2022年度決算の見どころ


いよいよ、2022年度決算に突入しましたが、今回は、新型コロナや外貨(米ドル、豪ドル)建保険の標準責任準備金対応など、アクチュアリーにとっても比較的話題の豊富な決算になりそうですね。
そこで、今回のコラムでは、2022年度決算における“見どころ”を独断と偏見を交えながら思いつくまま列挙しようと思います。
なお、内容はすべて単なる個人的な見解および推測であること、また、保険会社の業務および財産の状況によっては、以下以外の見どころがある点を念のため申し添えます。

1.新型コロナによる影響

昨年9月下旬に、いわゆる“自宅療養などのみなし入院”が入院給付金などの対象外となりましたので、少なくとも、今年度の下半期以降の(不正)請求はかなり落ち着いているものと思われます。
もっとも、SNS上で(不正)請求を煽るような記述は依然として残ったままですので、引き続き、請求内容の精査は必須ですが。

なお、新型コロナ対応を含めて、何らかの原因で危険差損が生じた場合、現行法令上では、“直ちに内部留保(危険準備金)を取り崩せ”ではなく、“内部留保(危険準備金)を取り崩す場合は、危険差損などが生じた場合に限る”という書きぶりになっている点にくれぐれも注意してください。
アクチュアリー試験の答案でも、非常に間違いやすいところですので。

2.米ドル・豪ドル建て契約

告示第48号が昨年4月から改正施行されていますが、何よりも、まず、この改正は“一般勘定”での保険契約が対象である点に要注意です!
実際、同告示を見ても、どこにも“一般勘定”という用語が出てこないためです。

また、標準責任準備金の対象契約に追加されたため、少なくとも以下の3点:
1)標準責任準備金のための追加負担
2)利源分析上の取り扱い
3)ディスクロージャー資料などでの説明
については、しっかりと分析して、正しく情報公開することが必要ですね。
なお、アクチュアリー試験対策としても、引き続き、主要論点の1つであることには変わりないと考えられますので、告示内容を含めて細部まで押さえておきたいところです。

3.金利上昇

2022年12月20日に日本銀行が金融政策を一部修正し、長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)の対象となる10年国債利回りの上限が0.25%から0.5%に拡大されました。
これを受けて、2022年度決算における1号収支分析(2-1)などで用いられる“金利”が0.5%(←2023年3月の10年国債応募者利回り)となり、昨年度決算における同指標(0.179%)の3倍近い上昇となりました。

将来収支分析では、同金利の上昇が将来の利息及び配当金等収入の上昇をもたらすため良い結果に動くのですが、一方で、(急激な)金利上昇が“保有債券などの含み損”をもたらすという負の側面も考慮する必要もあります。
一部の生命保険会社にとっては、上述の新型コロナ同様、経営に相当のインパクトがあるようですので、その意味からも、“含み損”が今年度決算を語る上でのキーワードの1つになるかもしれませんね。

4.ESRへの対応

2025年度決算(2026年度3月期)から正式に導入される「ESR:経済価値ベースのソルベンシー規制」まで、あと数年になり、マスコミなどを中心に大きな注目を集めています。
また、同年度を待たずして、各保険会社は内部的に事前準備を鋭意行っているものと思われますので、ひょっとすると、今年度決算から試行ベースのESRを開示される会社が登場するかもしれません。(流石に早いように思いますが。。。)

なお、ESRの導入は、これまで行われてきた、単なる現行ソルベンシー・マージン基準の改定(例.リスク係数の見直しなど)ではなく、各社のリスク管理全般に関する内容についても開示が求められるように思いますので、ディスクロージャー資料自体の位置づけを含めた抜本的な見直しも必要となるかもしれませんね。

5.ニッセイ基礎研究所による決算レポート

今年度決算に限った話ではありませんが、ニッセイ基礎研究所では、例年、生命保険会社全体の決算概要をレポートされています。
例えば、直近の同レポートは、以下のURLから閲覧可能です。
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=72255?site=nli

実は、筆者も20年くらい前に、同レポートの執筆を手伝っていましたが、各社の決算プレスリリースやディスクロージャー資料などを読み漁ったおかげで、無事に、アクチュアリー試験を突破できました。今でもとても感謝しております!
なお、同レポートを同研究所ホームページでさかのぼる場合、年度によって、レポートのタイトルが異なる場合もありますので、いくつかのキーワードで検索するか、特定の分野(例.生保経営など)に絞ってレポート検索されることをオススメいたします。

いかがでしたか。2022年度は年度末が平日なので、決算担当者としては“やりやすい”という声をよく耳にします。実際、3月31日が日曜日だと、土日のデータを(翌年度の)4月1日に追い込む必要があり、システム仕様によっては年度をまたぐ非営業日データが上手く取り出せないという会社も(過去には)あった模様です。

新社会人としていきなり決算部門に配属される方もいらっしゃるかとは思いますが、是非、当コラムをご一読いただき、アクチュアリー試験対策としても大いに役立てていただけますとうれしいです。

 

(ペンネーム:活用算方)

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