これまで、DBについて、簡単に説明してきましたが、皆さんが気になるところは、
アクチュアリーがどんな風に活躍しているのかだと思います。
今回は、DBにおける年金アクチュアリーに役割について、簡単にまとめていきたいと思います。
なお、前回の記事(年金アクチュアリーと年金数理人って何が違うの?)でも説明した通り、
正確には年金アクチュアリーと年金数理人は似て非なるものですが、
ここでは、年金数理人のみができることも含めています。
<数理計算>
アクチュアリーといえば、やはりまずは数理計算です。
アクチュアリー会のHPでも、「数理業務のプロフェッショナル」と謳ってるくらいですからね。
年金アクチュアリーが計算するものは、主に「掛金」と「数理債務・最低積立基準額」で、
さらにこれらに付随するものを計算します。
とはいえ、今の時代、アクチュアリー自身が紙と鉛筆や電卓でゴリゴリ計算することはありません。
基本的には、システムが計算してくれます。
(たまにシステム化が間に合っておらず、エクセルで計算しなければいけないものもありますが、
それでも計算自体はPCが実行してくれます。)
コンピューターが計算をしてくれる時代に、アクチュアリーは何をしているかというと、
大きく2つ役割があると思います。
1つは、システムの計算が正しいかの検証です。
いくらシステム化されていると言っても、それが必ず正しいかというと、
間違っている場合があるかもしれません。
システムがブラックボックス化してしまわないためにも、
アクチュアリーが計算結果を検証することは必要なことです。
必要に応じて、システムロジックの修正・改訂もアクチュアリーの役割に入るでしょう。
もう1つは、計算前提の決定です。
計算自体はシステムが行なってくれるのですが、
計算前提を変えれば当然計算結果も変わってきます。
計算前提が妥当かどうかを判定したり、
決定したりすることはアクチュアリーの重要な役割だと思います。
計算前提の最たるものが「基礎率」です。
特に、脱退率や昇給率は、企業によって様々であり、データ量が十分でないことも少なくありません。
その中で、妥当な計算前提を決定することは、非常に責任感のある役割だと思います。
<利源分析>
DBでは毎年決算を行いますが、計算前提に基づいて掛金を決定していますので、
当然その前提とのズレにより、差損益が発生します。
差損益の発生原因を分析すること(利源分析)もアクチュアリーの役割です。
利源分析を行う目的は、主に2つです。
1つは、企業にその差損益の理由を説明できるようにするためです。
企業は決算の結果を見ると、当然差損益の理由が知りたくなります。
特に損失が発生している場合は、事細かに理由を確認されることも多いです。
(その原因によっては、退職金制度や人事制度の見直しにつながります。)
もう1つは計算ミスの発見です。
上記の計算結果の検証のために利源分析を行います。
差損益の発生には必ず理由が存在します。
その理由が見つからない場合には、単に計算ミスをしている可能性があります。
<国(厚生労働省)へ提出する書類への署名>
DBに関する数理計算の結果は、厚生労働省に提出する必要があるものがあります。
その書類に署名することもアクチュアリーとしての大きな役割です。
署名というとただ名前を書くだけと思われるかもしれませんが、
この署名には大きな責任が伴います。
確定給付企業年金法には、以下のような条文があります。
(年金数理関係書類の年金数理人による確認)
第九十七条 この法律に基づき事業主等又は連合会が厚生労働大臣に提出する年金数理に関する業務に係る書類であって厚生労働省令で定めるものについては、当該書類が適正な年金数理に基づいて作成されていることを次項に規定する年金数理人が確認し、署名押印したものでなければならない。
(確定給付企業年金法より引用)
つまり、数理計算の結果やその妥当性を年金数理人が確認することが法レベルで規定されているのです。
数理計算や利源分析は、言ってしまえば能力さえあれば誰でもできます。
アクチュアリーの卵(準会員や研究会員)でもできますし、
アクチュアリーを志していなくてもできるのです。
アクチュアリーとしての役割は、専門家としてその結果に責任を持つということだと思います。
<企業への説明>
計算結果や分析結果を顧客である企業へわかりやすく説明することもアクチュアリーの役割です。
いくら正確であっても、自分だけが理解できていれば良いというものではありません。
専門性が高い内容や非常に複雑な計算であっても、それをかみ砕き、
企業の担当者にご納得いただく必要があります。
説明相手は場合によっては、企業の部長や役員クラスです。
企業にとっては、今後の経営に影響する場合もあるため、わかりやすくかつ正確な説明が必要です。
アクチュアリーが説明能力が必要であると言われる所以でもあります。
<コンサルティング>
年金アクチュアリーとしてコンサルティングを行う場合もあります。
コンサルは主に2つの面があります。
1つは制度面のコンサルです。
DB制度のコンサルはもちろんですが、退職金全体をトータルコーディネートする場合もあります。
コンサル自体は、アクチュアリーでなくてもできますが、
企業のニーズに沿った提案は、高い専門性が必要となります。
さらにアクチュアリーなら数理面を考慮したコンサルが可能となります。
もう1つは運用面のコンサルです。
DBでは資産運用を行っていますが、運用方針も企業によって様々です。
アクチュアリーが運用面に関わることは少ないですが、こちらもアクチュアリーならではのコンサルが可能となります。
<コンプライアンス(法令等遵守)>
DBはDB法に基づいた制度ですので、当然法令を遵守する必要があります。
そのために法令を熟知しておく必要があり、それはアクチュアリー試験で一定担保されていますが、
法令違反とならないかどうかは常に意識しておく必要があります。
企業の要望であってもそれが法令の要件を満たさないのであれば、
はっきりと「NO」と言う必要があります。
また、法令を遵守するだけではなく、
適正な年金数理に基づいて年金制度が健全に運営できるようにしなければなりません。
例えば、法令の範囲内で企業が要望してきたことであっても、年金数理的に適正でなかったり、
従業員の不利益が懸念されることであれば、
アクチュアリーとして注意を促さなければなりません。
法律やその趣旨を理解し、企業・従業員のどちらの目線も持った中立な立場で、専門家としての意見を述べることもアクチュアリーの重要な役割です。
以上、私の主観も入っているかもしれませんが、アクチュアリーとしての役割を並べてみました。
どの役割も重要かつ責任のあるものであり、非常にやりがいがある仕事だと思います。
皆さんも是非アクチュアリーとして活躍してこれら以上の役割を担ってください!