―現職にいたるこれまでの経歴を教えてください。
理工学部数理科学科を卒業後、アクチュアリーになるべく損害保険会社に入社しましたが、配属されたのはリテール営業の山梨支店。最初は業務課所属もやがて営業課へ異動。「なぜ営業に!?」と思いましたが、この経験によって培われたコミュニケーション能力が、のちに私を支える大切な基盤となりました。
その後、商品部門、法人営業や銀行窓販生命保険会社への出向を経験したのち、日本初のネット専業生命保険商品の立ち上げメンバーとして転職。そこで5年弱、商品企画部、営業管理や広報も担当し、立ち上げた商品のメディア対応やイベント企画などの幅広いプロモーション戦略の立案を経験しました。
現在のチューリッヒ生命に入社したのは2012年。長期間低迷していた業績を立て直すため、再生プランを推し進めている日本支店の代表に誘われたのです。
―現在の仕事内容を教えてください。
チーフ・マーケティング・オフィサーとして入社しましたが、実際に携わっている仕事は非常に多岐にわたります。商品企画、商品の収益管理をはじめ、マーケティング、ブランディング戦略立案と実行、広報、社内のWeb管理、CSR、さらにはダイバーシティ(働き方の多様性)を推進するアンバサダーもやっています。
当社は従業員数200人弱の小さな外資系企業だからこそ、商品開発、マーケティング、広報等を一手に担え、プロモーション方法や販売方法を念頭に置きながら商品を開発することが可能です。金融庁との交渉にも自ら足を運び、商品認可をとるため対話を重ねていますが、大手の生命保険会社であれば、私のように40代後半の役員が折衝に行くことはまずありません。自ら行くからこそ、金融庁がどのような点を懸念しているかわかり、それが商品開発やマーケティング戦略を考える際の貴重な材料となります。さらに、ファイナンシャルプランナーや代理店の募集人の方に会って頻繁に情報共有し、個別に商品勉強会を開くことも。一人でここまでできるのは、当社ならではの面白さだと思います。
―アクチュアリーという仕事の枠をこえた幅広い活躍ですね。
マーケティングや広報をやっていると話すと、「アクチュアリーとはまったく別の仕事まで手がけていて多才ですね」といった反応をよくいただきます。でも私は、アクチュアリーの仕事と別物だと考えたことはありません。
アクチュアリー正会員になるためには、難しい数学の試験勉強は必須です。でも実際の業務で求められるのは、社内調整のためのコミュニケーション力と、それを支える論理的思考能力。ノンアクチュアリーでもわかるよう商品設計のロジックや数字について“説明”する力が重要です。私はその、総合的なコミュニケーション力を、マーケティングや広報といった分野で活用しているだけ。コミュニケーションする相手が、金融庁のみならず、メディアやファイナンシャルプランナーの方も加わるというだけの話です。
私の場合、リテール営業、法人営業でお客様の立場になって考える力を鍛えられたこと、ネット生命保険でマーケティングの重要性に気づけたことが、今の土台を作っていると思います。
―これからアクチュアリーを目指す方へ、メッセージをお願いします。
アクチュアリーが持つ数学的思考、論理的思考力はさまざまな仕事で役立つと思います。主計部や商品開発部で実績を積む、いわば「アクチュアリーの王道」ももちろん素晴らしい道ですし、私のようにアクチュアリーであることを強みにしてマーケティングや広報の分野でも力を発揮できるはず。最初から自分の可能性を狭めずに活躍の場を求めていってほしいですね。
ただそのためには、アクチュアリーの資格をとったら終わり、ではダメ。自分は何を強みにしていくのかを考え、努力し続ける姿勢が大切です。プレゼンテーション力、営業力、マーケティングノウハウ、広報の知識、そして英語力など、自分がどういうキャリアを築きたいかによって習得すべき知識は異なります。
アクチュアリー正会員になることは重要な通過点であり、原点。そこに付加価値をつけ、市場価値の高い人材になっていってほしいですね。
プロフィール
野口俊哉さん
チューリッヒ・ライフ・インシュアランス・カンパニー・リミテッド(チューリッヒ生命)日本支店。チーフ・マーケティング・オフィサー兼商品本部長。日本アクチュアリー会 正会員。