毎年3月になると2つのことを思い出します。1つ目は、大学進学のため初めて独り暮らしを始めたこと。もう1つは、数学者ガウスに“正十七角形の作図法”が閃いたことです。
筆者は、“アクチュアリーとは縁遠い(笑)”代数的整数論を大学で専攻し、高木貞治先生の類体論を中心に勉強しました。高木先生の書籍としては、解析概論などが有名ですが、数学に関連した随筆も数多くあり、中でも『近世数学史談』は、特に有名な一冊です。
幸い、岩波文庫から『近世数学史談』が刊行されて、手軽に読める環境下にありますが、手元にある“2014年2月14日第9刷発行”)の7ページにある「1.正十七角形のセンセーション」は、
“1796年3月30日の朝、十九歳の青年ガウスが(中略)正十七角形の作図法に思い付いた.”
という文章で始まります。
そこで、今回のコラムでは、ガウスに因んで、正多角形、特に、(正十七角形ではなく)正七角形の作図について、大学時代の記憶を頼りにしながら、数学的な背景をご紹介いたしましょう。
1.百科事典で見つけたページ
小学生の頃、実家の書棚にあった『学習百科事典(小学館?)』をペラペラめくっていると、ふと、美しい図形が描いてあるページ(下図参照)に目が留まりました。
間もなく、実家の引っ越しのため、書棚を整理する際、この事典も廃棄処分されることになったのですが、親の目を盗んでこのページだけ切り離して、大学時代の下宿先に持参しました。
ところが、大学で友人と“作図問題”が話題になった際、『正七角形の作図法を知っているか?』と尋ねたところ、『正七角形は作図できないはず。正十七角形の間違いでは?』と返されてしまいました。
その後、ガロア理論などを学習し、友人が正しいことを認識できたのですが、一方、実家で見つけたこの百科事典のことが、ずっと頭に残ったままでした。
2.作図とは?
そもそも『作図』とは何か?ということを明確にする必要があります。作図とは、(線を引くための)定規およびコンパスだけを用いて図形を描くこと、というのが大雑把な定義といえるでしょう。
教科書によっては、定規の“目盛り”を使えば、角の三等分が可能という事実をコラムなどに掲載しているものもありますが、数学的な意味としての『作図』では定規の“目盛り”を使えません。
3.正十七角形が作図できる理由
上述の『定義』に従えば、直線および円周の交点を求めることが作図になりますが、直線および円(周)の方程式は1次方程式または2次方程式ですので、これらの“共通解”も、やはり、2次(以下の)方程式を解くことに帰着されます。
ここから、いよいよガロア理論の登場なのですが、内容が難しいため、雰囲気だけでもお分かりいただけると嬉しいです。
まず、正n角形が作図できることは、n次方程式『x^n-1=0』の解が1次方程式または2次方程式を用いて得られることと同値になります。ここで、『x^n』は、xのn乗を表します。
次に、n乗して初めて1になる数(複素数)を“1の原始n乗根”と呼び、『x^n-1=0』を解くことで、“1の原始n乗根”が得られます。
次に、“1の原始n乗根”を有理数全体の集合に加えて、四則演算に関して閉じた集合(=体といいます)を作れば、この体と有理数体(=有理数全体は四則演算に関して閉じているため体です)の拡大次数(=ベクトル空間としての次数)が『n-1以下』となります。(∵ x^n-1=0のため、この体の元をn乗すれば、必ず、(n-1)乗以下の元で表せるためです。)
最後に、n次方程式『x^n-1=0』の解が1次方程式または2次方程式を用いて得られることは、この体の(有理数体上の)拡大次数が“2のべき乗”であることと同値になります。(←作図の際、定規とコンパスで交点を求める都度、有理数体から出発して2次の拡大体をつぎつぎと積み重ねていくイメージです)
なお、この体の(有理数体上の)拡大次数は、オイラーの関数“φ(n)”に等しく、特に、nが素数の場合、φ(n)=n-1であることが知られています。
したがって、例えば、nが17の場合、17は素数ですので、φ(17)=17-1=16=2^4となり、正十七角形は“理論上”作図できることになります。
ただし、あくまでも“理論上”作図できるに過ぎず、具体的な作図方法(定規やコンパスの動かし方など)を求めることとは、また別の問題です。
興味のある方は、例えば、以下のサイトをご覧いただくとよいでしょう。
https://www.youtube.com/watch?v=SuqnU-cGUCM
3.正七角形が作図できない理由
7が素数であることに注意すれば、上記のとおり、正七角形が作図できるためには、φ(7)=7-1=6が“2のべき乗”である必要があります。しかし、φ(7)=6=2×3となってしまいますので、正七角形は作図できません。
4.どの程度の近似か?
理論上、正七角形が作図できないにしても、百科事典に“近似的な作図法”が紹介されている以上、実務に耐えられる程度の誤差であることが期待されます。
実際、以下のサイトでは、半径の長さと多角形の頂点の数を指定すれば、瞬時に正多角形の一辺の長さなどが計算できます。
https://keisan.casio.jp/exec/system/1166416582
例えば、半径を1、n=7とすれば、上記のサイトで、0.867767という値が得られ、百科事典の“近似的な作図法”では、半径1を一辺とする正三角形の“高さ”が正七角形の一辺になりますので、√3/2≒1.7320508/2≒0.866025となります。この結果、真の値(0.867767)と近似値(0.866025)との差異は約0.2%となり、“近似的な作図法”としてはかなり良い精度であるといえるかもしれません。
5.折り紙の威力
ちなみに、日本が誇る文化である“折り紙”で正七角形が折れる模様です。特に、(線を引くための)定規とコンパスでは“解けない”3次方程式が、“折り紙”で解ける事実は、数学の教科書などで大いに宣伝してもらいたいですね。
https://tsujimotter.hatenablog.com/entry/2014/07/07/234101
6.ピザを7等分する方法
7人家族の場合など、実際の生活の場面で“7等分”することも少なくありませんが、以下のサイトでは、アルミホイルを上手に使って“7等分”することが紹介されています。是非、日常生活に役立てたいところですね。
https://hamsonic.net/cakecut/
いかがでしたか。筆者はあと数年で定年退職を迎えますが、3つの楽しみ(島耕作を全巻読破、ドラクエシリーズを全部クリア、高木貞治先生の書籍を全て読破)をどの順番で実行しようかと、今からワクワクしています。
(ペンネーム:活用算方)