**プロフィール**
福原琢磨さん
EYトランザクション・アドバイザリー・サービス株式会社。トランザクション ディリジェンス エグゼクティブ・ディレクター 年金数理人 日本アクチュアリー会正会員。東京工業大学理学部数学科を卒業後、1996年に生命保険会社入社。年金アクチュアリーとして経験を積んだのち、2009年より現職。
-アクチュアリーになったきっかけを教えてください。
大学で数学を専攻し、数学者を目指す同級生たちのレベルの高さに打ちのめされました。「数学者の道は諦めて就職しよう」と考えて就職活動を始めたときに、アクチュアリーの仕事を知りました。数学を生かせる職種に魅力を感じ、アクチュアリー採用に絞ることに。アクチュアリーに必要とされる確率統計が好きでしたし、新卒としては金融業界は報酬面においても魅力的に映りました。
-社会人1年目から現在に至るまでの経歴を教えてください。
大学卒業後は、大手生命保険会社にアクチュアリー採用で入社、企業年金の数理部門に配属になりました。生命保険会社は当然個人保険部門の方が事業の主軸なのですが、「個人保険部門(主計、数理)は大阪配属、企業年金は東京配属」だと言われ、東京で働きたくて企業年金を希望。以来、企業年金一筋です。
20代のころは、お客様のデータをもとに、ひたすら掛け金や債務計算をするのが主要業務。納期遅れも、計算ミスも許されませんので、緊張感がありました。年次が上がると、下のメンバーが出した計算結果をレビューするなど「自分の手を動かして計算する」現場から少しずつ離れていきました。
2009年からは現職で、年金アクチュアリーとして、M&Aに携わっています。
―アクチュアリー正会員になるまでの勉強と仕事の両立はどうしていましたか?
私は、新卒として生命保険会社に入社をしてから勉強を始め、4年で正会員の資格を取得しました。毎年5~9月は、平日朝1時間、土日どちらか1日は7時間勉強し、試験直前3ヵ月の10~12月は、平日朝1時間+夜3時間、土日は両方10時間勉強していました。会社には「絶対合格します」と宣言することで自分を追い込み、「受かりますので、残業せずに勉強します」と定時に退社。受かっていなかったらひんしゅくものですね。
―転職を考えたきっかけは何でしたか?
生命保険会社での年金アクチュアリーとしての経験を強みに、業務の幅を広げたいという思いがありました。年金制度は退職金制度の一部であり、人事制度の一部でもあります。また、退職給付会計は、財務・経理部門にも関わってきます。生命保険会社ですと、どうしても自社の年金商品を販売することが優先されますので、コンサルティングをするなかで、お客様に本当にあった提案が難しいといったこともありました。そんな中、今の会社を紹介いただき、人事や財務・会計分野におけるコンサルティングといったフィールドが既に確立されており、かつ、中立的な立場でアクチュアリーのスキルを活用できるということで、興味を持ちました。
-今のお仕事の内容を教えてください。
現在所属するEYトランザクション・アドバイザリー・サービスは、グローバルの会計事務所であるEYでM&Aに関連する業務を担当しており、主要業務は財務デューデリジェンス(対象企業の財務面での調査業務)、バリュエーション(企業・資産・事業等の評価業務)やPMI(買収後の統合)の支援などです。財務デューデリジェンスでは、退職金・年金の積み立て状況がひとつの調査ポイントになります。私はその調査と、買収後に退職金や年金制度をどう統合していくかのアドバイザリー業務も担当しています。
調査に関わった企業が無事M&Aを成立させたときの喜びは大きいですが、デューデリジェンスを調査した結果「買収には値しない」と取り引きが破談となることもあります。買収する側(事業会社や投資ファンド)に調査を依頼されることが多いですが、売却側のアドバイザリー業務を担うこともあります。M&Aの際、年金制度の取り扱いに選択肢があることも多いため、各選択肢におけるメリット、デメリットをきちんと伝えるようにしています。何が正しいのか、どう動いていくかを判断するのは最終的にお客様ですが、「すべての材料を検討した上で結論を出した」と思っていただけるよう、情報提供を徹底しています。
―M&Aに携わった中で、印象的な案件はありますか?
ある外資系のPEファンドが、日本の老舗メーカーの一部門と子会社を買収するという案件に携わったことです。この案件は、EYグループで財務、税務、人事、年金、ITと幅広いデューデリジェンスを受託したため、数十人のチームが組成されました。入札案件ということもあり、極めてタイトなスケジュールで、調査期間中は連日遅くまで調査・分析に追われました。
売却される側には年金の積み立て不足があり、それをどう買収価格に反映するのか、また、売り手グループ全体で運営している年金制度を一部門だけどう切り離すのか、切り離した場合の影響などが、大きな論点となっていました。私がその担当として、調査するだけではなく、実際の買収契約に落とし込んでいく上で検討すべき点などを説明し、クロージングまで結びつけられたことは大きな自信となりました。
―アクチュアリーに求められるものは何だと思いますか?
お客様が、どんな情報を必要としているのかを考えて動く力だと思います。退職給付会計や年金財政などは、専門用語も多く、普段年金にかかわっていない方ですと、なかなか理解が難しく、説明するのがとても難しいのです。相手が何をどこまで理解しているのかを先回りして把握した上で、どの情報を使って話すべきか、わかりやすく説明するプレゼンテーション力が常に求められていると感じます。
―これからアクチュアリーを目指す方へのアドバイスはありますか?
アクチュアリーとひと言で言っても、活躍の場は幅広くあります。ニッチな分野でもよいので「この分野であれば誰にも負けない」と言えるようなことを意識してキャリアを積むといいと思います。
私がアクチュアリーを目指していた学生時代や、試験勉強に必死だった新人時代は、「アクチュアリー=数学を使ったプロの計算屋」というイメージを強く持っていました。ただ、キャリアを重ねるにつれて実際に計算することはどんどん少なくなっていき、出てきた計算結果を、お客様の価値向上のためにいかに活用するかということに主軸が移っていきます。「得意な数学を生かして、何を実現したいのか」という長期的な視点を持っておくことも大事だと思います。