いよいよ来年(2018年)4月から11年ぶりに標準生命表が改定適用される。
改定後の生保標準生命表2018(死亡保険用)では、生保標準生命表2007(死亡保険用)と比べて幾つか変更点があり、例えば、死亡率の改善トレンドの導入、死亡率に高度障害が含まれることの明記、保険年齢による生命表であることの明記、および、第三分野標準生命表の国民表の適用などが挙げられるが、第3次補整の方法が変わった点も変更点の1つであろう。
もともと、現行の生保標準生命表2007(死亡保険用)の第3次補整は連立方程式を用いた方法で、アクチュアリー試験の過去問(例.昭和60年度の保険数学Ⅰの問題3など)にもその方法が出題されており、アクチュアリーにとっては必須のテクニックと言えるかもしれない。
しかし、今回導入された第3次補整は、上述の連立方程式とは異なる方法であり、ありていに言えば『最小二乗法』を用いた方法と言えよう。実際、10数個の標本から構成される『死力』と理論値、すなわち、Gompertz-Makeham(ゴムパーツ)の法則による値の誤差の平方和が最小となるように定数を決めるからである。
残念ながら、第3次補整が完全に、つまり、公益社団法人日本アクチュアリー会が2017年5月12日に公開した『標準生命表2018の作成過程』19ページに記載の定数A、BおよびCが小数第10位まで再現できていないのだが、この場を借りて、マイクロソフト社のExcelを用いた定数の決定方法を紹介したい。
まず、『標準生命表2018の作成過程』に沿って、第2次補整まで完了したと仮定する。すると、男女とも0歳から99歳まで粗死亡率が作成されている。そこで、0歳の生存者数を10万人と仮定して、それらの粗死亡率を用いて各年齢の生存者数を求める。
次に、生存者数曲線を4次の多項式と仮定したLagrangeの補間公式に基づく死力およびGompertz-Makeham(ゴムパーツ)法則による死力との差分の二乗平方和が最小となるように定数を決定すれば良い。
数学的にオーソドックスな解法としては、3つの定数A、BおよびCを変数とみなして、それぞれで偏微分した結果がゼロとなるような連立方程式を解けば、3つの定数A、BおよびCが求められるのだが、残念ながら、腕力で解こうとしてもなかなか上手く変形できないように見える。(注:この方法で解けたという人がいれば、是非、このコラムで紹介してもらいたい。)
そこで、Excelを用いて以下の手順で作業を行えば、3つの定数A、BおよびCの近似値が計算できる。
《手順1》Excelの新しいbookを開いて、『標準生命表2018の作成過程』に沿って、第2次補整までをシートで再現。
《手順2》『標準生命表2018の作成過程』18ページに記載の死力μ’(ミュー・ダッシュ)を計算。
《手順3》《手順2》で計算したμ’のうち、男性は81歳から92歳まで、女性は81歳から94歳までを抽出。
《手順4》同じシート上に、3つの定数A、BおよびCの欄を空白セルに設定。セル値はブランクのままでOK。
《手順5》《手順4》で設定した3つの定数A、BおよびCの欄に対応するセルを用いて、Gompertz-Makeham(ゴムパーツ)の結果を《手順3》の右隣のセルに算式入力。
《手順6》《手順5》で入力した算式の右隣のセルに、《手順3》から《手順5》を引いた値を二乗する算式を入力。
《手順7》《手順6》で作成した算式が入力されたセルをすべて合計したセルを設定。つまり、男性は81歳から92歳までの12個、女性は81歳から94歳までの14個の合計を設定。
《手順8》Excelファイルのメニュー(リボン)から「データ」-「ソルバー」を選択。「目的セルの設定」を《手順7》で設定したセルにし、「目標値」を最小値に設定。「変数セルの変更」を《手順5》で設定した3つの定数A、BおよびCの欄に対応するセルに。
《手順9》「制約のない変数を非負数に設定」のチェックを外す。(←ここにチェックが入っていると、3つの定数A、BおよびCがゼロ以上の値となるため、日本アクチュアリー会が公開した定数値が再現できない。
《手順10》解決キーを押下。
《手順11》《手順5》に数値が入力されていることを確認して、再度、上記の《手順8》以降を繰り返す。
恐らく、《手順11》を完了すれば、つまり、上記の計算を2回繰り返せば、日本アクチュアリー会が公開した定数値に近い値が再現できるはずである。
なお、《手順8》で「ソルバー」が見当たらない場合には、Excelのバージョンに合わせて、アドインで追加すれば良い。
IT技術の発達した今日では、机上の計算のみならず、ITスキル(といっても、Excelの初級レベルであるが)も、今後のアクチュアリーにとって習得すべき強力な武器の1つであろう。
(ペンネーム:活用算方)