リスクの語源
ピーター・バーンスタインの名著「リスク 神々への反逆」の冒頭で、リスクの語源を以下のように説明しています。
「リスク(risk)」という言葉は、イタリア語のrisicareという言葉に由来する。この言葉は「勇気を持って試みる」という意味を持っている。この観点からすると、リスクは運命というよりは選択を意味している。
Riskという英単語
Riskという単語を類語辞典で引くと、出てくる単語はdanger, chance, gamble, hazard, jeopardy, peril, possibility。確かに、chance(チャンス)やpossibility(可能性)も含まれていますね。
ポジティブなもの
- Chance (チャンス): 機会や可能性としてポジティブに使われることが多い。
- Possibility (可能性): 新しい可能性や希望を示唆するポジティブなニュアンスが強い。
ネガティブなもの
- Danger (危険): 危険性や恐れを伴う状況。
- Gamble (ギャンブル): リスクが高く、ネガティブな結果になる可能性がある行為。
- Hazard (危険): 潜在的な危険要因。
- Jeopardy (危機): 危険にさらされている状況。
- Peril (危機): 重大な危険や損害の可能性。
日本語のリスク
日本では「リスク」というカタカナ語が頻繁に使われていますが、その定義が曖昧な点は複数の文献で紹介されています。
ゼロからわかる金融リスク管理(森本祐司著)
実は、リスクの定義というものは容易ではない。一般的には「嫌なこと」「起こってほしくないこと」など、あまり望ましくないことを想起するだろう。
フィナンシャルERM(ポール・スウィーティング著)
「リスク」という言葉には様々な意味があるので、参照するときには曖昧さを避けることが重要である。
「損保」第10章 リスク管理(日本アクチュアリー会著)
「リスク」という言葉は様々な分野で広範な意味を持って使用されているが、本章ではリスクを「期待と実際の結果との乖離」として考えている。
このように、「リスク」という言葉は、その定義や解釈が分野や文脈によって大きく異なります。特に、アクチュアリーにとって、リスクの正確な理解と適切なマネジメントは業務のコアを成すものです。そのため、リスクをどのように定義し、評価するかは極めて重要です。
アクチュアリー目線でのリスク
損保数理を勉強すると、リスクは主に損害の発生頻度や規模を予測し、それに基づいて保険料を算定するプロセスであることを学びます。一方で、ERM(Enterprise Risk Management)のフレームワークでは、リスクは組織の目標達成に影響を与えるものとしてとらえます。この視点では、リスクは必ずしもネガティブなものだけでなく、チャンスや成長の機会も含まれます。実際、「保険2(生保)」第4章 リスク管理(日本アクチュアリー会著)でも、以下の記載があります。
ERM は、下方リスクだけでなく、上方リスク(チャンス)の管理もその対象とする
つまり、適切なリスクテイクは組織の価値を高める可能性があるということですね。
アクチュアリーとして、ERMのプロセスに携わる際には、リスクの定義や範囲を明確にし、関係者間で共通の理解を持つことが求められます。ただし、これを行うことが容易でないことは、「ゼロからわかる金融リスク管理(森本祐司著)」の中でも詳述されています。
近年の複雑化するビジネス環境や規制強化の中で、リスクマネジメントの重要性は一層高まっています。AIリスクや気候変動リスクなど、新たなリスクも台頭しており、これらに適切に対処するためには、従来の枠組みにとらわれない柔軟な発想が必要です。
最後に、ピーター・バーンスタインの言葉を再掲すると、リスクは「勇気を持って試みる」ことであり、「運命というよりは選択」を意味します。アクチュアリーは、データ分析を通じてリスクを明らかにし、その上で最適な選択を導く役割を担っています。「リスク」は単なる危険や不確実性だけでなく、チャンスや成長の可能性も秘めています。急速に変化する現代社会において、「リスクとは何か?」というアクチュアリーの原点に立ち戻って考えるきっかけになると幸いです。
(ペンネーム:ceraverse)