9月に引き続き10月に気になったニュースを幾つかピックアップしたいと思います。
なお、内容はすべて単なる個人的な見解であり、特定の人物や団体等を誹謗・中傷する意図は全くないことを、念のため申し添えます。
1.保険モニタリングレポートの公表
2021事務年度に行われたモニタリングの結果等を取りまとめた、「2022年保険モニタリングレポート」が金融庁から公表されました。
https://www.fsa.go.jp/news/r4/hoken/20220930/20220930.html
ちなみに、“事務年度”とは、金融庁における“事業年度”であり、『7月から(翌年)6月まで』とされている模様です。(←保険会社の“事業年度”は、保険業法第109条で、『4月から(翌年)3月まで』と規定)
新型コロナの影響で、2020年度上半期に落ち込んだ、生命保険の新契約保険料が順調に回復している様子がうかがえますが、損害保険および少額短期保険に比べると、生命保険の同保険料推移が若干不安定である点が気になります。
なお、外貨建保険や経済価値ベースのソルベンシー規制など、アクチュアリー試験のうち「第2次試験(専門科目)」の学習にも利用できる内容が含まれておりますので、同試験の受験生に方々は、一読されることをお勧めいたします。
また、10月19日付の植村信保先生のブログでも、“金融庁の「保険モニタリングレポート」”というタイトルで、同レポートが紹介されておりますので、併せてご覧ください。
2.外貨保険販売65%増
急激な円安(対米ドル為替レート:2022年1月1日115.02円→同年10月21日150.26円)で、ついに、1ドル150円を突破しました。(2022年10月21日現在)
https://www.77bank.co.jp/kawase/usd2022.html
このような円安を背景にして、2022年度上半期の外貨建保険の販売が前年に比べて65%増加した模様です。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB174QM0X11C22A0000000/
最近のテレビ番組などでは、日本人が海外で仕事をすることで給料などが大幅に上昇する事例が幾つも紹介されていますが、くれぐれも、“後追い”をし過ぎて、円高に振れたときに大きな損失を出す“為替リスク”にも注意したいところです。
とはいうものの、日本国内では物価上昇に給料などが追い付いていない点も事実であり、東京都の最低賃金と高卒の初任給がほぼ同水準という驚くべき結果(https://www.businessinsider.jp/post-260734)も公表されています。
残念ながら、この調子で進めば、今後ますます“円離れ”、“日本離れ”が加速するかもしれませんね。
3.非管理職の定期異動廃止
総合職(ゼネラリスト)か専門職(スペシャリスト)かという“人生の選択”は、保険会社に限らず、様々な業種で働く人々にとっての共通課題ですね。
以前、大手保険グループのAIGでは、総合職の転勤廃止
https://style.nikkei.com/article/DGXMZO46388240R20C19A6000000/
https://chanto.jp.net/articles/-/263657
で、新卒応募が10倍になったことも大いに話題になりました。
今回、SOMPOホールディングスでは、持ち株会社の非管理職について、会社主導の定期異動が廃止される模様です。もちろん、転勤を伴わない定期異動もありますので、自由な働き方がさらに一歩前進した感がありますね。
なお、同会社では、既に「ジョブ型雇用」が導入されているようでして、終身雇用制度の衰退と併せて、今後も多くの企業で様々な人事制度改革が推進されることが望まれます。また、新型コロナの影響で、一定程度のリモートワークが定着しつつある中、全国どこでもインターネットに接続できれば、場所に拘らない働き方が普及することで多種多様な人材確保につながる側面も期待されます。
いずれにせよ、労使双方にとって、より良い労働環境が整備され、win-winの関係が構築されることを祈りたいですね。
