2020年6月26日に『「経済価値ベースのソルベンシー規制等に関する有識者会議」報告書』が金融庁から公開(https://www.fsa.go.jp/news/r1/sonota/20200626_hoken/01.pdf)されましたが、当該報告書を踏まえて、2021年6月30日に『経済価値ベースのソルベンシー規制等に関する検討状況について(以下、「本件報告書」という。)』が金融庁から公開(https://www.fsa.go.jp/policy/economic_value-based_solvency/20210630/01.pdf)されました。
そこで、今回のコラムでは、本件報告書の中から、アクチュアリー第2次試験(専門科目)に役立つ内容を幾つかご紹介いたしましょう。
1.検証体制
EV(エンベディッド・バリュー)などの開示の際、外部の第三者機関(例.コンサルティング会社など)にレビューを依頼することが多いのですが、本件報告書(109ページ付近)においても、“3.4 外部検証のあり方”で、“外部検証を制度に組み込んでいくことも選択肢として考えられる”との記述があります。
特に、現行のファクターベースの健全性指標に比べると、僅かな前提条件の差異が計算結果に大きな影響を与えうることも想定されますので、恣意性排除・透明性確保の観点から、是非、外部検証を制度に組み込むことが望ましいように思われます。
2.大手社ほどリスク係数が小さい?
本件報告書(37ページ)の表24において、“いずれの商品区分・リスクについても、保険料や支払備金等の規模が大きい社ほど、リスク係数の水準が低くなる傾向が見られた。”とあります。
結論としては妥当な気がしますが、あえて深読みすれば、“経済価値ベースのソルベンシー規制は既存大手社にとって有利な制度となり、ひいては、新規参入の障壁となるのでは?”という議論を惹起する可能性があるかもしれません。
この“リスク係数”の設定は、内部モデル活用と合わせて慎重な議論が必要な重要論点の1つとなるでしょう。
3.85%/65%
本件報告書(18ページ)の表10でMOCEの信頼水準(生命保険85%、損害保険65%)が記載されています。
MOCEとは何か、MOCEの信頼水準はどのように算出されるのか、生命保険と損害保険で当該信頼水準が異なる理由は何か等、これから本格的に経済価値ベースのソルベンシー規制を学習される方々にとっては、このような具体的な数値例からスタートされるとスムーズに学習できるかもしれません。
4.保険会社内部における各部門の役割
上述の通り、経済価値ベースのソルベンシー規制においては、外部検証を含めた全体のフレームワークを如何にして効果的に構築していくかが重要な論点となります。
特に、保険会社内部における各部門の位置づけ・役割について、例えば、主計部門・収益管理部門、リスク管理部門、監査部門、取締役(会)などが、どのような役割を担うのか、また、保険計理人を含めた社内アクチュアリーがどのように関与していくのかを、今のうちからしっかりと議論しておく必要があるでしょう。
なお、業界団体である生命保険協会および日本アクチュアリー会においても、本件テーマに関しては鋭意検討がなされているものと推測されますので、今後、どのような意見や提言が登場するのかが、大いに注目されるところですね。
5.アンケートベースから報告徴求ベースへ
従前のFT(フィールドテスト)はアンケートベースであり、各保険会社の参加については任意協力の要素が強かったようにみえますが、今年以降の同テストからは、保険業法第128条に基づく報告徴求ベースになる模様です。
なお、保険業法第128条に基づく提出資料としては、例えば、『決算状況表』が該当します。
6.アクチュアリー試験対策
経済価値ベースのソルベンシー規制は、アクチュアリー第2次試験(専門科目)の時事ネタとして筆頭に上がるテーマだと思われます。
例えば、各保険会社における今後の諸政策(例.商品政策、販売政策、投資政策など)にどのような影響を与えるかを、プレスリリースやディスクロージャー資料などを通じて把握・分析することは試験対策としても有効でしょう。
実際、例えば、地銀株売却、変額保険推奨、有期型推進、再保険活用などの動きが業界でみられるようですが、“対応策の具体例”として、これらの内容を把握しておけば、出題内容によっては、そのまま解答に利用できるチャンスがあるかもしれません。
7.今後の姿
リーマンショック、新型コロナウイルス感染症など、大きなリスクイベントが相次いで、経済価値ベースのソルベンシー規制については、国際会計基準と同様、本格導入の先送りが繰り返されてきた感が否めません。
しかし、このように大きなリスクイベントが発生した場合に備えて、健全性を十分に確保しておこうというのが制度導入の趣旨であるはずですから、2025年というマイルストーンは絶対に先延ばしにできないタイムラインであると考えられます。
短期的にみれば、提供商品の矮小化、契約者配当水準の引き下げといった、お客さまにとってご負担を強いる可能性もありますが、中長期的にみれば、保険会社の健全性を確保することで業界に対する信頼回復、そして、何よりも保険金・給付金などの支払いがより確実なものとなり、(見込み客を含めた)お客さまにとってより良い制度の導入になるはずです。
場合によっては、銀行・証券などの業界の垣根を越えて、金融事業全体としての安定化・健全化に資する制度に仕上げていく必要が(究極的な目的として)あるのかもしれません。
いかがでしたか。別のコラム「告示48号の改正」と同様に、本件内容も、アクチュアリー試験の時事ネタの1つになるものと思われます。特に、第2次試験(専門科目)で決算・会計科目(例.生保2、損保2など)を学習される方々にとっては必須知識と言えますので、是非、本件報告書を熟読されることをお勧めします。
(ペンネーム:活用算方)