DBの数理計算業務の実務【決算編(前半)】


年金アクチュアリーが活躍する領域はいくつかありますが、DB(確定給付企業年金)の数理計算業務がメインフィールドの一つであることは、ご存知の方も多いと思います。

しかし、その実務の内容となるとどうでしょうか。

実務の経験がある方以外は、具体的に何をしているのかは不明な点も多いのではないでしょうか。

そこで、DBの数理計算業務の具体的な実務について、数回に分けて解説していきます。

各社で多少の違いはありますが、ここでは一般的な内容を中心に説明していきます。

今回は、その中でも基本となる「決算業務」に焦点を当てます。

 

・決算業務の概要と目的

まず、決算業務の概要と、それがDBの運営においてなぜ不可欠であるかを見ていきましょう。

決算業務は、DBの数理計算業務の中でも基礎的な業務です。

特に新入社員など、DBの数理計算に初めて携わる方は、まずこの決算業務から始めることが多いでしょう。

DBでは毎年、決算および財政検証を行い、厚生労働省に報告書(様式C6・様式C7)を提出する必要があります。

このうち、様式C7「決算に関する報告書」の作成が、決算業務の主な目的です。

 

厚生労働省HPより

 

また、様式C7は形式的でわかりにくいので、顧客企業向けに分かりやすく説明した報告書を作成することも含まれます。

これは、各社オリジナルの報告書を作成しています。

決算業務の背景には、DB法第100条があり、ここでは事業主が毎事業年度終了後、四か月以内に報告書を作成し、厚生労働大臣に提出する義務が定められています。

 

DB法第100

事業主等は、毎事業年度終了後四月以内に、厚生労働省令で定めるところにより、確定給付企業年金の事業及び決算に関する報告書を作成し、厚生労働大臣に提出しなければならない。

 

決算業務で適切な計算が行われていないと、年金資産が知らぬ間に不足し、発覚したときには多額の追加掛金を拠出せざるを得ない状況に陥る可能性があります。

こうした事態は企業にとって予期せぬ財務負担となり、経営に大きな影響を及ぼすことがあります。

最悪の場合、企業が追加掛金を拠出できず、DBの加入者や受給者への必要な給付が滞る恐れすらあります。

このようなリスクを回避するためには、年金アクチュアリーによる決算業務の正確な実施が不可欠です。

 

・業務のタイミング

DB法第100条に基づき、報告書の提出期限は「事業年度終了後四か月以内」です。

たとえば、3月末決算の場合、提出期限は7月末となります。厚生労働省への正式な提出は顧客企業が行うため、アクチュアリーとしては6月末までに企業への報告を行うように作業を進めることが一般的です。

業務のスケジュールとしては、3月末のデータをもとに、4月上旬から6月下旬にかけて作業が進められます。

 

・数理計算業務のミッション

様式C7を作成するために、アクチュアリーとしてのミッションは特に以下のことが該当します。

責任準備金・最低積立基準額の計算

責任準備金は、年金制度が継続して運営される際に必要とされる年金資産の額、最低積立基準額は、年金制度が仮に終了するとした場合に必要な年金資産の額です。

これらは年金数理を使って計算する部分で、最もアクチュアリー的な計算になります。

財政検証

年金資産が責任準備金や最低積立基準額を上回っているかを確認します。

万が一下回っている場合は、掛金を計算する必要があるかどうかを判定します。

特例掛金の計算

年金資産が最低積立基準額を下回り掛金を計算する必要があると判定された場合、拠出すべき特例掛金を計算する必要があります。

特例掛金の計算は、財政決算と同じタイミングで行い、様式C7に記載する必要があります。

ちなみに、年金資産が責任準備金を下回り掛金の計算をする必要があると判定された場合は、財政再計算を行うこととなり、決算業務と別の業務になります。

利源分析

決算の結果、剰余金・不足金が発生します。

その要因を分析することを利源分析と呼びます。

その他、数理上影響のある事象が発生していないかの確認

ただ計算を行うだけでなく、数理上影響がある事象が発生していないかを確認し、場合によっては発生事象に応じて適切な対応を行います。

例えば、給与の水準が急激に変動していたり、リストラなどにより例年の数倍の退職者がいる場合は計算結果に大きな影響を与えます。

事象の詳細を確認し、現在の計算前提のままで問題ないかどうかを検証し、問題があるようであれば財政再計算の実施などを検討します。

 

・業務量(案件数)

決算は、全ての企業年金で毎年1回必ず実施する必要があります。

従って、案件数は保有するDB全件となります。

受託している件数が多い会社では、数百件~千件を超えると思います。

決算が3月末決算の企業が多いですが、実は意外と他の月にもバラけています。

3月末以外に多いのは、12月末や9月末です。

他の月も数は少ないですが、ゼロではないので、一定程度1年間で分散しています。

とはいえ、3月末決算の集中度は高いので、4月上旬~6月下旬が繁忙期となります。

 

少し長くなりましたので、続きは【決算編(後半)】で説明しようと思います。

次回は、データの入手から計算、利源分析までの具体的な手順について詳しく説明します。

 

ペンネーム:mizuki

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