**プロフィール**
岩崎 宏介さん
ミリマン(※)にて、日本におけるヘルスケア部門及びデータ分析部門ディレクター。日本アクチュアリー会正会員。米国アクチュアリー学会会員。経営学修士。
東京大学数学科を卒業後、大手生命保険会社に入社。10年勤めたのち1999年にミリマンに入社し、2000年よりニューヨークにてヘルスケア・アクチュアリーとして活躍。2013年に帰国し、ヘルスケア部門のディレクターとして5人のメンバーを率いる。
※ミリマン 1947年設立。世界で最大規模の独立系コンサルティング会社としてアクチュアリー分野およびその関連商品・サービスを提供している。
-アクチュアリーになったきっかけを教えてください。
大学卒業後に入社した大手生命保険会社で、主計部に配属されたので、アクチュアリーの資格を取らざるを得なくて・・・。自ら「アクチュアリーになろう」と思ったことはないんです。
大学生になるまで、将来の夢は数学者でした。数学者になる以外、社会への興味はまったくなかったのですが、大学に入って挫折。著名な数学者が書いた教科書は、半ページ読むのに1日かかるほど難解で、勉強すればするほど、歴史に名を残した数学者たちがいかに偉大なのかを痛感しました。自分はその数学者たちの足元にも及ばないと打ちひしがれ、夢への道を断念。数学者になれないんだったら、どこに就職しても同じだ、一生奴隷みたいなものだと自棄になり就職活動を始めました。生命保険会社に決めたのは、「アクチュアリーの先輩が連れて行ってくれたランチが一番おいしかったから」。そんな理由で入社したのが、社会人人生の始まりです。
-現在に至るまでの経歴を教えてください。
生命保険会社には10年いました。入社後、主計部に配属されても「アクチュアリーなんて計算屋でしょう」などと大口を叩いており、先輩たちから「正会員になってからバカにしろ」とよく怒られていましたね。10年かけて資格を取り、その後、ミリマンに入りました。
転職のきっかけは、(転職前の)最後の3年間に在籍していた系列のシンクタンクで、アメリカの医療保険制度に触れたこと。「これは面白い!」とヘルスケアアクチュアリーに興味を抱き、ヘルスケアのコンサルティング部門を持つミリマンへ。翌年からニューヨークへの異動が決まり、13年の勤務を経て、2013年に東京に戻ってきました。
-アメリカの医療保険制度の、どんな点が興味深かったのでしょうか。
病院へのインセンティブの付け方で、提供する医療の内容が大きく変わる。その影響力の大きさが面白いと思いました。日本と比べ、アメリカの医師は非常にビジネスライクに“病院を経営する”意識が強く、“儲ける”ことに貪欲です。
例えば、患者が病気になり入院すると医師としては儲かるので、長く入院させるようインセンティブが働きがちです。しかし、保険会社には、患者が病気になったら、治療費の頭金のみを払う仕組みを作っているところがあります。この仕組みにより、医師には、できるだけ短い入院日数で治療を終えようとするインセンティブが働くのです。
どんな制度であれば、入院日数が短くなるのか、医療費が変動するのかを予測するのがヘルスケアアクチュアリーの役割であり、企業にいかに利点があるかを追求するビジネス寄りな点にも興味を持ちましたね。
-今のお仕事の内容を教えてください。
製薬会社を中心に20社ほど担当し、お客様からのあらゆる調査ニーズに応えながら、データ分析、調査結果の提供などを進めています。治療費の費用対効果分析も手がけており、例えば、C型肝炎の患者さんにかかる治療費の費用対効果を考える際は、治療できた際には肝臓がんや肝硬変になるのを防げる、という点まで計算して検証を進めます。アクチュアリーは、計算によって将来を予測する仕事。費用対効果分析では、そのスキルをしっかり発揮できていると感じています。
―アクチュアリーという仕事の魅力は何だと思いますか。
実は2013年に東京に戻ってくるまで「アクチュアリーになってよかった」と思ったことはないんです・・・。アクチュアリーじゃなくてもデータサイエンスがあればいいし、計算ができればいいのだと思っていまして・・・。でも、製薬会社の分析を手がける今、アクチュアリーという専門職だからこその行動規範や実務基準の縛りが、中立で公正な分析を可能にしていると実感します。クライアントではなく、薬を手にし、治療を受ける患者さんに向いた分析をすべきであるという“独立第三者”として、アクチュアリーの存在はプロジェクトに欠かせません。
私が考えるアクチュアリーの面白さは、人間社会の予測ができるところでしょう。ヘルスケア領域は、人々のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を高めるサービス業の最終形態であり、生活のベースにあるものです。「短期的に利益が出たとしても、それは違うんじゃないか」「長期的に人々が幸せになるために、違う方法があるんじゃないか」と考える仕事には大きな意義があると思っています。