アクチュアリー試験講評(2022年度 生保1編)


2022年度のアクチュアリー試験問題が日本アクチュアリー会ホームページで公開されています。受験された方々は、本当にお疲れさまでした。
今年は特に、CBTによる初めての試験でしたので、操作方法等に戸惑った受験生も少なくなかったかもしれません。
いずれにせよ、合格発表まであと2ヶ月程度ありますので、受験された方も、これから受験される方も気を緩めず、今のうちから試験準備を始めたいところですね。
早速、生保1について講評いたしますので、受験生の一助となれば幸いです。

1.問題数等

問題数は、昨年同様、問題1~3の構成でしたが、各問題の配点がかなり異なりましたので、戸惑った受験生がいらっしゃったかもしれません。
また、昨年度からのトピックであった、
・新型コロナウイルス感染症の影響
については、問題1(3)ストレステスト、問題3(1)新種の感染症が世界的に流行が特徴的でした。

なお、問題1(6)では、『死因別の死亡率グラフ18ページ』が出題されましたが、2011年の東日本大震災による「不慮の事故」が印象的でした。また、個人的には、
1)緑のグラフ(心臓病):
出典の注記にある、“平成6、7年の心臓病の低下は、新しい死亡診断書(死体検案書)(平成7年1月施行)における「死亡の死因欄には、疾患の終末期の状態として の心不全、呼吸不全等は書かないでください。」という注意書きの、事前周知の影響によるものと考えられる。”
2)青のグラフ(脳卒中)
平成7年の脳卒中の上昇の主な要因は、ICD-10(平成7年1月適用)による原死因選択ルールの明確化によるものと考えられる。
あたりも問うて欲しかったところです。

2.各問題のポイント

問題1(1)
講評:保険業法施行規則第10条の穴埋め問題です。過去問では、平成26年度問題1(1)が類題です。

問題1(2)
講評:アセットシェアに関する穴埋め問題です。教科書3‐1ページからの出題でしたので、敢えて、教科書の最初のページからも出題するので(今後も)注意されたし、という試験委員からのメッセージのようですね。

問題1(3)
講評:第三分野保険に関する正誤問題ですが、特に「誤」の場合、正しい表現に改める必要がある点が難しいですね。新型コロナウイルス感染症による影響で、実務上でも、第三分野保険のストレステストのシナリオ設定が悩ましいところ(=同コロナを一過性とみるか永続的とみるか等)ですが、告示の別表も含めて正確な知識が要求される問題です。

問題1(4)
講評:教科書5‐21~22,29~33ページ付近からの出題です。特に、生保2のテキストとして『第4章 リスク管理』が新たに導入されていますので、生保1においても、リスク管理を意識した出題となっています。

問題1(5)
講評:団体定期保険の優良団体割引制度における計算問題です。特に、実績死亡率(1.60-x)‰を満たすxを求める問題は初めてだと思われます。

問題1(6)(ア)
講評:冒頭述べた通り、厚生労働省「平成30年 我が国の人口動態」のうち「主な死因別にみた死亡率の年次推移」からの出題です。特に、死因の動きをただ漫然と眺めるだけではなく、急激な変化(上昇、下降)のある年には、必ず、何らかの事情(例.2011年の東日本大震災等)があることに注意しながら、データを理解することが大切ですね。

問題1(6)(イ)
講評:第1次試験(基礎科目)の生保数理からの出題ですが、予定死亡率および予定利率が明示的に与えられていない点が難しいところです。なお、過去問では、平成29年度問題1(3)のように、「男性 60 歳の死亡率」を選択する問題もありますので、生保アクチュアリーとしての基礎知識としては、男性30歳10年満期定期保険の営業保険料水準を覚えておく必要がありますね。

問題2(1)
講評:本問以降では、いわゆる“文字数の程度”が指定されていますので、簡潔な答案作成に心がけると同時に、文字数も意識した答案作りが重要ですね。特に、平準払定期保険では、
ア)α-β-γ体系ではない体系(例.β-γ体系等)が採用される場合があるため、養老保険や終身保険などと異なる解約控除となる場合があること。
イ)累減定期保険(例.収入保障保険等)および予定発生率が逓減する保険期間などでは、負値責任準備金が生じやすいこと。
を予備知識として押さえておく必要がありますね。

問題2(2)
講評:商品毎収益検証からの出題です。特に、ヴァリデーションについては、平成29年度問題2(1)でも出題されていますので、比較的解答し易かったように思えます。

問題2(3)
講評:再保険の目的についての出題です。特に、(イ)については、(ア)以外での理由や工夫が求められますので、再保険実務に馴染みがない受験生にとっては難しいように思います。なお、個人的には、再保険を利用することで終身保障が提供できる点も、当該工夫に含まれるように思います。

問題3(1)
講評:まさに時事問題といえる「新種の感染症」が世界的に流行し、この感染症による入院者数が増えているという前提での出題です。残念ながら、同じく、時事問題である「自宅療養」が発生しないという前提でしたので、特に、新型コロナウイルス感染症に特化した予想問題を想定された受験生にとっては、やや答案が作成しにくかったかもしれません。いわゆる、PDCAサイクルの重要性が監督指針等で謳われていますが、改善アクション(例.支払指数がどの程度になれば、販売停止または料率改定等)の見極めが重要ですね。

問題3(2)
講評:問題3(1)と同様、まさに時事問題といえる「米ドル建て保険」の出題でした。今年4月から、米ドル建て、豪ドル建て保険についても、標準責任準備金の対象となりましたが、生保1としての出題も大いに予想されていたように思います。特に、〈論点〉のうち、“信用リスクへの対応”については、邦貨建て保険の“国債利回り(=リスクフリーレート)”ではなく、A格社債利回りが、米ドル建て、豪ドル建て保険に適用される点など、生保2の出題範囲とも言える、告示第48号の正確な理解が要求されたように思います。

3.次回以降に向けて

いかがでしたか。昨年のコラムにも記しましたが、第Ⅰ部対策としては、やはり、教科書を中心として監督指針や実務基準等、さらに余裕があれば法令や告示等の理解が極めて重要です。また、第Ⅱ部対策としては、常日頃から課題意識を持ちながら、自分自身の意見や考え方を“自分の言葉で分かりやすく相手に伝える練習”をしておくことも大切です。当たり前のことを当たり前に実行できることは、決して当たり前ではありませんね。

 

(ペンネーム:活用算方)

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