DBって掛金の種類多くない?【前編】


前回は、DBの財政運営の全体像について、解説しました。
今回は、DBにおける掛金の種類です。

DBには、掛金の種類が数多く存在します。
大きく分けると、
標準掛金
特別掛金
リスク対応掛金
リスク分担型企業年金掛金
特例掛金
の5種類に分けられますが、最後の特例掛金はさらに6種類に分けられます。
(この他に「事務費掛金」というものもありますが、年金財政とは関係ない掛金ですので割愛します。)

今回は、これらのうち、年金数理でも学ぶ「標準掛金」と「特別掛金」について、
見ていきたいと思います。

<標準掛金>

標準掛金とは、とある前提に基づき、全てがその前提通りに推移した場合に収支相当するための掛金です。
標準掛金は、年金数理で学ぶことと直接関連がある部分が多いです。

まずは、財政方式を決めます。
年金数理で多くの財政方式を学んだと思いますが、
DBでよく使用される財政方式は、「加入年齢方式」です。
そのほかには、「予想単位積増方式」「開放基金方式」「総合保険料方式(閉鎖型)」を
使用する場合もあります。
計算の対象となる加入者数が少ない等、これらの方式を使用することが困難な場合は、
「一時払積増方式」「個人平準方式」「到達年齢方式」「みなし加入年齢方式」
を使用することもできます。

財政方式が決まったら、 次は基礎率を設定します。
基礎率とは、「予定利率」や「予定死亡率」「予定脱退率」「予想昇給率」などです。
財政方式によっては、「予定新規加入年齢」や「予定新規加入者数」「予定新規加入者給与総額」を
設定する場合もあります。
その他、キャッシュバランス制度であれば、「指標の予測」を設定したり、
給付を年金ではなく一時金で取得する受給者の割合が多い場合等は「一時金選択率」を
設定することもあります。

基礎率は、ある程度法令による制約があります。
例えば、予定利率は、「国債の利回りを勘案して厚生労働大臣が定める率を下回ってはな らない」と
定められていたり、
予定死亡率は、「加入者等及びその遺族の性別及び年齢に応じた死亡率として厚生労働大臣が定める率」を
原則として使用することが定められています。
法令の定めがない部分は、年金数理人がその専門性に基づいて、適切に設定することになります。

 

これらの財政方式・基礎率が予定通りに推移すれば、標準掛金のみで年金制度は収支相当します。

しかし、当然ながら、 完壁に予想通りにいくことはありませんので、
予定と実績がズレることにより過不足が生じてきます。
過不足が生じた結果、積立剰余となる場合はあまり問題ありませんが、
積立不足となると今後の支払いが滞ってしまう恐れがあるため、何かしら手当をする必要があります。

そのための掛金が次の特別掛金です。

<特別掛金>

特別掛金は、 標準掛金で賄いきれなかった場合、つまり過去勤務債務が発生した場合に必要な掛金です。
年金数理では、「特別保険料」や「未償却債務」という言葉になっているかもしれませんが、
同じものです。

特別掛金も考え方は、年金数理で学ぶことと直接関連する部分は多いですが、
DBでは、過去勤務債務の償却方法として次の4つの方法を採用することができます。
また、法令による一定の制約があるため、その範囲内で特別掛金を設定する必要があります。

・元利均等償却

元利均等償却は、年金数理の教科書にも載っている方法で、基本的には教科書通りです。
ただし、DBでは、予定償却期間を原則3年以上20年以下として計算するように法令で定められています。

DBでも、年金数理の教科書に載っているように、
「給与の一定率による償却」と「定額償却」が可能ですが、
給与の一定率で償却することが多いのではないかと思います。

アクチュアリー試験の年金数理の過去問では、
・2020年度問題1(6)
・2018年度問題1(6)
などが、元利均等償却の問題ですので、これらと照らし合わせると理解が深まるかもしれません。
(他にも元利均等償却の問題がないか探してみましょう)

・弾力償却

弾力償却とは、毎年同水準の特別掛金を拠出するのではなく、一定の範囲で弾力的に拠出する方法です。
つまり、一定の範囲内であれば、毎年の掛金を増やしたり減らしたりすることができるということです。
ただし、掛金を拠出する年になって、
「今年は売上が少なかったから掛金を減らそう」といったことはできません。
あらかじめ、毎年の掛金を規約に定めておく必要がありますので、
例えば、5年償却であれば、5年分を全て最初から決めておく必要があります。

アクチュアリー試験の年金数理の過去問では、
・2019年度問題4(1)
などが、弾力償却の問題ですので、こちらも確認して理解を深めてください。
(弾力償却の問題は少ないと思いますが、他にも問題がないか探してみましょう)

・定率償却

定率償却は、これも年金数理の教科書に載っていますが、
過去勤務債務に一定率を乗じた金額を毎年特別掛金として拠出します。
この一定率を「償却割合」などと呼びますが、
DBでは償却割合は15%以上50%以下にしなければならないと法令で定められています。
拠出するたびに過去勤務債務は減っていきますので、特別掛金額はだんだん減少していきます。

ただし、これだと過去勤務債務は0に近づいていくだけで0にはならないので、
過去動務債務が標準掛金額以下となる水準まで減少したら、
過去勤務債務の残り全部を特別掛金として拠出することができます。

アクチュアリー試験の年金数理の過去問では、
・2020年度問題1(7)
・2019年度問題2(2)
などが、定率償却の問題ですので、こちらも確認すると良いと思います。
(他にも探してみましょう)

・段階引上償却

段階引上償却とは特別掛金額を毎年一定にするのではなくだんだん引き上げていく方法です。
DBでは、最初の5年間までは引き上げることができますが、5年を超えた期間は一定でないといけません。
また、引き上げ幅は前年の掛金の2倍超に引き上げることはできません。
段階引上償却も、弾力償却と同様、あらかじめ毎年の掛金を規約に定めておく必要があります。

 

この4つがDBで認められている特別掛金の計算方法です。
特別掛金は、財政再計算のときに過去勤務債務が発生していれば、必ず計算する必要があります。
また、財政検証において、継続基準に抵触した場合にも計算が必要な場合があります。
(継続基準の詳しい説明は「DBの財政検証は何のためにあるのか?」をご覧ください。)

 

以上が、標準掛金と特別掛金の説明です。
年金数理で勉強しただけのときと比べて、イメージが湧きましたでしょうか。

次回は、年金数理ではほとんど触れられることはない、DB特有の掛金について、
解説したいと思います。
(次回の記事:DBって掛金の種類多くない?【後編】

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