2024年度のアクチュアリー試験問題が日本アクチュアリー会のホームページで公開されました。長い勉強期間を経て挑んだ試験、まずはお疲れさまでした!「年金1」は受験生にとって範囲が広く、対策が難しい科目のひとつです。本記事では、この試験のポイントを振り返りながら、次回以降の学習に役立つヒントをお届けします。
1.問題数と全体の難易度
問題数や配点は昨年とほぼ同じであったため、大きく戸惑うことは少なかったかもしれません。いくつか難しい問題もありましたが、全体的な難易度は標準的だったのではないかと思います。
所見問題では、ここ最近で初めてDBに関するテーマが出題されませんでした。年金1では珍しく公的年金に関するテーマが必須解答となり、DCに関するテーマだけの問題も過去ほとんど出題されていませんでしたので、所見問題に関しては戸惑った受験生もいたかもしれません。
2.各問題の分析と講評
問題1(1)
講評:業務概況の周知に関する問題です。業務概況の周知については、業務ではあまり関与しない受験生が多いと思いますが、条文からの出題であり穴は基本事項ですので、落とせない問題です。
問題1(2)
講評:運用方法の除外に関する内容です。除外の要件が緩和されてから6年ほどが経ち、改めての出題です。こちらも条文からの出題であり穴は基本事項ですので、落とせない問題です。
問題1(3)
講評:DBに関する正誤問題です。ア~ウは比較的わかりやすい問題でしたので、解答できた受験生も多いと思います。
エに関しては、他制度掛金相当額に関連する問題で、今年の時事問題のメインテーマですね。経過措置の終了を押さえていた受験生は多かったと思います。ただし、挙げられている変更内容が非常に細かいため、6つ全てに自信を持って解答できた人は少なかったのではないでしょうか。「企業型確定拠出年金の拠出限度額に係る経過措置に関するQ&A」を熟読していた受験生のみが答えられる問題です。
問題1(4)
講評:DCに関する正誤問題です。下線が長く全ての誤りを見つけるのに苦労するタイプの問題です。実際、全ての問題で複数の誤りがあります。いずれの問題も比較的わかりやすい問題ですが、細かい箇所までしっかり覚えておかないと正答するのは難しいでしょう。
問題1(5)
講評:公的年金に関する問題です。ア・ウは基本事項ですので、落とせない問題です。
イに関しては、「特例的な繰下げみなし増額制度」自体を知らなかった受験生も多いのではないでしょうか。制度の改正に関する問題は、大きく話題になっていない箇所からも出題されるので、注意が必要です。
問題1(6)
講評:外部積立型退職一時金と税制からの問題です。ア~エは基本事項ですので落とせない問題です。
オは退職所得になるかどうかの問題ですが、かなりマニアックな問題だと思います。実際問題として、退職所得になるか一時所得になるかどうかは税制優遇が全く異なりますので、実務でも慎重に対応していると思います。
問題2(1)
講評:DBに関する簡記問題です。ア・イ・エは基本事項ですので、ほぼ完璧に書ける必要があります。ウに関しては時事問題で、他制度掛金相当額の導入に関連して変更となった部分です。他制度掛金相当額の法令改正を全てチェックしていた受験生は問題なく書けたのではないかと思います。
問題2(2)
講評:DCに関する簡記問題です。アは基本事項ですので、落とせません。イはまたしても他制度掛金相当額の導入に関連して変更となった部分です。ウは、加入者保護の措置に関する問題で、チェックできていなかった受験生もいたかもしれません。
問題2(3)
講評:公的年金に関する簡記問題です。いずれの問題も、公的年金についてしっかり勉強できている受験生にとっては簡単な問題ですが、中途半端にしか勉強できていない受験生には全く書けない問題だと思います。合否の差がつく問題です。
問題2(4)
講評:この問題については、知らなかった受験生も多かったのではないでしょうか。恥ずかしながら筆者自身も初めて知った内容でした。全くわからない問題は、時間を使わずに諦めることも試験に合格する上では大切です。
問題2(5)
講評:税制に関する簡記問題です。字数制限も50字ずつと簡単に書けば良いだけですので、知識があるかどうかが問われるシンプルな問題ですね。国民年金基金の遺族一時金だけは悩んだ受験生もいたかもしれません。
問題3
講評:リスク分担型の制度変更に関する問題です。メインは(2)~(4)の給付減額の部分でしょう。特に(3)を受験生に問いたくて作成した問題なのではないかと思います。
リスク分担型の減額判定は、通常DBの減額判定と異なりますので、その点は押さえられていたのではないかと思います。問題は、実際に計算できるのかという点で、やはり(3)が解けるかどうかで差がついた問題なのではないでしょうか。
問題4(1)
講評:企業型DCの拠出限度額に関する問題です。拠出限度額を62,000円に引き上げるという報道が出たばかりでまさに時事中の時事問題でしょう。12月1日に他制度掛金相当額を含む拠出限度額の変更が行われたばかりですので、これらも含めて対策をしていた受験生は多いのではないでしょうか。
基本的には、社会保障審議会の企業年金・個人年金部会の議論を追っていれば問題なく書けたと思います。議論の整理が公表されたのは試験の後でしたが、あの内容が書けていれば合格ラインなのではないでしょうか。
問題4(2)
講評:基礎年金の長期化に伴う問題に関する問題です。基礎年金の水準が低下することへの対策方法はいくつかありますが、「調整期間の一致」についての所見を書かせる問題ではないかと思います。これも時事中の時事問題ですね。マスコミや国民が誤解しているようなテーマは過去にも出題されており、アクチュアリーとして正しく認識するようにという意図を感じます。こちらも対策していた受験生は多いと思います。企業年金・個人年金部会の議論を追っていれば問題なく書けたと思います。
3.次回以降に向けたアドバイス
いかがでしたでしょうか。第Ⅰ部では、法令の理解・暗記が基本です。その上で、教科書やQ&A、各種ウェブサイト、時事ネタなどの細かな部分にどれだけ対応できるかが、合否を分ける鍵となります。第Ⅱ部の対策としては、時事問題が出題されやすい傾向にありますので、日頃からの情報収集が欠かせません。その上で深く理解し自分で考える癖をつけておく必要がありますね。
年金1の出題範囲は非常に幅広いので、いかに勉強漏れを防げるかどうかが合格への近道だと思います。
ペンネーム:mizuki