年金アクチュアリーと年金数理人って何が違うの?


早いもので、DBについての記事を書き始めてから10本の記事を公開させていただきました。

確定給付企業年金(DB)とは
なぜDBを導入するのか
DB導入のデメリットはあるのか
DBの給付はどのように決まっているのか【前編】
DBの給付はどのように決まっているのか【後編】
リスク分担型企業年金って何?
DBの財政運営の全体像
DBって掛金の種類多くない?【前編】
DBって掛金の種類多くない?【後編】
DBの財政検証は何のためにあるのか?

今回は、少しいつもと違った話をしようと思います。

これまでの記事でも「年金アクチュアリー」と「年金数理人」という言葉が出てきましたが、
両者は何が違うのでしょうか
今回は、この違いについて、説明したいと思います。

<アクチュアリーとは>

まずは、アクチュアリーとは何かから確認しましょう。
アクチュアリー業務をやっている人のことをアクチュアリーと呼ぶこともなくはないですが、
一般的には「アクチュアリー正会員」のことをアクチュアリーと呼ぶことが多いと思います。
ここでも「アクチュアリー正会員」のことをアクチュアリーと呼ぶことにします。

「アクチュアリー正会員」とは、正確には、「公益社団法人日本アクチュアリー会の正会員」です。
そして、正会員の要件は、アクチュアリー会の定款に以下のように定められています。

第5条 本会の会員は、次のとおりとする。
(1) 正会員
次の(イ)又は(ロ)のいずれかを満たす者。なお、正会員のうち、アクチュアリー学又はこれに関する事業に対して功労がある者として、理事会の承認を受けた者を名誉会員と称する。
(イ)第7条の規定により入会した個人のうち、理事会において別に定める規則に基づく資格試験(以下「資格試験」という。)の全科目に合格し、かつ、理事会の承認を受けた者
(ロ)資格試験の全科目に合格したものと同等の資質を有すると理事長が認め、理事会の承認を受けた者
(2) 準会員
第7条の規定により入会した個人のうち、前号に該当しない者で、資格試験の第1次試験(基礎 科目の全科目)に合格し、かつ、理事会の承認を受けた者
(3) 研究会員
第7条の規定により入会した個人のうち、前2号のいずれにも該当しない者
(4) 法人会員
第7条の規定により入会した官公庁及び法人
アクチュアリー会の定款から引用)

つまり、アクチュアリー試験に全科目合格し、所定の手続きを経て(プロフェッショナリズム研修等)、
理事会の承認を受けた人が、アクチュアリーであるということになります。

<年金アクチュアリーとは>

「アクチュアリー」は、正会員という定義がしっかりありましたが、
「年金アクチュアリー」は何かこれといった定義があるわけではありません。
よく呼ばれているのは、次の2パターンかと思います。

1つは、アクチュアリー試験の2次試験のコースに応じた分類です。
2次試験はご存知の通り、生保コース・損保コース・年金コースに分かれていますので、
どのコースで合格したかの分類で、それぞれ、
生保アクチュアリー・損保アクチュアリー・年金アクチュアリーと呼ばれることがあります。
しかし、アクチュアリー会では、どのコースで合格しても「正会員」でしかなく、
合格コースでの分類はしていません。
従って、例えば、生保コースで合格した人が正会員として損保業務をすることも可能です。
実際、大手生保では生保業務と年金業務の両方の業務があり、
生保から年金に移ったりその逆もあります。
また、転職等でキャリアチェンジする場合もよくあると思います。

2つ目は、年金業務に携わっているアクチュアリーを呼ぶ場合です。
1つ目の通り、合格コースは関係なく、年金業務に携わっているアクチュアリー正会員を
年金アクチュアリーと呼ぶことがあります。
どちらかというと、「年金アクチュアリー」といった場合は、
2つ目の場合を指すことが多いのではないでしょうか。

どちらにせよ、何かに定義されたものではなく、
一般的にそう呼ばれているという類のものに変わりありません。

<年金数理人とは>

次に、年金数理人について確認してみましょう。
年金数理人とは、どこに定義されているかというと、法律に定められています。

確定給付企業年金法に以下のような記載があります。

第九十七条 この法律に基づき事業主等(第三条第一項各号若しくは第七十七条第四項の規定に基づき確定給付企業年金を実施しようとする事業主又は第七十六条第三項の規定に基づき合併により基金を設立しようとする設立委員を含む。)又は連合会(第九十一条の五の規定に基づき連合会を設立しようとする発起人を含む。)が厚生労働大臣に提出する年金数理に関する業務に係る書類であって厚生労働省令で定めるものについては、当該書類が適正な年金数理に基づいて作成されていることを次項に規定する年金数理人が確認し、署名押印したものでなければならない。
2 年金数理人は、前項に規定する確認を適確に行うために必要な知識経験を有することその他の厚生労働省令で定める要件に適合する者とする。
確定給付企業年金法より引用)

