気になるニュース(2023年1月)


12月に引き続き1月に気になったニュースを幾つかピックアップしたいと思います。
なお、内容はすべて単なる個人的な見解であり、特定の人物や団体等を誹謗・中傷する意図は全くないことを、念のため申し添えます。

1.保険契約買取りファンドへの出資

「保険契約買取り」という表現に、思わず、“金融庁OBによる買取り会社(注:2022年8月15日のコラム 参照)に生命保険会社が出資?”と誤解してしまいました。
いわゆる、既契約ブロックを買い取って、キャッシュ・フローから生じる危険差益等を原資として収益獲得を狙うビジネスの模様です。

筆者は以前、再保険会社に勤務しておりましたが、「(修正)共同保険式再保険」ではなく、既契約ブロックを再保険会社が引き取る“アドミン・リー”に近いイメージだと思われます。
なお、(無料会員)記事によれば、投資法人を通じて最大10億ドル(約1,300億円)が出資され、既に出資された金額と合わせると出資額は最大16.5億ドル(約2,000億円)のようですので、かなり大きな出資になりそうですね。
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO67857710U3A120C2EE9000/

2.新型コロナの分類変更

第8波による新型コロナウイルス感染者数もかなり落ち着いてきた感がありますが、感染症予防法上の分類を見直す動きが出てきました。
具体的には、現在の「2類相当」から(季節性インフルエンザと同等の)「5類」への“格下げ”が検討され、今春には結論が出る見込みです。
なお、格下げで医療従事者の負担が少しでも軽減されることを願う一方で、公費負担でどこまでカバーできるのか、特効薬は簡単に入手できるのか、等の課題にも十分配慮して欲しいと思います。

ちなみに、昨年9月下旬に“みなし入院”に関する解釈を変更した生命保険業界ですが、例えば、朝日生命さんの資料では、新型コロナウイルス感染症に関する約款上の取扱いについて、以下のような記述があります。

“第3条(新型コロナウイルス感染症の追加)会社は、新型コロナウイルス感染症を約款所定の感染症*1に含めます。ただし、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」第6条第2項、第3項または第4項の疾病に指定された場合、その指定が解除された日以後に支払事由が生じたときは、新型コロナウイルス感染症は、約款所定の感染症に含めません。”

もっとも、現時点では、そもそも新型コロナウイルス感染症は、感染症予防法第6条第2項、第3項または第4項の疾病に指定されているわけではありませんので、今春に“格下げ”が起きたとしても、直ちに当該条文が適用されるわけではないのでしょう。

一方、巷では、以下のような記事もありますので、お客さまに対する正しい理解を求める姿勢が、保険会社等に強く求められるかもしれませんね。
https://toyokeizai.net/articles/-/612490?page=3

“現下ではコロナの位置づけについて、感染症法上の「2類」から「5類」相当への変更が検討されています。上述した保険の多くは、コロナが感染症法の新型インフルエンザ等として「2類」に分類されていることを前提に給付をしています。ですから今後、分類が変更されれば、給付の対象外となる可能性があるのです。”

3.個人情報流出

200万人分の個人情報流出というセンセーショナルな見出しに目を奪われましたが、 委託先における不正アクセスで保険加入者らの個人情報が流出した模様です。

内容そのものも重要なニュースですが、個人的には、Yahooコメント欄に掲載された大学院の教授コメント「GDPRを重視した経営と称されるEUでは、一般データ保護規則があり、それに違反して情報漏えいを起こした場合、制裁金として、その企業の全世界年間売上高4%、もしくは2000万ユーロ(現在、約28億円)の高い額が課されます。」が気になりました。

というのも、今回の事件は米国で発生し、2つの保険会社とも、グローバルに活動している超有名企業だからです。
仮に、今回の事件に上記の制裁が課された場合、制裁金が500億円以上となる可能性もあるようですので、個人情報漏えいに対する厳しさは、日本よりもかなり強い印象があります。
いずれにせよ、日本の金融庁が今後、どのような措置を講じるのかにも注目が集まりそうですね。

 

4.週休二日から週勤二日へ!

全日本空輸(ANA)では、来年度から全客室乗務員を対象に週2日からの勤務が可能な制度を導入する模様です。
筆者がまだ高校生の頃、昭和60年代でしたが、高校までの授業では土曜日もあり、午前中で授業が終わった後、午後から部活等に励んでいた記憶があります。
平成に入った頃には、多くの企業で(完全)週休2日制度が導入され、官公庁等の公務員の世界でも90年代には同制度が導入された記憶があります。
新型コロナによる在宅勤務やリモートワーク等、多種多様な働き方改革が様々な業種や企業で推進されることは非常に喜ばしいことですね。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC261GL0W2A221C2000000/

