の概念を用いると説明しやすいという意味を込めて、著者は表題を付したのかもしれません。
いかがでしたか。上記ホームページによれば、今回ご登場いただいた大学教授は、なんと入試広報部入試部長も務められているそうです。是非、お勤め先の大学入試問題に、今回の“挑戦状”を出題して欲しいと思います。
(ペンネーム:活用算方)