生命保険会社のディスクロージャー資料


生命保険会社のディスクロージャー資料につきましては、以前のコラム『ディスクロージャー資料(生命保険会社編)2022年7月18日(月) 』で基本的事項を中心にご紹介させていただけましたが、幸い、その後、他社のアクチュアリーと意見交換する中で、有益な情報を幾つか教えていただけました。

そこで、今回のコラムでは、これらの追加情報を含めて、今後のディスクロージャー資料のあり方(例.経済価値ベースのソルベンシーなど)について、思うところを述べてみます。
なお、最新のディスクロージャー資料は、全ての閲覧が未完了のため、当コラム内容に古い情報が含まれることを何卒ご容赦ください。

1.保険引受リスクの説明図

エヌエヌ生命さんのディスクロージャー資料(30ページ)には、保険引受リスクに関する記載がありますが、特に、商品開発時の詳細リスク検証の図が、アクチュアリー試験(第2次試験(専門科目)の教科書『第4章 生命保険の商品開発』4‐8ページに記載の各プロセスと似ている点が面白いですね。
https://www.nnlife.co.jp/library/pdf/company/results/NNLJ_2022Disclosure_202307.pdf

2.保有契約高の推移

財閥グループの総力を結集して成長著しいメディケア生命さんのディスクロージャー資料(36ページ)では、保有契約高が10万件ずつ突破した時期が時系列で紹介されています。
また、“責任準備金については、法令の定めに基づき2023年度末から標準責任準備金を積み立てております。”とあり、驚異的なスピードで標準責任準備金の積立てを達成された点も大いに注目されますね。
https://www.medicarelife.com/company/performance/disclosure/pdf/disclosure_2024.pdf

3.組織図の呼称

FWD生命さんは、組織図を『機構図』と呼称されている模様です。
もっとも、法令等では、『組織図』という名称を使用する義務はありません。
https://www.fwdlife.co.jp/files/v3/assets/blt52d7347d77fa3188/blt3ee479d76a31a20b/66a1ad657749f585673b0fe0/2024Disclosure_all.pdf

4.保険計理人がない!?

3.に関連して、“組織図に保険計理人がない”会社があります。
具体的には、アフラック生命さんでして、組織図に保険計理人がない以前に、そもそも、保険計理人という単語がディスクロージャー資料には登場しないことから、同社における保険計理人の存在が軽んじられていることがないことを祈るばかりです。
https://www.aflac.co.jp/corp/profile/disclosure/pdf/2024_co.pdf

5.個人情報

最近では、個人情報に関する規定がより一層厳しさを増す傾向にありますので、ディスクロージャー資料においても、当該トレンドと無縁ではないようですね。
実際、昭和時代のディスクロージャー資料では、役員の顔写真はもちろん、自宅住所や生年月日といった個人情報を平気で(?)掲載していた記憶があります。
なんでもかんでも開示すれば良いという時代は、もう、過ぎ去ったように思います。

6.件数ベースと金額ベース

解約失効率と同様に、経験死亡率もディスクロージャー資料の記載事項ですが、当該死亡率について2通りのデータが開示されています。
具体的には、件数ベースと金額ベースの死亡率でして、興味深いのは、保険会社によって、どちらが大きいかが分かれているという点です。

例えば、通常、死亡保険金額が小さい方が査定基準が緩いため、少額の保険金を狙ったモラルリスクが混入すれば、件数ベース死亡率の方が大きくなります。
一方、例えば、通常、死亡保険金額が大きい方が(査定基準が厳しいものの)、巨額の保険金を狙ったモラルリスクが混入しやすいとも考えられますので、金額ベース死亡率の方が大きくなります。

7.リスク管理という単語の登場

保険業法では『リスク管理』という単語は登場しませんが、同法施行規則第58条の3(保険会社による保険会社グループの経営管理の内容等)においては、当該単語が登場します。
“保険会社グループの収支、資本の分配又は基金の管理及び保険金等の支払能力の
充実に係る方針その他のリスク管理に係る方針”
今後、経済価値ベースのソルベンシー規制等を初めとした、新たな態勢整備を行う場合には、ディスクロージャー資料の内容も適宜適切に充実させていく必要があるように思います。

いかがでしたか。いよいよ経済価値ベースのソルベンシー規制が2025年度決算から導入されますが、今秋の金融庁告示がどのような内容となるかが大いに注目されます。その際、単に内部管理のみではなく、正しい情報が適時適切に公開されることを切に願ってやみません。

 

(ペンネーム:活用算方)

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