アクチュアリーを目指したきっかけは何でしたか。
大学2年時に参加した保険数学の集中講座で「アクチュアリー」という仕事を知り、興味を持ったのが始まりです。2週間出席すれば単位がもらえるという、学生にとって“お得な”講座で、私も軽い気持ちで受講しました。受けてみると、協栄生命(現在のジブラルタ生命保険)の役員の方が講師として来てくれるなど、とても中身の濃いものでしたね。
そもそも、数学が得意で数学科に進学したものの、数学者になるほどの情熱もセンスもなくて(笑)。限界を感じていたときに、数学をいかせる実用的な道を見つけた!とうれしくなった事を覚えています。当時は高校の数学の教員になろうと教職課程もとっていたので、アクチュアリーという仕事を知らなかったら、今頃、教室に立っていたかもしれません。
アクチュアリーの正会員資格取得まで、どのように仕事と勉強を両立していましたか。
入社1年目は18時半には退社し、自宅で数時間勉強する毎日でしたが、仕事に慣れてくると業務量や責任も重くなり、休日や試験前に集中して勉強することが多くなりました。私は正会員になるまで8年かかったので、かなりのスロースターターです。入社して3年で取得した優秀なメンバーもいるので大きな声では言えませんが、毎年コツコツ試験を受け続けたことで、学んだことがしっかり身につきましたし、実務経験を積みながら勉強することで理解がさらに深まったとは思っています。
正会員になるまではずっと主計部に配属され、1年目から5年目までは、保険料率や配当率の計算、業績統計などを担当。先輩が作った数字を確認しながら業務内容を覚え、商品の約款や保険業法といったアクチュアリーの基礎知識もつけていきました。その後、決算の準備金の計算などを担当しました。
正会員資格を取得したことで、業務内容に変化はありましたか。
大きな変化は、社内外から「一人前」として認められることですね。アクチュアリー採用で入社すると同期はみな主計部に配属されましたが、正会員になると、そこから他部署に異動することが多くなります。他部署からしてみれば、やはり「アクチュアリー正会員」に異動してきてほしいというのが本音。私は調査部に異動して金融庁などの役所対応を担当しましたが、他にも、商品開発やリスク管理など、資格を持つことで信頼性が増し、部署から求められて異動していくメンバーは多いです。
保険商品は金融庁からの認可が下りなければ、商品として売り出すことはできませんので、保険の特殊性を理解してもらうよう役所の担当者に説明することが必要になります。入社9年目から約10年配属になった調査部ではその説明業務を担ってきましたが、アクチュアリーの知識や実務経験のおかげで、例えば責任準備金(保険会社が将来の保険金や給付金を支払うために積立てているもの)の計算方法についてなど、金融庁からのさまざまな質問にも答えられるようになっていました。
アクチュアリーとして求められること、必要な要素は何だと思いますか。
まずは、数字が持つ意味をきちんと理解して、それを周りに説明できる力ですね。
新しい保険商品を作るときには、営業側の意見、会社としての意見、お客さまの立場から想定される意見など、あらゆる検討材料があります。そこから、会社としてリスクをとりながらもリターンを計算していきますが、出てきた数字にどんな理由、背景があるのかを誰が聞いても分かるように説明できることが大切。計算して数字を出すだけではアクチュアリーとして一人前とは言えません。
そして、ぶれない判断力もとても重要です。
私は、調査部に在籍していた2000年当時、時価会計をどのように生命保険会社に導入するか検討していた金融審議会の議論を近くでみていました。そのとき導入された責任準備金対応債券(保険契約という長期の負債を持つ保険会社にのみ認められた債券の区分のこと)について、学者や役所の担当者、アナリスト、アクチュアリーなどさまざまな方と、ソルベンシー・マージン基準や規制に関して議論したことがありました。考えの異なる方と意見を交わし、議論を経て何らかの結論に向かっていくことが多いので、「自分はこうすべきだと思う」と、知識や経験に基づいて言える判断力は非常に大切だと思います。
■プロフィール
宮澤仁司さん
第一フロンティア生命保険株式会社。執行役員保険計理人兼コンプライアンス・リスク管理部長。日本アクチュアリー会正会員。東北大学数学科卒業。1987年に第一生命にアクチュアリー採用で入社。主計部、調査部勤務を経て、2011年に第一生命グループの第一フロンティア生命保険株式会社に出向。