アクチュアリー試験講評(2019年度 生保2 編)


2019年度のアクチュアリー試験問題が日本アクチュアリー会ホームページで公開されています。受験された方々は、本当にお疲れさまでした。

合格発表まであと2ヶ月程度ありますので、受験された方も、これから受験される方も気を緩めず、今のうちから試験準備を始めたいところですね。

早速、生保2について講評いたしますので、受験生の一助となれば幸いです。
なお、時間の関係で、具体的な解法に触れることができない点を、何卒ご容赦ください。

1.問題数など
問題内での配点が多少異なりましたが、問題ごとの配点および問題数は昨年度と同じでしたので、受験生にとって、特段大きな混乱はなかったと思われます。
また、昨年に引き続き、出題内容は会計および決算におけるオーソドックスな問題が多かったように見えましたので、受験生にとっては、比較的、取り組みやすかったのではと考えられます。
なお、第Ⅱ部の所見問題では、2つとも25点満点の問題でしたので、それぞれ、4枚ずつ計8枚の解答用紙を埋めなければならず(注)、生保1(第Ⅱ部は7枚)と比較すると、今回の生保2は、第Ⅱ部を重視しているという解釈もできるかもしれません。

(注)あくまでも解答用紙の上限枚数が指定されているだけで、上限よりも少ない枚数で解答しても合格する可能性はもちろんあります。

2.各問題のポイント
問題1(1)
解法:監督指針の穴埋め問題です。出題範囲にALMが入っているため、例えば、平成25年度はALMイシューペーパーから出題されたこともありましたが、今回は監督指針からの出題にしたのだろうと思われます。なお、資産負債の総合的管理がリスク管理やソルベンシー・マージンに深く関係してくることは、この機会に改めて理解されるとよいでしょう。また、問題文の(5)でリスクという用語が登場しますので、試験委員としては、「リスク」をキーワードにして、ある種のヒントを与えているとも考えられます。

問題1(2)
解法:生命保険会計等にかかる○×問題です。例えば、未収保険料の計上が認められていないことを知っている受験生にとっては、①は容易い問題だったでしょう。また、⑤については、例えば、保険収支シミュレーションの実務経験がある受験生であれば、いわゆる『外形標準課税』で保険料の一定割合を法人事業税として(当期損益に係らず)支出項目に計上しますので、こちらも容易い問題だったと思われます。

問題1(3)
解法:利源分析における死差(危険差)損益の穴埋め問題です。教科書1‐128~129ページからの出題です。生保数理で学習した通り、危険保険料が保険金支払に、貯蓄保険料が責任準備金に、それぞれ財源対応しますので、利源分析のことが十分に理解できていなくても、第1次試験の生保数理を思い出して、是非、得点したい問題です。

問題1(4)
解法:ソルベンシー・マージン比率に関する計算問題です。過去問では、平成12年度問題1(3)、平成14年度問題1(5)、平成19年度問題1(3)、平成24年度問題1(4)で出題されていますので、対策を立てていた受験生も多かったと思われます。今回は、リスク量の計算に焦点が当たっていますので、保険リスクであれば各リスクの相関を考慮した集計方法や、予定利率リスクであれば責任準備金に対する予定利率を問題文で与えられた表に基づき『輪切り』にしてリスク係数を求めるといった細かな知識が要求されています。なお、経営管理リスクについては、告示第50号別表第17において、繰越利益剰余金(相互会社は当期未処分剰余金)が零を下回るかどうかでリスク係数が異なりますが、問題文には特段の表示がありませんので、公式解答でどのような解説があるか楽しみです。

問題1(5)
解法:全社区分の4つの機能を列挙する問題です。過去問では、平成17年度問題2(4)、平成27年度問題1(4)で出題されています。なお、4つの項目を列挙せよという問題としては、この問題以外にも、例えば、自己資本の4つの機能、利源分析上の4つの両建て勘定もありますので、まとめて覚えてしまうのが良いでしょう。また、生保1では、アセット・シェア計算の代表的な活用目的、重大疾病保障保険の対象疾病が満たすことが望ましい要件、米国の就業不能所得補償保険で就業不能後の給付金除外期間を30日未満に設定しない理由、第三分野の基礎率変更権行使の認可申請時の審査留意点、個人保険の解約返戻金設定で考慮すべき視点、優良体保険を導入する場合の留意点、付加保険料設定の留意点、商品毎収益検証のモデルを選定する場合の論点、などが4つ列挙する問題ですので、生保1とセットで学習されるのも良いでしょう。