https://www.nikkei.com/nkd/industry/article/?DisplayType=1&n_m_code=123&ng=DGKKZO65119210T11C22A0EE9000
4.世界初「月保険」
人工衛星保険といえば、まさに、損害保険の“十八番(おはこ)”ですが、打ち上げから月面着陸までを補償する保険が、三井住友海上と株式会社ispaceとの共同開発で、世界で初めて実現されました。なお、同保険は、今年11月に打ち上げ予定から適用されるそうです。
ちなみに、生命保険会社名として「太陽生命保険」がありますので、最初に「月保険」という文字を見たとき、“新たな保険会社が出来るのかな!?”と思わず早合点してしまいました。
ホリエモンこと、実業家の堀江貴文氏もロケット開発に注力されていますので、自動車産業に次ぐ、日本の“十八番”としての宇宙開発には大いに期待したいですね。
https://www.hokende.com/news/blog/entry/2022/10/11/080000
5.営業秘密の持ち出し
2022年10月21日付の当コラム「転職時の注意点」でも触れましたが、転職先に対して以前の勤務先から名刺を含めた一切の情報を持参しないことに注意が必要です。
しかし、残念ながら、同業他社の仕入れに関するデータを不正に持ち出した疑いで、回転寿司チェーン店の社長が逮捕されました。
報道によれば、同社長はライバル会社の出身で、なんらかの「お土産」を持参しなければ、転職先で優遇されないと考えたのかもしれません。当該情報を持参することを、転職先の経営陣が“期待”した可能性も否定はできませんが。。。
円安が進行する中、いかにして調達コストを抑えるかが生き残るための最大の秘訣ですが、犯罪に手を染めてまで同コストを抑えようとすることは、もちろんアウトです。
なお、アクチュアリー試験の“論述問題”対策としても、今回の記事は、そのレイアウトが大いに参考になります。実際、“営業秘密とは何か、今後の捜査はどう進むのか。3つのポイントで読み解く。”という小見出しを付すことで読者(採点者)にとって分かりやすい答案となるからです。是非、このレイアウトを見習いたいですね。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE203E70Q2A520C2000000/
6.Neo
SBI生命が2022年11月1日に発売された終身医療保険(無解約返戻金型)のネーミングが『SBI生命の終身医療保険Neo』だそうです。
ちなみに、“Neo”、“NEO”、“ネオ”という文字をみると、皆さんはどのような商品・サービスをイメージされますでしょうか?
筆者の場合、乾電池(マンガンNEO乾電池)、マーガリン(ネオソフト)、生命保険会社(ネオファースト生命)などが思い浮かびます。
なお、ネオ (Neo) は、ギリシア語で「新しい」を意味するようで、例えば、英語のNewも同じ語源かもしれません。
ここで、“NEO”に関する“昔話”を1つ披露いたしましょう。
ご案内の通り、1996年4月から改正保険業法が施行され、子会社方式による生損保の相互参入が実現されました。その際、価格競争も一層激化し、いわゆる“5年ごと(利差)配当方式”も導入されました。
ただし、配当方式のみの変更であったため、事務負荷を最小限に抑える観点からは、ネーミング(ペットネーム)をできるだけ簡素化したいという思いが生命保険各社にありました。実際、アルファベット1文字(例.E、Uなど)を従来の商品名に付与することで最小限の対応で済ませる会社もありました。
このため、各社間で似たような商品名になることが想像でき、実際、“NEO”と“ネオタイプ”という商品名が存在していました。
当時の状況に詳しい知人に話を伺ったところ、“双方の会社間で友好的な話し合いの結果、お互いの商品名について特段の対応(例.サービスマーク上の争点として、弁護士・弁理士等を交えた法廷闘争など)は行わない”ということで無事に決着された模様です。四半世紀が経過した今では、5年ごと利差配当に加えて、無配当のウェイトが高まったことも、生命保険業界としての大きな流れですね。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000057.000098438.html
7.保険業界のカラクリ?
