生保数理における広義積分


先日、とある勉強会の受講生から、「2023年度のアクチュアリー1次試験(生保数理)の問題2(2)の公式解答に登場する、“広義積分における積分と微分の順序交換”が分からない。教科書にも見当たらないので解説して欲しい。」というご要望をいただきました。

そこで、今回のコラムでは、数学科出身かつ長年にわたって生保数理に携わってきた者として、初心者にも分かりやすい解説を試みます。

1.該当の問題

幸い、公益社団法人日本アクチュアリー会ホームページで過去問が無償公開されていますが、本件の問題は以下のリンク先に掲載されています。
https://www.actuaries.jp/lib/collection/books/2023/2023B.pdf
詳細は当該リンク先をご覧いただければと思いますが、「生存確率の対数関数の値」を求めるという、あまり見たことがない問題です。

2.教科書の本文と練習問題

幸い、生保数理の教科書も、同会ホームページで無償公開されていますが、本問は「完全平均余命」に関連するため、教科書(上巻)61ページ(2.5.4)などが参考になるものと思われます。
https://www.actuaries.jp/examin/textbook/pdf/seiho-suuri_1.pdf

なお、当該ページでは、積分区間が[0, ω-x](ただし、ωは最終年齢)であり、有限区間の積分で「完全平均余命」が定義されているものの、一方、同書68ページ問題(16)の解答である同書237ページ下から9行目では、何故か当該区間が[0, ∞]の「広義積分」となっていて、さらに、本問に登場する“積分と微分の順序交換”が何ら断りなく使用されています。
つまり、教科書として、「本文」と「練習問題(の解答)」に“ずれ”が生じているように見えますので、機会があれば、是非、教科書を改訂して欲しいと願うばかりです。

3.マークシート方式の問題文

そもそも、生保数理を含むアクチュアリー第1次試験(基礎科目)はマークシート方式ですので、適切な時間で正解できれば十分合格できるはずです。
したがって、少なくとも、問題文に登場する「l(エル)×μ」に関する「不等式」は気にせず、その後に記載の“広義積分における積分と微分の順序交換”を表す等式が使えれば十分であるという極論(暴論?)も成り立ちそうです。

もちろん、理系専門職を目指す身としては、教科書に明記されていなくとも、数学的に厳密な議論を展開する能力は重要でしょうが。

4.厳密な証明!?

折角の機会ですので、数学的に厳密な解釈を遺しておきましょう。
広義積分の収束では、「優関数」が重要な役割を果たしますが、具体的には、上述の「不等式」の後に記載の“d/dx∫=∫d/dx”、つまり、微分と積分の順序交換が可能であることの(十分)条件として、当該「優関数」が存在すれば良いことになります。
なお、詳しく知りたい方のため、「優関数」などが登場するサイトを紹介しておきます。
https://math-juken.com/sikaku/kougiitiyou/
https://ja.m.wikibooks.org/wiki/%E8%A7%A3%E6%9E%90%E5%AD%A6%E5%9F%BA%E7%A4%8E/%E9%96%A2%E6%95%B0%E5%88%97%E3%81%AE%E6%A5%B5%E9%99%90

いかがでしたか。アクチュアリー試験科目としての「生保数理」は、一昔前、「生命保険数学」と呼ばれていましたので、もちろん「数学」の一種です。ただし、大学などで学習する「数学」と比べた場合、“実務優先”との考え方で数学的厳密性が(多少)犠牲になっている点も否めません。いずれにせよ、当コラムがアクチュアリー試験の受験生にとって一助となれば幸いです。

(ペンネーム:活用算方)

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