前回までは給付設計について解説してきました。
・DBの給付はどのように決まっているのか【前編】
・DBの給付はどのように決まっているのか【後編】
・リスク分担型企業年金って何?
今回からは財政運営の話に入ります。
財政運営とは、年金財政の均衡が保たれるよう、適切な掛金額を計算したり、
積立金の水準をチェックしたりすることを言います。
今回は、財政運営の全体像について解説します。
<財政運営の目的>
財政運営の目的は、年金財政の均衡が保たれること、
すなわち、年金制度の収支が相当するように運営していくことです。
ここでポイントとなるのは「制度全体で収支相当すれば良い」ということです。
年金数理を勉強する際は、「制度全体」という感覚をつかんでいないと
よくわからなくなることがありますので注意が必要です。
この「制度全体」という感覚が生保数理とは異なるため、
年金数理を勉強し始めると戸惑う受験生が多いのだと思います。
年金数理は、なぜ制度全体で考えるかというと、
DBでは個々の従業員がお金を出してるわけではなく、 企業がDB全体分の掛金を拠出しているからです。
ですので、制度全体でみてうまく収支がバランスしているかが財政運営のポイントとなります。
<財政運営の流れ>
DBが新規に発足してからの財政運営の流れは以下のようになります。
①発足時の掛金を計算する「財政計算」
②年に1度、積立金の水準をチェックする「財政検証」
③少なくとも5年に1度掛金を計算しなおす「定期的な財政再計算」
④給付設計が変更になった場合等に掛金を計算しなおす「制度変更による財政再計算」
時系列でイメージすると、
①⇒②⇒②⇒・・・⇒②⇒②③⇒②⇒④⇒②⇒・・・
という感じで、
①は最初だけ、②は毎年、③は少なくとも5年に1度②の直後、④は制度変更のタイミングのみとなります。
①から④について、もう少し詳しく見てみましょう。
①財政計算
DBを新設するために給付設計が決まったら、まずは、掛金を計算する必要があります。
基礎率を設定して、給付設計に応じた標準掛金を計算します。
基礎率とは、予定利率や予定死亡率、予定脱退率、予想昇給率等です。
標準掛金を計算し、標準掛金だけでは足りない(過去勤務債務が発生する)場合は、
特別掛金も計算します。
(掛金の詳しい説明は「DBって掛金の種類多くない?【前編】」をご覧ください。)
財政計算での計算結果は、適正な年金数理に基づいて計算されていることを
年金数理人が確認する必要があります。
この計算結果をまとめた書類に年金数理人が署名押印したものを厚生労働省に提出し、
無事に認められると、晴れてDBが発足することになります。
計算された標準掛金と特別掛金は、DBが発足する月から定期的に企業が拠出することになり、
積立金として積み立てられていくことになります。
②財政検証
「財政検証」とは、積立金が十分に積み立てられているかを検証することです。
必ず年1回は財政検証を行うことが法令で定められています。
DBでは、年に1回、DBだけの決算を行いますので、そのタイミングで財政検証を行います。
DBには積立金の水準をチェックする基準として、
「継続基準」と「非継続基準」と呼ばれる2種類の基準があり、
この両方の積立水準をともに満たしているかどうかを確認します。
また、「積立上限」というものもあり、積み立て過ぎていないかどうかも確認します。
これらのどれかにでも基準に抵触すれば、掛金を計算しなおす必要があります。
(財政検証の詳しい説明は「DBの財政検証は何のためにあるのか?」をご覧ください。)
財政検証の計算結果についても、適正な年金数理に基づいて計算されていることを
年金数理人が確認する必要があります。
この計算結果をまとめた書類に年金数理人が署名押印したものを厚生労働省に届け出る必要があります。
③定期的な財政再計算
「財政再計算」とは、掛金を改めて計算しなおすことです。
DBでは、少なくとも5年に1度は掛金を再計算するよう、法令で定められています。
これを財政再計算の中でも「定期的な財政再計算」などと呼びます。
多くの企業では5年ごとに再計算を行いますが、「少なくとも」ですので、
3年ごとに再計算する企業なども存在します。
定期的な財政再計算では、最新の実績を考慮した基礎率を使用して、標準掛金を計算しなおします。
そして、標準掛金だけでは足りない(過去勤務債務が発生する)場合は、特別掛金も計算します。
やっていることは、ほとんど財政計算のときと変わりません。
(掛金の詳しい説明は「DBって掛金の種類多くない?【前編】」をご覧ください。)
定期的な財政再計算の計算結果についても、適正な年金数理に基づいて計算されていることを
年金数理人が確認する必要があります。
この計算結果をまとめた書類に年金数理人が署名押印したものを厚生労働省に届け出る必要があります。
④制度変更による財政再計算
給付設計が変更になった場合等は、当然必要な掛金額も変わってきます。
したがって、この場合も財政再計算を行います。
やるべきことは定期的な財政再計算と変わりませんが、基礎率は必要な分だけ洗い替えます。
例えば、「給付水準を一律1.1倍に増額する」といった制度変更があった場合、
この制度変更によって脱退や昇給の傾向が変わるわけではないので、
予定脱退率や予想昇給率は、変更せずに掛金を計算するということもあります。
また、「ポイント制度においてポイント体系が変わった」といった制度変更であれば、
ポイントの伸び方がこれまでとは異なりますので、予想昇給率を変更する可能性が高いですし、
「企業の合併によりDBの加入対象者が拡大された」といった制度変更であれば、
合併した 2社の退職の傾向が異なれば、予定脱退率を変更する可能性が高いです。
(この辺は、本当にケースバイケースであり、一概には言えません。
年金数理人がその専門性に基づいて 個別に判断する必要があります。)
制度変更による財政再計算の計算結果も、適正な年金数理に基づいて計算されていることを
年金数理人が確認する必要があります。
この計算結果をまとめた書類に年金数理人が署名押印したものを厚生労働省に提出し、
無事に認められると、この掛金額が適用されます。
以上が財政運営の全体像です。
この全体像を押さえたうえで、
・DBって掛金の種類多くない?【前編】
・DBって掛金の種類多くない?【後編】
・DBの財政検証は何のためにあるのか?
を読むと理解しやすいと思いますので、これらの記事も是非読んでみてください。