「人生100年時代」と言われますが、これからの人生を生き抜くポイントをシリーズで解説している記事を、知人から教えていただけました。(なお、記事の公表が9月である点をご容赦ください)
特に、今回の記事では、「保険業界のカラクリ」をテーマに、保険業界の裏側や構造について紹介されております。
具体的内容は、記事をご覧いただければと思いますが、アクチュアリーの観点からも気になった点が幾つかあります。
(1)“世帯の普通死亡保険金額の平均は2435万円ですが、実際に保険会社から支払われた保険金額の平均は約278万円。つまり、入っている保険金額の1/10ほどしか支払われていない”
本件に限らず、数字を用いて説明する場合、当該数字の出典を明記することを心掛けたいところです。
記事全体を拝見する限り、これらの数字の出典が明記されていないように思えましたので、非常に残念に思います。
ちなみに、生命保険協会資料『2021年版生命保険の動向』16ページ(資料上は13ページ)によれば、世帯の保険金額は全国平均で1410万円であり、記事の数字と約1000万円の乖離があります。もちろん、記事の数字は『普通死亡保険金額』の平均ですので、生存保険や生死混合保険などを含めた平均値よりも高めにでる可能性もありますが。
また、“実際に保険会社から支払われた保険金額の平均は約278万円”という部分については、“世帯平均”なのか“1件当たり平均”なのかが不明確であり、もし、後者であれば、そもそも、2435万円と278万円とを同列に比較することは相応しくなく、このため、“入っている保険金額の1/10ほどしか支払われていない”という結論が導けなくなります。
あるいは、2435万円と278万円の「平均年齢」が乖離している可能性もあります。
実際、保有契約の平均年齢は50歳前後、死亡契約の平均年齢は80歳前後がそれぞれ一般的でしょうから、そもそも、30歳近くの年齢差では、当然、必要保障金額も変わってきます。このため、単純に両者を比べて“1/10ほどしか支払われていない”という結論に結び付けることは、やや飛躍し過ぎであるとも考えられます。
(2)“月83円では経費をまかなえないため、仮に月々の保険料を1000円としましょう。(中略)このように考えると、保険では経費部分が非常に大きいということがお分かりいただけると思います。”
記事中、“今回はあくまでイメージとしてご理解ください”という注釈はあるものの、流石に、純保険料83円に対して付加保険料917円という設定は、正直、理解に苦しみます。『生命保険の原価(ダイヤモンド社)』で有名な、生活経済ジャーナリストの荻原博子先生もビックリですね(笑)。
また、後半部分の“保険では経費部分が非常に大きいということがお分かりいただけると思います。”については、執筆者自らが“仮に”1000円とすれば、という前提を置いているだけであって、この仮定が正当であることを示していない以上、“保険では経費部分が非常に大きい”という事実は、少なくとも、この記事からは導けないように思います。
(3)“保険は何かあった人が助かって、何もなかった人は圧倒的に損をする仕組みになっている”
自動車保険がわかりやすいと思いますが、交通事故などを起こすことなく、無事に保険期間が満了したドライバーは、果たして、“損したなあ。。。”と考えるのでしょうか?
逆に、不幸にして、人身事故を起こしたドライバーは、果たして、“得したなあ。。。”と考えるのでしょうか?(←もちろん、相手方への損害賠償金を保険でカバーできたという意味での「得した(=損しなかった)」という気持ちは否定されませんが)
(4)“ネット専業保険であっても、決して安くはありません。”
“安い”という以上、何と何(の値段)を比較して、安い・高いと判断すべきと思われますが、残念ながら、何と比較て“安くない”のかは明記されておりません。
8.アマゾン薬局?
“製薬業界と保険業界は、いまだに、『昭和』の行政をやっている!”
これは、某生命保険会社の社長コメントです。金融業界でのご経験が長かったのですが、保険業界への転職は初めてだったようで、保険業界独自のルールを知る度、“未だにこんなルールが残っているのか?”との語気を強めて発言されていたのがとても印象的でした。
一方、某再保険会社のセミナーに参加した際、“将来的に、GoogleやAMAZONが保険業界に(ネットで)参入してきた場合、これまでの保険の常識が根底から覆されるかもしれない”という趣旨の有識者コメントも大変印象的でした。
処方箋を事前にFAXなどで薬局へ送付しておけば、待ち時間を減らして薬の受け取りが可能となるサービスを行う薬局も登場していますが、物流のプロが新たに参入することで、利用者の選択肢が広がることは大歓迎ですね。
https://dot.asahi.com/dot/2022102100068.html?page=1
いかがでしたか。2022年10月は、結婚や訃報など、芸能界を中心に悲喜こもごものニュースが乱立しましたが、なんといっても、世間を騒がせた司法試験合格のニュースが一際目立った感があります。特に、Yahooニュースの見出しで、“合格率23%の難関突破”という文字を見たとき、やはり、アクチュアリー試験は難関試験なのだなあ、と改めて痛感しました。
(ペンネーム:活用算方)