アクチュアリーが仕事のために書くものには2つある。一つは「自分だけが読むもの」、もう一つが「他人に読んでもらうもの」。後者には、
- (社内用語が許容される)社内の電子メール
- 社外の電子メール
- (社内用語が許容される)社内報告の類
- 社外報告の類
- 論文
などがある。「間違いなく相手に通じさせる」ための表現の制約は、下に進むにしたがって強くなる。他人に読んでもらうことを目的とするものをアクチュアリー系の仕事の文書と呼ぶことにしよう。
アクチュアリー系の仕事の文書の特徴は、依頼者に伝えるべき内容が事実と意見に限られている点に
ある。ここで、依頼者とは、インハウス・アクチュアリーの場合は社内の同僚や上司、コンサルティング・アクチュアリーの場合はコンサル業務の依頼者を指す。
内容の精選
必要なことは洩れなく記述し、不必要なことは極力書かないのがアクチュアリー系の仕事を書く時の第一の原則である。何が必要かは、目的により、また相手の要求や予備知識、そして依頼者がアクチュアリーか否かによる。その判断に、書く人の力量があらわれる。
事実と意見の区別
仕事の文書を書くときには、事実と意見との区別を明確にすることが特に重要である。例えば、以下の文のどちらが事実の記述か?そもそも、意見と事実はどう違うのか?
- 矢野恒太は日本アクチュアリー会の初代の代表であった。
- 矢野恒太は日本の偉大なアクチュアリーであった。
前者は事実の記述である。事実の記述は真偽を客観的に確認できる。一方、偉大なアクチュアリーであったという意見の記述に対して、「そのとおり」と賛同する人が多いと推察されるが、人によって評価は異なる。意見は真偽ではかれない。意見は幅の広い概念で、その中には、推論、判断、根拠のある意見、根拠薄弱な意見、確信、仮説などが含まれる。
新聞を読み、ニュースを見る際に、「どこまでが事実か、どこからが意見か」を見極める努力をしてみて頂きたい。事実と意見を区別して書くには、事実と意見を峻別する鋭い感覚が前提となる。
記述の順序
記述の順序に関しては、二つの面からの要求がある。
一つは、文章全体が論理的な順序にしたがって組み立てられていなければならないということだ。もう一つは、依頼者はまっさきに何を知りたがるか、情報をどういう順序にならべれば読者の期待にそえるか、ということに対する配慮だ。忙しい上司やクライアントは、まっさきに結論を知りたがるだろう。
明快・簡潔な文章
アクチュアリー系の仕事の文は、短く心がけて書くべきである。伝える情報量が同じであれば、短い方が優れた文である。
明確に書くには、格の正しい文を書く配慮が必要である。例えば、
- ここで問題となるのは、前に述べたように、医療保険の保険料計算に新型コロナ期間の経験データを用いると入院リスクを過大に評価する。
この文は「ことである」を文末に付け加えないと格の正しい文にならない。
アクチュアリーは、理解できるように書くだけでなく、誤解されないように書かなければならない。また、意地悪く読もうとする読者がいることも想定すべきだ。一つの文を書くたびに、読者がそれをどういう意味に取るだろうかと、あらゆる可能性を検討することが自身のリスク管理にも繋がる。
アクチュアリー系の仕事の文書は内容と論理で勝負すべきもので、文章は、奇をてらわず読みやすいほど良い。
以上、理系の人なら知っている名著「理科系の作文技術」をアクチュアリー系の作文技術としてアレンジしてみました。国際アクチュアリー会の教育シラバスの中にも、以下の記載があります。
Explain common techniques used to produce effective written and oral communications.
同書を読んでみて、アクチュアリー業務、そしてアクチュアリー二次試験の所見対策や論文執筆に活かしてみてはいかがでしょうか。
(ペンネーム:ceraverse)