アクチュアリー試験講評(2023年度 生保数理編)


2023年度のアクチュアリー試験問題が日本アクチュアリー会ホームページで公開されています。受験された方々は、本当にお疲れさまでした。
今年は、CBTによる2回目の試験でしたので、操作方法に慣れ親しんだ受験生も多かったかもしれません。
合格発表まであと2ヶ月程度ありますので、受験された方も、これから受験される方も気を緩めず、今のうちから試験準備を始めたいところですね。
早速、生保数理について講評いたしますので、受験生の一助となれば幸いです。

1.問題数

2022年度と同じ問題数および配点でしたので、大きな混乱はなかったものと思われます。
したがいまして、昨年と同様に、2時間で8問、つまり15分1問のペースで解ければ、2時間で40点近く獲得できますので、残り1時間で20点弱という理想的な時間配分になるでしょう。

2.各問題のポイント

問題1(1)
解法:積立期間の途中で利率が変わる場合の毎年の積立額を求める問題です。平成12年度の問題1(I)(1)では、元利均等返済方式で返済期間の途中で利率が変わる場合が出題されました。なお、本問の場合、積立てであることと利率が2回変わる点が特徴です。

問題1(2)
解法:3重脱退残存表における絶対脱退率を求める問題です。教科書(上巻)99ページ問題(4)の結果を覚えていれば『k1+k2=1』となる選択肢が正解候補です。残念ながら、すべての選択肢がこの条件を満たすため、地道に計算する必要があります。なお、類題である平成25年度問題1(3)は『k1+k2=1,000』となる選択肢が正解候補で、この条件を満たす選択肢が1つしかないためサービス問題と言えるでしょう。

問題1(3)
解法:累減および累加定期保険の一時払純保険料から、第1保険年度の保険金額を求める問題です。これらの保険では、教科書(上巻)137ページ(4.11.8)および教科書(上巻)138ページ(4.11.11)のとおり、計算基数「Rx」を含む形で一時払純保険料が表されることに注意しましょう。

問題1(4)
解法:教科書(上巻)183ページ問題(6)の類題です。

問題1(5)
解法:保険料短期払込の養老保険について年払営業保険料を求める問題です。特に、予定事業費のうち予定新契約費について、αのみならず、“第2回目以降の保険料”比例でも賦課する点が特徴的です。なお、当該設定は、教科書(下巻)3~4ページに記載されていますので、教科書を注意深く読まれていた方にとっては、解きやすかったように思います。

問題1(6)
解法:初年度定期式責任準備金におけるチルメル割合(α)については、教科書(下巻)18ページ(8.2.2)の公式が有名ですが、あくまでも「養老保険」に対する公式である点に注意しましょう。なお、定期保険についても、同ページ(8.2.1)の公式に類似したものが成立しますので、(8.2.2)の公式の“定期保険版”を導いて両者の比率を計算する流れになります。

問題2(1)
解法:等式および不等式の正誤問題で、2020度問題1(2)などが類題です。なお、選択肢(E)で、累加年金「(Ia)n」が登場しますが、教科書(上巻)21ページ(1.8.4)を暗記していれば早く解答できるでしょう。また、教科書(上巻)25ページ問題(6)を覚えていた方は、選択肢(E)が「(据置)永久年金の記号」と紛らわしいため、ケアレスミスしないように注意したいところです。なお、選択肢のうち、例えば、「n」が登場するものは、n=1,2,…という感じで“小手調べ”してから正誤判断することも有効です。

問題2(2)
解法:教科書では「完全平均余命の公式」が2つあり、上巻60ページ(2.5.3)および上巻61ページ(2.5.5)です。本問の場合、“微分と(広義)積分の順序交換”が後者の公式との親和性がありますので、当該公式を使えばよいでしょう。なお、問題文で、「lx・μx」に関する不等式が与えられていますが、教科書(上巻)68ページ問題(16)および教科書(上巻)57ページ(2.4.12)を用いれば「μx」を求めて「npx」を求める流れに気づくでしょう。

