長かった梅雨もやっと明けて、本格的な夏が到来しました。『夏を制する者は、受験を制する』という有名なフレーズがありますが、アクチュアリー試験突破を目指している方々にとって、まさに、暑い夏をいかにして乗り切るかが合否の分かれ目と言えるでしょう。
そこで、今回のコラムでは、第1次試験(生保数理)に登場する様々な『死亡率』について、特に、初学者向けのアドバイスと併せてご紹介して参りましょう。
1.単生命表の死亡率
生保数理を初めて勉強したときに、最初に遭遇する死亡率は単生命表の死亡率でしょう。x歳の期始の生存者数(\(l_x\))と、x歳の1年間の死亡者数(\(d_x\))を用いれば、単生命表のx歳の死亡率は、\(\frac{d_x}{l_x}\)となります。
初学者向けのアドバイスとしては、生存者数は『点』の概念、死亡者数は『区間』の概念です。つまり、生存率は●●年『後』という一時点の概念であり、死亡率は●●年『以内』という一区間の概念です。
2.単生命表の中央死亡率
『中央』とは何かがポイントです。1.でみたとおり、死亡率は『分子』と『分母』で構成されますが、中央死亡率とは、『分母』が中央ということです。
具体的に記号で表せば、\(\frac{d_x}{l_x-\frac{1}{2}d_x}\)となります。(←教科書(上巻)76ページ)
なお、本来の定義は、教科書(上巻)76ページ(2.6.15)にある通り、\(\frac{d_x}{L_x}\)となりますが、1年間の死亡者数の発生が一様であることを仮定すれば、生存者数が直線的に減少しますので、年央、つまり(保険年度を4月始まりと仮定すれば)9月30日または10月1日時点での生存者数として、半年分の『死亡者』を控除したものが分母となりますので、記号で表せば、\(\frac{d_x}{l_x-\frac{1}{2}d_x}\)となります。
3.多重脱退表の絶対死亡率
多重脱退表とは、教科書の第3章で登場する概念ですが、単生命表と異なり、脱退原因が複数(例.死亡と解約など)ある残存表です。例えば、2重脱退残存表では、x歳のA脱退(死亡)者数およびB脱退(解約)者数をそれぞれ、\(a_x\)および\(b_x\)とすれば、A脱退に関する絶対死亡率は、\(\frac{a_x}{l_x-\frac{1}{2}b_x}\)となります。ここで、分母の表示は、2.の中央死亡率と同じ考え方から導かれます。
初学者向けのアドバイスとしては、\(a_x=b_x\)と考えた場合、つまり、単生命表を『強引に』2重脱退残存表と考えた場合、絶対死亡率\(\frac{a_x}{l_x-\frac{1}{2}b_x}\)は中央死亡率\(\frac{d_x}{l_x-\frac{1}{2}d_x}\)に等しいということです。
4.多重脱退表の(絶対ではない)死亡率
3.と同様に、2重脱退残存表で、x歳のA脱退(死亡)者数およびB脱退(解約)者数をそれぞれ、\(a_x\)および\(b_x\)とすれば、(絶対ではない)死亡率は、\(\frac{a_x}{l_x}\)となります。
初学者向けのアドバイスとしては、単生命表の死亡率と同じ形をしていますので、単生命表の学習が一通り終えたら、多重脱退表として最初に学習すべき死亡率と言えるかもしれません。
5.観察死亡率
あまり耳慣れない『観察死亡率』ですが、過去問としては、例えば、平成27 年度の生保数理の問題1(2)で登場します。また、教科書では、(上巻)75ページで登場しますが、その定義式(\(\frac{l_x}{T_x}\))に少し戸惑うかもしれません。何故ならば、定義式に登場する分子・分母とも、生存者数を表すからです。しかし、次のように考えれば、腑に落ちると思います。
教科書(上巻)70ページより、\(d_0+d_1+d_2+ \cdots \cdots d_{\omega-1}=l_0\)となるので、
\(l_x=l_0-(d_0+d_1+d_2+ \cdots \cdots d_{x-1})\) \(=d_x+d_{x+1}+d_{x+2}+ \cdots \cdots d_{\omega-1}\)
となります。つまり、定常状態(社会)において、x歳の期始の生存者数は、集団全体でみた場合の全死亡者数に等しくなります。
したがって、観察死亡率の『分子』は、集団全体でみた場合の全死亡者数であり、分母は集団全体でみた場合のx歳以上の生存者数を表します。
よって、観察死亡率は、『生存者数に対する死亡者数の比率』となりますので、死亡率の一種と言えるでしょう。
いかがでしたか。一口に死亡率といっても、様々な定義があることがお分かり頂けると思います。このような精密な議論をしっかりと理解することが、早期合格の秘訣と言えるでしょう。
(ペンネーム:活用算方)