5.IBNR備金に係る告示改正
生命保険会社等が積み立てる支払備金(IBNR)について、パンデミックや大規模自然災害が発生した場合に、その影響を勘案できるよう、現行告示等の所要の改正が行われる模様です。
昨年のアクチュアリー試験(生保2)では、問題1(3)でIBNR備金に関する計算問題が出題されました。恐らく、新型コロナによる保険金・給付金の支払いが急増したため、昨年9月下旬の“みなし入院”規定改正後も当面、当該保険金等の支払いが続く見通しであることを睨んだ出題でしょう。

なお、今年の同試験では、本件改正に伴う監督指針等の穴埋め問題や理論問題(用語説明等)での出題可能性が高いかもしれませんね。
https://www.fsa.go.jp/news/r4/hoken/20230117/20230117.html

6.不担保期間を導入

“不担保期間”といえば、いわゆる「がん保険」における典型的なモラルリスク対策である“90日の待ち期間”等が有名ですが、最近見たテレビCMでは、待ち期間に合わせて、加入後3か月間は保険料不要の商品も登場している模様です。
https://www.himawari-life.co.jp/product/support_omamori_courage/

一方、本件では、医療保険において、責任開始日からその日を含めて14日以内に発病した所定の感染症を原因とする入院等が保障対象外とされる模様です。
恐らく、新型コロナによる加入後短期間での早期請求を除外することを意図されているように思えますが、逆に、本制度の導入で、善意のお客さまが不幸にして14日以内の新型コロナり患で給付金が出ない等、真に必要な方々へ保険金等が支払われないという、何とも皮肉な結果となりそうですね。

もっとも、責められるべきは保険会社ではなく、SNS等で新型コロナり患により複数の保険会社から給付金を受け取る“手口”を拡散した犯人かもしれませんね。
https://www.nissay.co.jp/news/2022/pdf/20230118.pdf

7.マイナカード普及

マイナンバーカードの普及と利活用の促進については、金融庁の資料にも明記されていますが、先月の当コラム(2023年01月10日 (火) 気になるニュース(2022年12月))でも紹介しました通り、生命保険会社における死亡保険金請求でも、既に利用が始まっています。

一方、本件ニュースでは、岡山県備前市の方針として、同カード取得者のみ「給食費無償化」を行うもので、保護者の方々等に戸惑いも見られる模様です。
同市の意図は、“市民のマイナンバーカード取得を加速させるため”のようですが、そもそも同カード取得は(現時点では)あくまでも「任意」であり、見方によっては、同カード取得の強制につながりかねないとの反発の恐れがあります。

地方自治体として、国の政策に歩み寄る気持ちは分かりますが、国民や有権者等への丁寧な説明が必要な点は、国も地方自治体も同じと言えそうですね。
https://www.yomiuri.co.jp/national/20230305-OYT1T50039/

8.未知の物価高

物価や金利上昇の波が訪れていますが、実質所得減少で生命保険契約が解約されるリスクも上昇している模様です。
アクチュアリーとしての観点からは、例えば、将来収支分析などにおける「事業費シナリオ」で最近の物価指数(例.2022年12月分の総合指数は2020年を100として104.1)を織り込むかどうかという点等も、なかなか悩ましいところかもしれません。

なお、記事中、“低金利に慣れてきた現役世代の経営陣にとって本格的な物価や金利の上昇は経験したことのない領域”とありますが、昭和50年代に業界共通商品として、「物価スライド保険」なるものが発売されていたことは、流石に、インタビュアーもご存じないのかもしれませんね。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB043WA0U2A201C2000000/

9.全社員給与5%上昇

昨年12月に、営業職員の給与を7%上昇させる記事が話題となりましたが、ついに、同職員のみならず全社員の給与を5%上昇させる記事が出ました。

ユニクロ同様、良い人材確保のために熾烈な生き残りを図っている企業群では、保険業界も例外ではなさそうですね。

10.外貨建保険に関する運用成果ランク

奇しくも、今年度決算は、米ドル/豪ドル建て保険が標準責任準備金の対象となる初めての決算となりますので、外貨建保険が得意な保険会社では、決算トピックスとなる可能性が高いですね。
一方、金融庁からも、同保険について、銀行窓販における同保険の運用損益別顧客比率等、お客さまからすると、とても気になるデータが公開されました。
将来的には、生命保険会社等も当該データ開示の“仲間入り”をするかもしれませんね。
https://www.fsa.go.jp/news/r4/kokyakuhoni/20230120/kpi_hoken_230120.pdf

いかがでしたか。今月はなんといっても、新型コロナの分類区分の見直しが大きなニュースになりましたね。中国での春節祭など、例年この時期のニュースに加えて、同コロナの感染予防対策が緩和されたこともあり、第9波等、今後の動きが非常に気になります。さらに、今月はアクチュアリー試験の合格発表もありますので、いろいろな意味で目が離せない月となりそうですね。

(ペンネーム:活用算方)

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