**プロフィール**
那須川 進一さん
株式会社justInCase CAO,Co-founder
公認会計士、アクチュアリー正会員資格 所有。
東京大学理学部数学科卒業。在学中に公認会計士試験に合格し、監査法人に入る。その後、組織人事のコンサルティング会社で6年間コンサル経験を積み、インターネット広告会社に転職。ビッグデータ解析のデータサイエンティストとなり、広告事業および機械学習に関する特許を3つ取得。2016年12月の株式会社justInCaseの立ち上げとともに共同経営者に。
―インターネット広告会社のデータサイエンティストから、株式会社justInCaseにジョイン。その経緯を教えてください。
最初は、知人だった代表の畑くんから誘われ、「スタートアップの経験ができるなんて面白そう」と軽い気持ちでした。前職のインターネット広告会社で人工知能や機械学習を使ったビッグデータ解析に携わっていたので、「AIで保険をもっと身近にする」というjustInCaseの目指す世界観に、自分のスキルが役立つ確信もありました。「ちょっと手伝ってほしい」と言われて入りましたが、ちょっとどころじゃなく(笑)、これまでの経験をフルに活用しています。
私のキャリアのスタートは公認会計士です。アクチュアリーに興味を持ったきっかけは、監査法人では企業年金監査業務に触れたこと。数学科を出ていたこともあり、数学を使って仕事ができたら面白そうだなとアクチュアリーの試験に挑戦することにしました。監査法人ではまわりがみんな公認会計士だったため、「自分なりの強みを持たなければ」という気持ちも強かったですね。アクチュアリーの正会員になってから、人事コンサルの会社で企業年金を担当したのち、統計学を生かした仕事をしようとデータサイエンティストの道に進みました。
今では、決算業務をする際は公認会計士の知識を活用し、AIを使った膨大なビッグデータ分析ではインターネット広告での経験を生かし、保険料の計算や金融庁へ商品の許可をもらいに行く際はアクチュアリーとして動いています。これまでの経験がすべてつながって生きるなんて思ってもいなくて、キャリアは掛け算で広がっていくのだと実感します。
―現在、justInCaseで手がけていることを教えてください。
AIは、プロダクトそのものになっています。今justInCaseが提供しているのは、スマホの修理費用の保険。「画面が割れると修理が高くついてしまうので、保険に入っておきましょう」というもので、その保険料の設定にAIを活用しています。保険に加入していただいた方にはスマホの縦揺れ、横揺れの頻度や大きさのデータを提供いただき、一人ひとりがスマホをどれくらい丁寧に扱っているのかを数値化します。AIが1日を通したスマホの動きを分析し、丁寧に扱っている人と雑に扱っている人とで、翌月の保険料が変わるという仕組みです。
ほかにも、24時間単位で大切なモノに保険をかけられる「一日モノ保険」も始めており、スマホで保険に「ポチっと入る」世界を実現したいと思っています。当面目指しているのは、「今日はキャンプに行くから、一日だけケガ保険に入っておこう」といった小回りの利く保険をスタンダードにしていくこと。こうした少額な保険は、大手保険会社ではやるメリットが小さい(利益率が低い)ため、なかなか広がってきませんでした。justInCaseでは、AIを最大限活用することにより、より身近な保険を生み出すことが可能になっていくと思います。プロダクト以外にも、保険会社の内部業務も大部分はAIを活用して効率化できます。ユーザーがどれだけ増えても、会社は数人で回せる「人のいらない保険会社」ができれば、保険はもっとリーズナブルになっていくはずです。
-「アクチュアリー」という枠にとらわれず、マルチに活躍している那須川さん。キャリアを広げてきた中で、意識して取り組んできたことはありますか?
「面白そうなことがあればやってみる」と動いてきたら、いつの間にか、スタートアップ企業の共同経営者というポジションにいました。好奇心旺盛で、飽き症なんです(笑)。
でも、監査法人から人事コンサルタント、インターネット広告会社、そして現職へと動いてきた中で、「今の経験やスキルをどう応用できるだろう」ということは常に考えてきました。AIは今後、技術的には頭打ちになると思っており、「いかに使うか」「どの分野に応用するか」を考えることが重要になってきます。保険業界以外にも、非効率的な業務に人的パワーをかけてやっているところは多くあります。公認会計士やアクチュアリーとしてさまざまな組織を見てきた経験を生かして、「ここにAIを導入すれば革新的な業務改善が起こる」といった提言と実践は、どんどん進めていきたいと思っています。