そして、年金数理人の要件は、厚生労働省令である、
確定給付企業年金法施行規則に以下のように記載されています。

第百十六条の二 法第九十七条第二項に規定する厚生労働省令で定める要件は、次の各号のいずれかに該当する者であり、かつ、十分な社会的信用を有するものであることとする。
一 確定給付企業年金の年金給付の設計、掛金の額の算定等を行うために必要な知識及び経験を有する者として、公益社団法人日本アクチュアリー会が実施する試験の全科目に合格した者又は公益社団法人日本年金数理人会が実施する試験の全科目に合格した者であり、かつ、確定給付企業年金等の年金数理に関する業務に五年以上従事した者(当該業務の責任者として当該業務に二年以上従事したものに限る。)
二 前号に規定する者と同等以上の知識及び経験を有するものと厚生労働大臣が認める者
確定給付企業年金法施行規則より引用)

つまり、アクチュアリー会の試験か年金数理人会の試験のどちらかで全科目合格し、
さらに業務経験が5年以上あり、そのうち責任者としても2年以上の経験があることが
「年金数理人」の要件となります。

そして、実は、第百十六条の二第二項に、
「厚生労働大臣は、年金数理人の氏名等を記載した年金数理人名簿を作る」旨の規定があります。
従って、「年金数理人とは?」という問いに一言で答えると、
年金数理人名簿に記載されている人」ということになります。

<年金数理人会正会員とは>

既にちょっと出てきましたが、アクチュアリー会とは別の団体で、
公益社団法人日本年金数理人会」という団体が存在します。
年金数理人会にもアクチュアリー会同様、正会員・準会員等の区分があります。
年金数理人会の定款には、以下のように定められています。

第5条 本会は、次の各号に掲げる区分に応じ、資格要件を定め、会員を置く。
(1) 正会員
年金数理人であって、次のいずれかの研修を修了した者
イ 本会が実施する職業専門性に関する研修
ロ イと同等の研修
(2) 準会員
次のいずれかに該当する者
イ 本会が実施する能力判定試験の全科目に合格した者
ロ 公益社団法人日本アクチュアリー会が実施する資格試験の全
科目に合格した者
ハ 公益社団法人日本アクチュアリー会が実施する資格試験の第
1次試験の全科目に合格し、年金数理人を目指し、本会の運営
に貢献することを希望する者
(3) 名誉会員
本会の発展に貢献のあった者として、理事会で決定した者
(4) 特定会員
正会員又は準会員であって 70 歳以上の者のうち、会費の免除を申
請して理事会で承認された者
(5) 賛助会員
本会の目的に賛同する法人
年金数理人会の定款より引用)

つまり、年金数理人会の正会員とは、年金数理人が必要な研修を受けて、
所定の手続きを経た人ということになります。

お気づきでしょうか。
アクチュアリーは、「正会員になるとアクチュアリー」でしたが、
年金数理人は、「年金数理人になってから正会員」なのです。

<年金アクチュアリーならば年金数理人?>

理解力のある皆さんであれば、これまでの説明でお分かりかと思いますが、一応説明しておきます。
アクチュアリーの正会員であったとしても、
年金コースで合格していたとしても、
年金業務に携わっていたとしても、
年金数理人であるとは限りません。
年金数理人の要件に「業務経験」が必要ですので、
社会人2,3年目くらいでアクチュアリー正会員になった人や
途中で年金業務に携わり年金での業務年数が浅い人は、
年金数理人になることができません。
したがって、年金アクチュアリーならば年金数理人というわけではありません

<年金数理人ならば年金アクチュアリー?>

逆もなりたちません。
年金数理人の要件は、年金数理人会の試験合格でもOKとなっています。
したがって、アクチュアリー正会員でなくても、年金数理人になることが可能です。

 

以上、年金アクチュアリーと年金数理人の違いについてでした。
ちゃんと調べてみると似て非なるものですね。
年金業界に興味がある方は、年金アクチュアリーと年金数理人の
どちらになりたいかを考えてみるのも良いと思います。
(おすすめは、どっちにもなることですが!)

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