12月に引き続き1月に気になったニュースを幾つかピックアップしたいと思います。
なお、内容はすべて単なる個人的な見解であり、特定の人物や団体等を誹謗・中傷する意図は全くないことを、念のため申し添えます。
1.外貨建保険の販売会社における比較可能な共通KPIについて
生命保険協会が主催する『外貨建保険販売資格試験』テキストによれば、国内低金利環境を踏まえた外貨建保険の販売が好調である反面、それに伴う苦情も増加傾向です。
金融庁から、共通の定義に基づく比較可能な共通KPIとして、外貨建保険に関して、2つの指標「①運用評価別顧客比率」および「②銘柄別コスト・リターン」が導入される模様です。
特に、「②銘柄別コスト・リターン」では、外貨建保険の各銘柄について、平均コスト(各契約について、保険会社が支払う代理店手数料のうち、新契約手数料率と継続手数料率を年率換算)と平均リターン(各契約の購入時以降のリターンを年率換算)をプロットしたものが公開されております。
筆者が新入職員時代、米国における“Buyer’s Guide”という資料をニューヨーク事務所から入手した記憶がありますが、これは、生命保険に加入しようとするお客さまに向けて、加入時の留意点や貯蓄性商品に対する利回りの計算方法などを丁寧に説明した冊子でした。
保険商品を含めた金融商品が多様化・高度化する中、会社選び・保険選びがますます難しくなりますが、このような主務官庁の取り組みにより、少しでも契約者保護が推進されることを大いに期待したいですね。
https://www.fsa.go.jp/news/r3/hoken/20220118/20220118.html
2.主務官庁への言葉遣い
いわゆる“パブリックコメント制度”は、かなり定着してきましたが、“コメント”としての主務官庁に対する“言葉遣い”がまだまだ未熟なように思います。
保険会社向けの総合的な監督指針が改正され、監督指針Ⅱ-4-2-1(4)①において、特定保険募集人等の教育について新たに、“また、公的保険を補完する民間保険の趣旨に鑑みて、公的保険制度に関する適切な理解を確保するための十分な教育を行っているか。”という一文が追加されましたが、免許事業者として、主務官庁への言葉遣いの「教育」も同時並行で是非進めていただきたいと思います。
なお、「特定保険募集人」とは、保険業法第276条に規定されるもので、生命保険募集人が含まれます。
https://www.fsa.go.jp/news/r3/hoken/20211228/20211228.html
3.ネット販売の罠?
トイレの“トラブル”を解決しようとインターネットで修理業者を検索し、上位に出てきたサイトで依頼した結果、高額料金を請求される“トラブル”が増えている模様です。
消費者心理としては、
1)昼夜を問わず、とにかく早く修理したい
2)インターネット検索で上位にくる修理業者が信頼できる
3)インターネットで修理業者に連絡すれば人件費などのコストが抑制されるため、修理代金も安価で済む
といったものが考えられます。
しかし、インターネット検索で上位にくる業者は、“利用者が多い”、“利用者の評判がよい”とは限らず、お金を払えば意図的に上位に配置できる仕組みが、検索サイト運営会社の大きな収益源であることを含め、適正なインターネット利用の一環として、学校などでもっと周知徹底する必要があるように思えます。
東京都下水道局がツイートした「強い絵面」を見ると、ついつい、“どれだけの水圧で人間は上昇するのか?”という依頼を探偵ナイトスクープに送りたくなります。
なお、「950円〜」という表示で25万円を請求された事例もあったようです。数学的には、もちろん、「950円〜」の中に25万円は含まれるのですが。。。
https://www.buzzfeed.com/jp/sumirekotomita/toilet-tsumari-gesuidokyoku?ref=hpsplash
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2201/18/news161.html
4.後発の健康チャレンジ?
