保険計理人は「人」か「組織」か


『保険計理人』は、保険業法で保険会社に設置が義務付けられている(ただし、外注可)専門職ですが、その要件の1つに「日本アクチュアリー会正会員」があります。
一方、大手生保では、当該正会員だけでも100名超いるため、正会員が“保険計理人をやりたい!”と叫んでも、容易に就任できるポジションではなさそうです。
幸い、筆者は『保険計理人』のポジションを拝命し、金融庁や会計監査人等による“保険計理人ヒアリング”の機会も経験でき、アクチュアリー冥利に尽きる社会人生活を過ごすことができました。

そこで、今回のコラムは、そもそも、保険計理人は「人」か「組織」かという点について、これまでの経験等も踏まえた上で、思うところをお伝えいたします。

1.美濃部達吉

“天皇機関説”で物議を醸した美濃部達吉氏は、中学時代の社会科の授業で学びました。
当時の担当教諭曰く、“多分、高校入試で出題されることはないが、少なくとも日本人として深く強く認識すべき内容だ!”と豪語された記憶がありますが、同教諭の予想通り、高校入試では出題されませんでした(笑)。
久しぶりにネット検索してみると、
・主権は国家にあり、天皇は国家の最高機関
・法律学上、国家は法人と見るべきであり、したがって天皇は法人たる国家の機関
といった文言が羅列されていました。

このため、なんとはなく、“アンタッチャブル”な領域に感じて未だにその気持ちが続いているのも事実です。

2.保険業法

ご案内の通り、保険業法第120条(保険計理人の選任等)が保険計理人の設置根拠規定ですが、同条第2項では、“保険計理人は、保険数理に関して必要な知識及び経験を有する者”とされており、『個人』を指すという解釈ができるかもしれません。

3.大手生保の状況

“⑤当社は、次に掲げる組織等について、他の組織等からの独立を図る等、健全な機能発揮を確保する体制を整備する。(中略)
(サ)保険計理人”
とありますので、『組織』とのご認識かもしれません。
https://www.nissay.co.jp/kaisha/csr/governance/hoshin.html

なお、ほとんどの会社の組織図(例.ディスクロージャー資料等)で“取締役会”から「線」が引かれて『保険計理人』にたどり着くのに対し、同社では各組織と同列に“括弧書き”で保険計理人が羅列されていることがとても不思議でした。

4.金融庁パブコメ

“保険会社では、各機関(保険計理人を含む、以下同様)の PDCAサイクルを整備”というパブリックコメントがなされているため、少なくとも、保険計理人(という地位)について、『機関』と捉えている“有識者”がいらっしゃるかもしれませんね。
https://www.fsa.go.jp/news/27/ginkou/20160603-7/01.pdf

5.日本アクチュアリー会の御見解

公益社団法人日本アクチュアリー会ホームページでは、“計理人業務を受託可能なアクチュアリーが所属する法人会員”という情報が公開されています。
特に、“計理人業務を受託可能なアクチュアリー”という表現がありますので、『個人』を指すようにも解釈できそうですね。
https://www.actuaries.jp/intro/pdf/jutaku20250312.pdf

いかがでしたか。アクチュアリー正会員として一度は経験してみたい『保険計理人』かもしれませんが、改めて個人か組織かを考えてみました。ESR導入など、今後ますます保険計理人の職責が重要になるばかりですが、責任だけではなくそれに見合う正しい処遇や報酬面も大いに期待したいところですね!

(ペンネーム:活用算方)

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