前回は、DBにおける掛金のうち、前編として標準掛金と特別掛金について説明しました。
後編の今回は、残りの掛金について、説明したいと思います。
DBには、多くの掛金の種類がありました。
復習しておくと、
・標準掛金
・特別掛金
・リスク対応掛金
・リスク分担型企業年金掛金
・特例掛金
の5種類で、最後の特例掛金はさらに6種類に分けられます。
(「事務費掛金」は割愛。)
後編は、「リスク対応掛金」「リスク分担型企業年金掛金」「特例掛金」です。
これらは、年金数理にはあまり出てこない、DB特有のものがほとんどです。
マニアックなものもありますが、一つずつ解説していきたいと思います。
<リスク対応掛金>
リスク対応掛金は2017年に導入された新しい種類の掛金です。
この掛金は、「通常の予測を超えて財政の安定が損なわれる危険に対応する額として算定した額」
(これを「財政悪化リスク相当額」といいます。)に対応する掛金です。
何を言っているのかわからないと思うので、どういうことか説明します。
今までは、標準掛金に追加して掛金を拠出するのは、
特別掛金など「積立不足が生じて初めて拠出できる掛金」ばかりでした。
しかし、積立不足が生じる要因は運用の悪化によることが多く、
運用が悪化するような経済環境のときは、企業の本業の景気も芳しくないことが多いため、
業績悪化と特別掛金のダブルパンチが辛いという意見がありました。
そのため、積立不足が生じる前に将来の積立不足に備えて事前に掛金を拠出しておきましょう、
ということで導入されたのが、リスク対応掛金です。
では、「将来の積立不足」に備える額として、いくらぐらいが妥当なのでしょうか。
多ければ多いほど良いというものでもありませんし、
少なすぎると事前に掛金を拠出してもあまり効果がないものとなってしまいます。
この妥当な金額を法令で定めたものが「財政悪化リスク相当額」です。
リスク対応掛金の計算は、まず、財政悪化リスク相当額のうち、
どの程度事前に掛金を拠出しておきたいのかを決めます。これを「リスク対応額」と呼びます。
あとは、(細かい違いはあるものの)概ね特別掛金と同じように計算します。
つまり、リスク対応額を過去勤務債務とみなして、元利均等償却など4つの方法で、
リスク対応掛金を計算します。
(特別掛金については、前編をご覧ください。)
リスク対応掛金は、必ずしも出さなくて良い掛金を企業が率先して拠出する掛金ですので、
掛金額を変更することは特定の場合以外はできないことになっています。
一度リスク対応掛金を設定すると、基本的には予定通り拠出完了するまで、
支払い続けることになります。
<リスク分担型企業年金掛金>
リスク分担型企業年金掛金とは、リスク分担型企業年金を実施した場合の掛金です。
リスク分担型企業年金以外のDBの場合は、リスク分担型企業年金掛金は存在しません。
また、リスク分担型企業年金には、上記の標準掛金、特別掛金、リスク対応掛金は存在しません。
存在はしませんが、リスク分担型企業年金掛金の計算では、
この3種類の掛金が存在したと仮定して計算します。
これも何言ってるか分かりにくいと思いますが、詳しく説明します。
リスク分担型企業年金を導入する一番初めに、
リスク分担型企業年金以外のDBだと思って標準掛金、特別掛金、リスク対応掛金を計算します。
それを全て合計した金額をリスク分担型企業年金掛金額として設定します。
そして、その後は、リスク分担型企業年金掛金は変更しません。
(ただし、特別掛金部分とリスク対応掛金部分は、償却完了したらその分掛金額は減少します。)
掛金を変更しないため、基本的には追加の掛金拠出は不要であり、
もし不足が発生した場合は、給付額で調整します。
(リスク分担型企業年金の仕組みや給付設計は「リスク分担型企業年金って何?」をご覧ください。)
<特例掛金>
特例掛金は、上記の掛金以外の掛金は全て特例掛金と呼びます。
しかし、特例掛金だけでも6種類もの掛金があります。
簡単に説明していきます。
・非継続基準抵触に伴う特例掛金
特例掛金の中で一番発生する頻度が多い掛金で、
単に「特例掛金」というとこの掛金を差すことが多いです。
非継続基準に抵触した場合は、毎年不足分に充てる掛金を計算する必要があります。
特別掛金のように「3年償却」とかではなく、毎年毎年計算します。
掛金の計算方法は、煩雑なので割愛しますが、
最低限拠出すべき額から不足分を全額手当てする額までの範囲で、企業が決めることができます。
(非継続基準の詳しい説明は「DBの財政検証は何のためにあるのか?」をご覧ください。)
・積立金がゼロになることが見込まれる場合の特例掛金
DB発足当初など、まだ積立金が十分に貯まっていない時に退職者が発生し給付する必要がある場合、
積立金が足りなくなることが稀にあります。
その場合は、特例掛金として不足額を拠出します。
・DB終了時に拠出する特例掛金
DBを終了する場合、積立金は加入者や受給権者に分配されますが、
最低限分配すべき額が決まっています。
それを満たしていない場合(つまり非継続基準を満たしていない場合)は、
不足分を特例掛金として拠出する必要があります。
(非継続基準については「DBの財政検証は何のためにあるのか?」をご覧ください。)
・DC移行する場合の特例掛金
DBの一部を企業型の確定拠出年金(DC)に移行することができます。
この際、DBの積立金をDCに移換することがありますが、
一定のルールに基づき計算した移換に係る額と実際に移換する額を比較して、
不足分があれば特例掛金として拠出する必要があります。
・次回の財政再計算までに積立不足が発生すると見込まれる場合の特例掛金
積立金の運用が不調だったり、加入者数や加入者の給与が著しく変動することが事前に見込まれる場合は、
次回の財政再計算までに見込まれる積立不足分を特例掛金として拠出することができます。
・加入企業が減少する場合の特例掛金
DBは、一つの企業だけでなく複数の企業で実施することが可能です。
しかし、様々な事情で、DBを脱退する企業が出てくることもあります。
その際、積立不足が生じている状況であれば、
脱退する企業ももし脱退しなければ追加で拠出すべき掛金があるはずです。
その分を企業が脱退する際に脱退企業から特例掛金として徴収します。
以上が、DBの掛金の種類です。
たくさんあり過ぎて混乱しちゃいますね笑
実務をやっていない方は、こんなのがあるんだなぁと思っていただければ十分です。
(特に、特例掛金の1つ目以外は、実務をやっていても出くわすことはあまりありません。)
次回はDBの財政検証について解説します。
(次回の記事:DBの財政検証は何のためにあるのか?)