問題1(6)
解法:1号収支分析で責任準備金不足相当額が発生した場合の経営政策の変更を5つ列挙する問題でした。先ほどの問題では4つ列挙でしたので、試験対策としては、いくつ列挙するかを数字ごとに整理するのも良いでしょう。なお、実務基準解説書の第31条第3項に5つ列挙されています。

問題2(1)
解法:標準責任準備金制度の目的および概要を説明する問題です。過去問では何度も出題されているテーマですので、取り組み易かったものと思われます。なお、『今後新たに締結する保険契約のみを解答』とありますので、同制度導入前の、いわゆる認可V(算出方法書V)については言及不要です。ただし、同制度の対象外契約や追加責任準備金についても触れておくことも忘れないようにしたいです。

問題2(2)
解法:低金利下で決算基準日に円金利が急激に上昇という、まさに、決算実務担当者が悩む問題です。「財務諸表」および「監督規制上の健全性指標」では保有債券の含み損による影響が、また、「経済価値ベースの自己資本」では将来の利息配当金収入が改善することによる負債側の軽減は必ず触れる必要があります。なお、現行制度の特徴として、負債側をロック・インすることのメリデメにも触れておくと良いかもしれません。

問題3(1)
解法:契約者(社員)配当に関する問題ですが、①および②は第Ⅰ部対策にも使えますので、これから受験される方は公式解答を是非暗記しましょう。また、③は2つの生命保険商品:
・平準払終身医療保険
・一時払養老保険
については、少なくとも、『平準払vs一時払』、『医療vs養老』および『終身vs
有期』といった違いがありますので、配当基準を考える際にこれらの違いをどのように反映するかを考えれば自然と解答につながってくるでしょう。なお、問題文に与えられたD. について、『発売後の年数が短い配当率設定の在り方』が平準払終身医療保険だけに限定さている点にも注意が必要かもしれません。実際、『発売後の年数が短い』という形容詞が『平準払』を修飾するのか、『医療保険』を修飾するのかに応じて、
《解釈1》保険料払込方法が一時払の場合は債券運用等である程度マッチング可能だが、平準払の場合、将来のニューマネーに対応した運用にも考慮が必要であること
    《解釈2》死亡率等が安定している第1分野商品に比べて、支払率等が安定していない可能性のある第3分野商品は、危険差損益の発生状況が第1分野とは必ずしも同じ傾向を示すとは限らないこと
    という解釈で解答内容が異なる可能性があります。

問題3(2)
解法:生命保険会社の収益管理についての問題ですが、問題3(1)と同様に①および②は第Ⅰ部対策にも使えますので、これから受験される方は公式解答を是非暗記しましょう。また、③は、『会社設立からの経過年数が短く』、『募集人の報酬は販売時に一時支出』、『予定利率は標準利率よりも高水準』、『保有契約は大きく変動』、『継続的に純損失を計上』といった条件が収益管理上のキー項目となりますので、これらを1つずつ吟味しながら、問題文のA.~D. に沿って解答すれば良いでしょう。特に、D.に具体的な収益管理手法の提案(留意点とその対処を含む)とありますので、政策的判断事項を重視する試験委員の目線では、このD.の内容が合否を左右するといっても過言ではありません。

3.次回以降に向けて
いかがでしたか。過去問を繰り返し解いてみると、生保1および生保2の問題文に共通するフレーズが見えてくるかもしれません。例えば、今回の問題3(2)で『会社設立からの経過年数が短く』というフレーズが登場しますが、仮に、生保1の問題文でこのフレーズが登場した場合、(サープラス・リリーフなどの)再保険を活用した新契約費負担の軽減策が思い浮かぶようになれば、試験対策だけでなく実務にも使える知識となるでしょう。
第2次試験では出題範囲が教科書に限定されていませんので、日ごろから『アンテナ』を意識的に広げるようにしながら、金融庁などのホームページにも注意し、幅広い視野を身に着ける習慣を付けるようにするのが効果的と思われます。

(ペンネーム:活用算方)

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