“健康チャレンジ”とは、以前、某生命保険会社が定期保険の更新時に再度、告知などを行うことで一定の健康水準を維持していれば更新後の営業保険料を(新契約よりも)割安にするものでした。しかし、一部のファイナンシャル・プランナーからは、
1)更新時の告知内容次第では、更新後の営業保険料が逆に割高になる
2)定期保険(特約)の自動更新制度は被保険者の権利である
3)たとえ、被保険者の体況が芳しくなくても新契約と同じ保険料が適用されるべき
などの理由で、取り扱いが停止されたと聞いております。
一方、収入保障保険などにおいて、契約の途中からでも保険料引下げが可能となる取扱いが2020年4月から開始され、累計5,157件(2022年1月7日時点)で、禁煙や健康状態(BMI、血圧)の改善に成功された生命保険会社が登場しました。
加入時のお客さまの健康状態だけではなく、加入後所定の期間内に喫煙またはBMI値や血圧が改善し会社が定める基準に適合した場合、その後の保険料が低減し、かつ、契約日に遡った保険料差額相当額を「健康チャレンジ祝金」としてお支払いするものです。
特に、加入時に遡って保険料差額をお支払いする制度は、とても魅力的な取り扱いであると思います。是非、多くの保険会社が追随されることを期待したいですね。
https://www.himawari-life.co.jp/-/media/himawari/files/company/news/2021/a-01-2022-01-17.pdf?la=ja-JP
5.粒子線治療の保険適用拡大
『生保商品の変遷 アクチュアリーの果たした役割《改訂版》(保険毎日新聞社)』165ページによれば、千代田生命と富国生命によって平成4年4月に『高度先進医療特約』が開発されました。現在では、『先進医療特約』として発売され、医療保険などの特約として好調な販売状況と聞いております。
なお、同特約の給付対象は厚生労働省からの告示で具体的な先進医療が規定されるため、加入後に同告示が改正された場合は、改正後の告示が適用される点が特徴的です。
今月の医療技術評価分科会で、肝内胆管がんなど5つのがんに対する粒子線治療について保険適用が妥当と判断され、今年4月から全額保険適用となる見込みです。このため、同特約の給付対象からは外れる可能性が出てきました。
また、先進医療に位置づけているがん治療については、22年度から見直しを進めて、保険適用にするものや先進医療の枠組みから外すことも検討される模様です。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA1853F0Y2A110C2000000/
6.保険金支払いにAI導入
損害保険の自動車保険については、AIを使って保険金支払を無人化し、支払までにかかる時間を約2週間から30分程度に大幅短縮できることが、昨年11月、損害保険会社からアナウンスされました。ただし、修理工場などからは異論も出されている模様ですが。
一方、生命保険業界では、もともと診断書など画一的な書類が多く、AIによる分析がし易いため、デジタル技術の導入で支払いが迅速化しやすい模様です。
具体的には、従来2~7日程度かかる医療保険の給付金などについて、22年度以降は申請から入金まで5分以内にしたり、入院給付金支払を最短で退院翌日に完了する取り組みを始める生命保険会社も登場する模様です。
お客さまの利便性向上に向けて、AI技術を大いに活用していただきたいところですね。
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2201/17/news062.html
7.地震に起因しない津波
“地震・噴火・津波”は、生命保険約款上、“(災害)保険金・給付金”に対する免責条項に登場しますが、“津波”は“地震”によって引き起こされるという“先入観”を有する業界関係者も少なくないように思えます。(筆者もその一人でした)
今回のトンガ噴火では、噴火による気圧の急変が影響して潮位が上昇したと推定されるため、通常の津波とは異なる「潮位変化」として取り扱われ、「地震保険に関する法律」に基づき、「潮位変化の原因が噴火であれば支払対象となる」とのコメントが日本損害保険協会からなされました。
新型コロナウイルス感染症に続いて、噴火による「潮位変化」という事象で、これまで想定し得なかった事態も含めて、保険会社での支払いルール整備が必要かもしれませんね。
https://www.jiji.com/jc/article?k=2022011901108&g=soc
8.データは誰のもの?
IC乗車券「Suica(スイカ)」が保有するデータの販売を検討する旨をJR東日本が発表された模様です。
IC乗車券としては、「PASMO(パスモ)」も有名ですが、推計発行枚数はそれぞれ、8,000万枚および4,000万枚だそうです。https://japan.cnet.com/article/35160613/3/
駅の利用状況のビッグデータを企業や自治体などに提供し、沿線での事業やまちづくりに役立ててもらう狙いで、定期券以外の利用を性別や年代で1時間ごとに集計し、1カ月平均のデータを提供することで匿名性を担保し、データ提供を希望しない利用者はホームページなどで要望すれば除外されるよう。くれぐれも、個人情報が流出しないよう厳格な仕組みが必要ですね。
なお、生命保険会社も膨大なデータを有しますが、当該データを活用した商品・サービスの開発など、お客さまにとって利便性が向上するような利用推進が期待されます。
https://news.yahoo.co.jp/articles/17800f122494cb6c57a9bab42846aeac3a5433de
いかがでしたか。筆者は幸い、1月22日に開催された、「2021年度アクチュアリーセミナー」(日本アクチュアリー会)に社会人枠で参加させていただけましたが、上記のAIに関連して、“将来的にアクチュアリーの仕事がAIに奪われないか?”という学生からのご質問が印象的でした。2022年も少しでも明るいニュースが増えることを願っております。
(ペンネーム:活用算方)