書評(主要国における保険規制・監督動向について)その1


損保総研(https://www.sonposoken.or.jp/portal/seminar/)は、『公益財団法人損害保険事業総合研究所』の略称ですが、(今は亡き)生命保険文化研究所の『損保版』とも言うべき学術団体で、損害保険業界における実務から学術的側面まで幅広くカバーする我が国唯一の損保業界団体といっても過言ではありません。
また、国際的な再保険取引という損保業界の特殊性を鑑みた場合、生保よりも損保の方が常に、先進的であることは確からしいようで、例えば、カナダの『Term to 100』にみられるような予定解約率を用いた商品においては、1998年の某損保子会社が当該商品を先行発売した事実を捉えても、その先進度合について(残念ながら?)『損保>生保』といった構図は反論の余地はなさそうです。

そこで、今回のコラムでは、損保総研の“お家芸”とも言うべき、調査報告書・レポートの(当コラム執筆時点における)最新版である『主要国における保険規制・監督動向について-損害保険会社のソルベンシー・業務範囲規制を中心として-2024年3月発刊』について、経済価値ベースのソルベンシー規制を目前に控えた保険業界にとって重要な論点を中心に思いつくままご紹介いたしましょう。

1.「はじめに」から

“2019年11月、IAISにおいてIAIGsのためのComFrame等が採択された”という趣旨の出だしで始まる「はじめに」ですが、筆者にとって、まさに“英語略語の嵐!”という、何とも、やる気が削がれる嫌悪感(失礼!)を感じざるを得ません。
要するに、低金利下における「逆ざや」を中心とした保険会社破綻を経験した業界人として、未来永劫、二度とこのような事態を生じさせないという確固たる決意の下、如何にして“契約者保護”および“健全性確保”を推進するかを、分かりやすい丁寧な言葉で説明する必要があるように思います。

一方、(急激な?)金利上昇を踏まえた場合、保有債券の含み損対応など、従前から叫ばれていた“市場金利上昇による資産棄損の対応策”が不十分であった点についても、結果論に過ぎませんが、アクチュアリーの一人として、忸怩たる思いがあるのも、また事実と言わざるを得ません。
いずれにせよ、生損保および信託銀行共通の課題として、真摯な取り組みが必須である点は異論がないように思います。

2.国際資本基準(ICS)

続けて、“はじめに”の第二段落では、“ComFrameとは別に国際資本基準(ICS)”の策定が進められているとの記述があり、往々にしてグローバルなルール制定時に“最大公約数的な妥協点”を探るある種の“落としどころ”を探る動きがあるようにも思います。
もっとも、世界基準としてのルールの一本化は、果てしなく遠い理想郷を目指すような感じですので、拙速な結論はかえって制度進展を後退させる恐れがある点にも留意する必要はありますね。

3.2021年の保険業法改正

続けて、2021年の保険業法改正について触れられていますが、コロナ禍の中、国を揺るがす事態に陥った環境下でも、常に、冷静な対応が求められる政治的重要性を改めて痛感した状況であったように感じられます。
具体的な改正状況につきましては、例えば、以下のサイトをご覧ください。
https://www.mhmjapan.com/content/files/00050699/20211217-124939.pdf

4.調査時期

各種の文献やインターネットに加えて、2023年11月~2024年1月にかけた同研究所による調査結果を踏まえた内容であることから、現時点では、保険業界での最新情報の宝庫と言えるかもしれませんね。

5.略語など

当該報告書の3~7ページかけて、ソルベンシー規制関連の主な用語が日英で掲載されている点も、特に、筆者のような初学者にとっては本当に助かります。
実は、某コンサルティング会社の方と経済価値ベースのソルベンシー規制に関する意見交換をした際、『CNHR』という単語が話題となり、不勉強であった筆者は最後まで、当該単語の正確な意味が把握できないままでした。
経済価値ベースのソルベンシー規制に従事するアクチュアリーにとっては、極めて当たり前の単語のように思えるのですが、必ずしも当たり前ではない人も多い点にも焦点を当てていただけると(個人的には)とてもありがたいです。

いかがでしたか。筆者の勉強不足により、調査報告書・レポートの『はじがき』だけでコラムが終わってしまったことを深くお詫び申し上げると共に、次回は、もう少しマシなコラムに仕上げられるように、引き続き、鋭意学習を進めて参ります。(当コラムタイトルを「その1」とさせていただいたのもその理由によるものです。)

なお、損保総研からの調査報告書・レポートとしては、今回ご紹介したもの以外にも、例えば、『欧米の保険会社におけるERM(統合リスク管理)の進展と事業活動への影響2020年3月発刊』もあるようですので、機会があれば、是非、こちらの書評もコラムにできればと考えております。

(ペンネーム:活用算方)

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