問題2(3)
解法:非喫煙者割引に関する出題ですが、「就業不能モデル」のように「主集団」および「副集団」との間での“人の移動”がないため扱いやすいモデルになります。なお、極端なケースとして、“非喫煙者がゼロ”または“喫煙者がゼロ”の場合、選択肢のうち(C)~(F)がマイナス値となる可能性があるものの、(a)の①②がそれぞれ“1および0”となるため、(C)~(F)は正解候補から除外される点にも気付けるとよいでしょう。また、教科書(下巻)163ページ(13.2.4)を覚えていた方は、死亡・就業不能脱退残存表において「ix=0」という極端なケースを考えれば、結局、(a)の①②がそれぞれ“生存者数の比率”になることが分かるでしょう。

問題2(4)
解法:特別条件体の問題ですが、満期時に「満期保険金額」に加えて「既払込特別保険料」も支払う点が特徴です。例えば、平成7年度(保険数学1)問題1(5)などが参考になるでしょう。

問題2(5)
解法:延長保険に関する問題ですが、ここ数年は定番であった“貸付金がある場合”という条件がなくなった点が特徴です。また、“生存保険金額に対する予定事業費もない”ことから、教科書(下巻)37ページ(9.4.2)などにおいて、計算が楽になるような設定です。なお、「p_x+t-1」が与えられていますので、いわゆる“隣接二項間の公式(例.教科書(上巻)106ページ(4.3.17)など)”を利用する点にも気付けるとよいでしょう。

問題2(6)
解法:最終生存者連生保険における完全平均余命を求める問題ですが、単生命と全く同様に、教科書(下巻)87ページ(12.1.35)が成立する点に注意しましょう。また、二人の被保険者について死力が同じであり、かつ、具体的な式も与えられていますので、教科書(下巻)84ページ(12.1.10)および教科書(上巻)57ページ(2.4.12)などを用いて、上述の(12.1.35)に登場する「被積分関数」を「a」を用いて表せばよいでしょう。

問題2(7)
解法:就業不能モデルにおける「5つの生命年金現価」が、教科書(下巻)162~163ページにかけて記載されていますが、これらのうち最も難しい生命年金現価が登場しています。なお、教科書(下巻)120ページから始まる「復帰年金」の考え方を応用して、「就業状態=共存」、「就業不能状態=先死亡後」と置き換えれば、連生保険モデルが就業不能モデルに置き換えられる点も、併せて押さえておきたいところです。

問題2(8)
解法:「災害保障特約付養老保険」に関する問題です。例えば、2018年度問題2(8)および平成24年度問題1(14)などが参考になるでしょう。なお、“災害以外による死亡時”に特約保険金はゼロですが、特約の保険料払込は停止(=主契約と共に消滅)する点にも注意が必要です。

問題3

解法:いわゆる“確率論的表示”に関する問題です。教科書では、上巻140ページから「生命年金現価など」、上巻182ページに「責任準備金」に関する“確率論的表示”がそれぞれ記載されています。なお、確率・統計で重要な公式である“分散=(二乗の平均)-(平均の二乗)”という関係も押さえておきましょう。また、教科書(上巻)186ページ問題(20)も参考になるでしょう。

問題4

解法:教科書(下巻)186ページ問題(2)の類題ですが、「入院経験者」および「入院非経験者」という感じで生存者群団を2つに分割したと考えると、就業不能モデルの一種であるとも考えられます。なお、例えば、平成25年度問題1(14)などが参考になるでしょう。

3.次回以降に向けて
いかがでしたか。今回の生保数理は、昨年に続いて、比較的オーソドックスな問題が多かった印象でして、難易度も昨年とほぼ同程度に感じました。昨年のコラムにも記しましたが、過去問はもちろん、教科書の問題も一通りチェックしておくことが早期合格の秘訣の1つと言えるでしょう。

 

(ペンネーム:活用算方)

あわせて読みたい ―関連記事―