2023年3月25日(土)14時から、アクチュアリー受験研究会で、『アク研キックオフミーティング2023』が開催されました。
当該ミーティングの「2022年数学試験総評」では、『リスク・セオリーの基礎―不確実性に対処するための数理』の著者である岩沢宏和先生に加えて、中央大学の藤田岳彦先生にもご参加いただきながら、昨年の問題等について専門的お立場から色々とコメントを頂戴できました。
その際、昨年のアクチュアリー試験「数学」の問題4(3)について、問題文の設定がおかしい(←自然数は無限集合のため、各自然数を選ぶ確率=0)のでは?というご指摘も頂戴いたしました。
そこで、今回のコラムでは、藤田先生のご指摘を踏まえながら、金融機関(特に、銀行)等におけるバーゼル問題を含めてご紹介いたしましょう。
1.数学のバーゼル問題
“ウィキペディア”によれば、数学のバーゼル問題とは、級数の問題の一つで、(自然数の)平方数の逆数全ての和はいくつかという問題で、ヤコブ・ベルヌーイやレオンハルト・オイラーなどバーゼル出身の数学者がこの問題に取り組んだことからこの名前で呼ばれる模様です。幸い、当該和は、「円周率の2乗÷6」ということが知られているのですが、円周率が登場する点が最も注目されるところです。
なお、同じくウィキペディアによれば、“バーゼル”とは、スイスの北西部、ライン川沿いに位置する、チューリッヒ、ジュネーブに次ぐスイス第3の都市で、ライン川の終着点だそうです。
2018年のICA(国際アクチュアリー会議)ベルリン大会で、幸い、ライン川の近くを通りかかったのですが、広大な流域面積を誇るドイツ有数の河川であることに感銘を受けた記憶があります。
きっと、数学者たちの心の中にも、このような“ゆったりとした”数学アイデアが満載されていたのだろうと推測されます。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%90%E3%83%BC%E3%82%BC%E3%83%AB%E5%95%8F%E9%A1%8C
2.銀行のバーゼル問題
いわゆる“BIS規制”と呼ばれるもので、バーゼル銀行監督委員会が公表している国際的に活動する銀行の自己資本比率や流動性比率等に関する国際統一基準のことです。
なお、“BIS規制”の“B”は、バーゼルの“B”ではなく、国際決済銀行(Bank for International Settlements)の“B”だそうです。
したがって、BISとバーゼル銀行監督委員会は別組織であるため、「バーゼル規制」がより正しい呼称と言える模様です。
https://www.boj.or.jp/about/education/oshiete/pfsys/e24.htm
3.環境のバーゼル問題
古い資料で恐縮ですが、自民党の河野太郎氏による「太郎塾」の成果として、
2004年1月26日、環境部会でバーゼル問題の問題提起。
2005年3月7日、バーゼル関係の手続きの簡素化のための省令簡素化。
というものが公開されております。
https://www.taro.org/2005/03/2005%E5%B9%B43%E6%9C%8810%E6%97%A5.php
どうやら「バーゼル条約」に関連する問題で、具体的には、先進国からの廃棄物が途上国で汚染被害を起こさないようにするもののようです。
“重金属の精錬のためのリサイクル資源を輸入しやすくする国際循環港というシステムを作るべきだ。”という先生のご発言は、まさにその通りであると思います。
4.「数学」問題4(3)
上述のキックオフミーティングでは、藤田先生曰く、
1)2022年アクチュアリー試験「数学」問題4(3)問題文設定は(厳密には)誤り
2)確率を考えるためには、まず、有限母集団(例.与えられた数以下の自然数を考え
る等)で考えた上で、当該上限を無限大にとばす。
3)先生の著書である『弱点克服確率統計』では、本問の類題が登場。
とのことでした。流石、数学五輪団長ですね!
ちなみに、ニッセイ基礎研究所の中村氏も、本件に関する興味あるレポートを執筆されておりますので、是非ご覧ください。
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=57057?site=nli
いかがでしたか。筆者は大学で「代数的整数論」を学習し、日本が誇る“高木類体論”を半泣きになりながら(笑)学びました。確率統計とは縁遠いと思われる「代数的整数論」の世界が、アクチュアリー試験を通じて結ばれることが、とても心地よいです。
試験委員の皆様、ありがとうございます!
(ペンネーム:活用算方)